ダイヤモンドマン

リエミ

ダイヤモンドマン


 大富豪の自己満足で、全身ダイヤでできた人形が作られました。


 身長1メートルほどです。


 ダイヤモンドマンと呼ばれ、大富豪は常に持ち歩きました。


 ダイヤモンドマンは精妙に作られていて、心を持ち合わせていましたので、自分を大切にしてくれる大富豪のことを大好きになりました。




 ある時、ダイヤモンドマンが自分があまりにも輝いていて眩しいので、大富豪のそばでご主人の顔を見つめておりますと、大富豪はそれに気づいたのか、お付きの者にあるものを持ってこさせました。


 そしてそれをダイヤモンドマンにくれたのです。


 サングラスでした。




 大富豪はクルージングに出かけました。


 小さな船でした。


 しかし沖へ出た時、事件が起きます。


 船がサメに囲まれてしまったのです。


 焦った大富豪とお付きの者たちは、救助のヘリを要請しました。


 ヘリはすぐに飛んできました。


 世の中はどれだけお金をもらえるかで、急いだりできるのです。


 そして大富豪たちは、空から伸びるロープにしがみつきました。


 ヘリは大きかったのですが、お付きの者が多いので、最後の一人が乗れません。


 それはダイヤモンドマンでした。


 大富豪は、サメに襲われるダイヤモンドマンを、ヘリから眺めました。


 ダイヤモンドマンも、壊れていく船と沈みながら見つめかえしました。


 そして、自分が捨てられたことを知ったのです。




 ダイヤモンドマンは海の底に沈みました。


 サメに喰われても、ダイヤが硬いので傷ひとつつきません。


 そして海底で光り続けました。



 魚たちが興味を持って寄ってくるのが、はっきりと見えます。


 サングラスをなくしたせいです。



 悲しいダイヤモンドマンの胸は、不安でいっぱいでした。


 ここでは何の音も届きません。




 かれこれ3年経ちました。


 ダイヤモンドマンは体中に藻をつけて、光ることもやめました。


 そしてすべての希望をなくしかけたその時、一人のダイバーが通りかかったのでした。



 ダイバーは1メートルの藻を発見し、新種の魚かと思って、引き上げることに決めました。


 大きいので、海面にボートを止めて、網を下ろして引き上げました。


 引き上げる時に、藻が少しはがれました。


 そこで陽の光を受け、ダイヤモンドマンの希望も輝いたのです。



 ダイバーは慌てました。


「おい、ニュースになったら持ち主に横取りされちまう。謝礼金なんてしょぼい。このまま売りさばくぜ」


 と、ダイバーは仲間に言って、夜の街へ繰り出しました。



 ダイヤモンドマンにはコートを着せて、足の裏にコマを付けて引きました。


 居酒屋の一角で、ダイバーは闇の宝石商と取引をし、多額の金を受け取りました。




 宝石商は自分の店に持ち運び、誰もいないところでコートを取り、調べました。


 全身ダイヤのダイヤモンドマンです。


 こんなものは今まで見たこともありません。


 さっそく、宝石商は自分の知っている、ありとあらゆる金持ちに電話をし、競売にかけ始めました。




 最高額の高値で買い落としたのは、青年実業家でした。


 親の資産で会社を設立し、いろんな事業に手を出しています。


 その年収ははかりきれません。


 コネなんかも、わんさかあるのです。


 実業家は天下に昇りつめたお祝いに、ダイヤモンドマンをそばに置くことで、権力の象徴を見せつけました。




 しかしダイヤモンドマンの心は満たされません。


 眩しくても、サングラスもかけてもらえないのです。


 希望のように見えていた光が、今や眩しいだけとなった幻のようでした。




 そしていく日か過ぎた頃、突然、実業家はダイヤモンドマンを棒で殴りつけました。


 新しく手を出した事業が失敗したのです。


 頂点を見た者は、あとは下ることしか知りません。


 腹いせに殴られたあげく、ダイヤモンドマンはまたコートをかけられ、青年と二人きりあてもなく街へ出ました。




 ダイヤモンドマンの体は傷つきません。


 心は深い傷だらけです。




 青年は昔持っていたコネで助かろうとしましたが、お金のない者には冷たいという現実を知りました。


 しばらく、路地裏で眠る日々が続いたある日、ついに、青年は見栄も権力も必要ないと察したのか、ダイヤモンドマンを売りに行くことに決めました。




 今度はどこへ売り飛ばされるのか、とダイヤモンドマンは思いました。


 自分の人生は、ただ人に買われ、人の事情で売りさばかれ、手から手へ、渡り過ぎてゆくだけなのです。



 そして、ある邸宅に着きました。


 何だか知っているような気がします。




 出てきた執事に、青年は事情を話します。


「旦那様に昔、よくしてもらいました。しかし今の僕は昔と違います。必要最低限の費用でいいので、これを買ってください。僕はそこからやり直します」


 執事は中へ通しました。


 そして話がまとまったのか、青年は一人出て行きました。




 残されたダイヤモンドマンの前に、見覚えのある顔が近づきました。


「よく帰った。どうやらこれも運命のようだ。あの日のことはすまなかったね、本当に、すまなかった」


 コートを取ってくれたその人は、最初の持ち主の大富豪だったのです。


 ダイヤモンドマンは驚きと喜びでいっぱいでした。


 そんなダイヤモンドマンに、大富豪はそっと取り出したサングラスをかけてくれたのです。




 夜のことでした。


 ひっそりと寝静まった大富豪の枕元に、黒い人影がありました。


 人影は長いロープで、大富豪の体をベッドに縛りつけました。


 驚いて目覚めた大富豪の視線の先に、コートを着せられたダイヤモンドマンの姿が映りました。


 そして人影はそれを抱えて部屋を出たのです。


「大丈夫ですか!?」


 慌てて駆けつけた警備の者が、大富豪に言いました。


「犯人の顔を見たのですか?」


「ああ、あれはたしかに……」


 大富豪は言いました。


「ダイヤモンドマンを売りに来た男だ」




◆ E N D

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