少女は記憶を失くしても尚、大切な人たちの絆を忘れない。

 この世ならざるもの、アヤカシと触れ合い、共存する少女、秋月燈はある事件をきっかけに記憶喪失になってしまう。アヤカシの存在を忘れてしまった彼女は、アヤカシを見ることができない。その存在を忘れてしまったはずなのに、生活の中で空虚を感じる。その虚しさの正体を探そうと、彼女は失われた記憶を探し求める。
 どこまでも真っ直ぐに、自分のしたいことを貫き通す燈。
 それに惹かれるように、彼女の傍にいる人たちは突き動かされ、彼女に協力していく。やがて、彼女は失われた記憶を取り戻すことができるのか。

 日本古来から伝わる〈アヤカシ〉という存在。日本書紀、平家物語など数多の書物に書かれるそれらを、この作品では歴史書を元に克明に書きだしている。
 言葉、言霊、約束、呪い、祀ろわざるもの――日本人が身近に感じ、敬意を払ってきたものを題材に、豊富な知識量でそれを物語としている。
 さまざまな知識で裏付けされたこの重厚感ある作品は、神話の空気を感じさせるほどゆたかな描写で書き記され、心震えるほどほど切なく言葉が語りかけてくる。
 まさにこの作品に封じられた言の葉は、言霊足り得るほど美しい。

 心から読んでいただきたいと思える、群像劇だ。

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