ユーデモニクス(Eudaemonics) ─四千年の泡沫で君ヲ想フ─
あさぎかな@電子書籍/コミカライズ決定
エピソード・ゼロ 記憶を失う前の日常
とある少女の日常
これは、私こと
***
二〇〇九年九月某日、
夏の猛暑に終わりを告げて紅葉が赤く染まる頃、午後の風はだいぶ涼しくなっていた。
私はいつものように学校が終わると、夕飯の買い出しに向かった──のだが。
「緊急招集だ」と拉致──もとい、迎えに来てもらった車で回収されてしまった。ちなみに私を回収したのは警察庁、《失踪特務対策室》専属特殊部隊・零所属──通称、《ゼロ課》。私の能力を有効活用するために入った
この県の自衛隊基地に向かい、そこから光学迷彩搭載の小型の航空機で移動となった。私は航空機に乗り込むと、いつものように渡された軍服に着替える。以前、車の中で着替えようとしたら、式神と龍神に怒られたのだ。
(確かに機内で着替えるのは良いけど、制服って目立つんだよな……)
自衛隊基地では中学校の制服は悪目立つ。「はあ」と私は溜息を漏らしつつ、制服を脱ぐと、用意されている黒の軍服に袖を通す。
すでに目的地に向かって移動中なんだけど、騒音はほとんどないし揺れもしない。
「…………」
私は無言の威圧感に耐え切れず「こんな時間に召集って珍しいですね」と、龍神に声をかけた。
「そんなことを言っている暇があるのなら、さっさと着替えてください。目を閉じて背中を向けているのにも、だいぶ疲れてきたので」
どこか呆れ気味に返事を返すのは、《ゼロ課》の中でも古参に入る《
「あわわ、ごめんなさい」
「
私の影から姿を見せたのは、緋色の甲冑に身を包んだ鎧武者。その巨体は二メートルもある。彼は私と契約を結んでいる式神であり名は、
というか、気づくといつも喧嘩をしている。二人とも相当長く生きているらしいので、因縁というものがあるのかもしれない。あるとしたら──
「昔、好きな人でも取り合った中とか?」
「絶対にありませんね」
「そもそも好みが違う」
言い切った。
私は苦笑しつつ最後に黒のロングコートを羽織ると、同じく黒い刀を
「着替え終わったので、作戦会議にしましょう」
「そうですね」
「然り」
息ぴったりに言い争いをやめると、二人は私の元に集まる。
機内は四トントラックほどの広さはあるが、そのほとんどは重火器やら
とはいえ、龍神、式神と私だけなら作戦会議をする上で支障はない。私は龍神から支給された腕時計をつけた。これが作戦内容が詰まった
起動した時計の画面に触れると、今回の作戦内容及び概要がホログラムで私の目の前に現れる。一通り読んでいくと気になる部分があった。
「……あ、《
《物怪》。人の心、負の感情に引き寄せられた《アヤカシ》が混ざり合って、現世に顕現した化け物。ちなみに《アヤカシ》とは万物から生じた存在も神であり、精霊であり、妖怪であり──それらを総じて《アヤカシ》という。
「《アヤカシ》は邪気や邪念が多ければ多いほど、《物怪》となって人に害をなす。それを討伐するのが、俺らの仕事さね」
不意に機内に姿を見せたのは、グレーの軍服を着こんだ男たちだった。みな年齢は二十から三十代前半といったところだろうか。見るからに人相が悪い。軍服を着ていなければ、チンピラだ。うん、都心の路地裏とか居そう。
(都内を経由すると言っていたけど、人員増やすってことだったのね。ってか、もう東京に着いたんだ)
金髪で前髪をヘアピンでとめた男がリーダーなのか、一番チャラい。きつい香水に私は眉をしかめた。
「初めまして、《失踪特別対策室》ゼロ課のみなさん。俺らは政府に雇われた情報屋であり掃除屋……。まあ、ぶっちゃけ、何でも屋なんですわ。今回、頭数が足りないってことで、呼び出された雇われ集団みたいなもんなんで、一つよろしくお願いしやす」
やる気のない声に、気楽な口調で私たちに挨拶する。──が、龍神も式神も無言だ。「年長者でしょ、というかコミュニケーション!」と心の中でツッコみながら、私はリーダー格の男に返事を返す。
「初めまして。ゼロ課の《アキヅキ》です。今回私たちは緊急招集がかかったもので、作戦内容はじーさま……じゃなくて室長から伺ってますか?」
「まあ、だいたいは……。京都全域に顕現した《物怪》の討伐。むろん、民間人に《物怪》という存在は隠匿している。ので、可及的速やかに
「《クロサキ》さん、まだあるッス。……政府から対・物怪専用の武器が有効かどうかの実践データーの収集。つまりいくらでも補充可能な人間が、集められたってことで相当ヤバい仕事だってことっスね」
「おい、《ハイバラ》。……嬢ちゃん、すまないな」
「あ、いえ……」
「補充可能な人間」という言い方に、私はムッとした。悪い癖だと式神と龍神は言うだろう。だが、構わない。
「今回は、きっと平気です。みんな生きて帰りますよ」
全員が私へと視線を向ける。龍神と式神は目を伏せて溜息をもらす。彼らは私が何を言うのか、わかっているのだろう。
「私が出来る限りなんとかしてみます」
私はごくごく当たり前にそう告げた。
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