とある少女の日常 二
私の言葉にその場にいた全員が唖然とし、一斉に吹き出した。それはもう完全に馬鹿にした笑い声だ。なんとなく予想はしていた反応ではあったのだが──彼らの反応に龍神と式神が殺気立つ。
(のぁああああ!? 二人とも大人の対応してぇ!)
いち早く殺気に気づいたリーダーの《クロサキ》は、慌てて騒ぎを鎮める。
「おーいお前ら、騒ぐのはその辺にしておけ。こちとらピクニックに来ているわけじゃないんだ。ほらほら、各自さっさと積んである荷を取り出して準備しろ」
《クロサキ》が手を叩いて騒ぎを止めると、みな「
(た、助かった……)
「フン、……命拾いしたのう」
「次はないですけれどね」
「いやいや。味方、味方だから!」と私は二人に詰め寄って念を押したのだった。
***
「うひょう~! 対・物怪用、
「そうッスね。これだけでも裏市場で売れば、当面は遊んで暮らせる……」
ポロポロと聞こえてくる話は、よくある無駄話だ。手を動かし、慣れた手つきで銃の装備を整える。
「違いない。だが、売ったら最後、始末されるんだろうな。武装集団、謎の化物である《物怪》の出現、ここ数年で飛躍的に向上した高度な医療技術、そんでもってこの化学兵器。この国はいつから物騒になったんだか」
「さあ、……《一九九九年のあの事件》からッスかね?」
そこ単語に私はドキリとした。自然と雑談に耳を傾けてしまう。
「あーたしかに。あの爆破テロから行方不明に、意識不明者。オマケに可笑しくなって爆破テロする民間人が増えたからな」
そう、その通りだ。あの日の事件で、世界の均衡が壊れたから。
意識不明となる《
その原因は……。
「でも、それってほとんどが《物怪》が関わった事件ッスよね。なんで政府は《物怪》の存在をひた隠しにするんスか? 人体実験の失敗から生まれた産物だって噂もあるっスけど……」
それはこの仕事をする者が一度は思う疑問。
なぜ世間に公表しないのか。
政府の後ろ暗い何かを隠匿したいからなどと、陰謀論などが囁かれる。
でも実際は、もっと根深い──
***
京都嵐山上空、十七時十三分──
秋空は宵闇に包まれ、月明かりではなく町の街灯が大地を照らす。
私と式神、そして龍神は先に嵐山の森に降りた。小さな祠を前に、山積みされた酒の樽が並べられている。これで準備は整った。あとは私が術式をくみ上げるだけだ。
これが私の仕事でもある。この地の土地神から少しの間、力を借りて術式を展開させてもらう。土地にあまり馴染みはないけど、
するとあっさりの承諾で「いいよー」と二つ返事で承諾してくれた。
(毎回思うけど、そんなに軽くていいのかな。……というか、ここの神様は気難しいって報告書に書いたのは誰だ!?)
「軽くないよー。ダメな時はダメっていうしー。ってか、キミの話は聞いてたから、会うのを楽しみにしていたんだよねー」
「私に?」
土地神様には、私の心の声など筒抜けのようだ。もっとも今は小さな白蛇に姿を変えて、私の首に巻き付いている。
「そー。
(みんな情報通だな。携帯とかないのに、どうやって情報交換とかしているんだろう)
「森は森で繋がっているから行き来は自由だよー。ウチは存在がでかいから中々出られないけどねー。つーか、この山から出たら他の影響が大きく出るしー」
「そっか。旅行にも出かけられないって、ちょっと大変だね」
白い蛇は小さな舌を出して頷いた。
「だろだろー。……お、そうだ。冬が終わったらウチと一緒に海を見にいかないか?」
「ん? 海。いい──」
「ちょっと待て」
「ちょっと待ちなさい」
式神と龍神は息ぴったりに私の言葉を遮った。
「どうしたの?」と聞く前に二人は早口でまくしたてる。
「何を考えておる! というか、気軽になんでも願いを聞き届けようとするな!」
「そうです。毎回毎回、すぐ仲良くなったかと思えば、
凄まじい形相の二人に、私は思わず後ずさりする。
「くど……? いやいや、願いとかそんな大げさなこと頼まれたことないよ?」
「そーだ、そーだ。ささやかじゃないかー」と
「どこがだ!」
「どこがですか! そもそも山の神が不在となるだけで、森の息吹が──」
「日帰りでも?」
龍神は「はあ」とため息をこぼすと、そのまま言葉を続けた。
「毎回、花見に行こう、里を見て回ろう、遊ぼう、花火を見よう、鍋をしようなどの《アヤカシ》の願いを聞き入れなくていいのですよ!」
「なんで?」と私はムキになって龍神に言い返す。
「みんな無理なこと一つも言ってないのに、どうして断るの? さすがに無茶苦茶な《約束》はしないよ! できる範囲にしてもらっているし!」
「そう──ですが、…………なら私とも……
【
会う機会。特に、恋愛関係にある男女が人目をしのんで会うこと。 (大辞林 第三版について引用)
龍神の出てきた言葉に、私はドキリと心臓が跳ね上がった。龍神はいつも鉄面皮で表情が乏しいし、いつもそっけない。ので、気づきにくいのだが、さすがに今のは私でも分かった。
「そ、それって……、そのデートのお誘い……ですか」
声が裏返ってしまったが、私はなんとか最後まで言葉にできた。
「…………」
龍神の長い
私の勘違いなのかもしれない──けれど、彼の指先に触れて答えを促す。
(うわあああ……! これでデートじゃなかったら、今後龍神の顔とか見れないいんですけど!?)
「姫、私は──」
「作戦開始三分前だ。秋月燈、準備はできているな」
突然の声に、龍神の言葉は遮られた。
「し、師匠!?」
そこに姿を現したのは、巨漢の男だった。深緑色の斜めに切りそろえられた前髪、筋骨隆々の鍛え上げられた肉体、強面の顔はどう見ても堅気には見えない。彼の名は
「…………ふむ」
浅間は瞬時に何があったのか把握し、時計へと視線を移したのち、
「三十秒で話を済ませろ」と言って去っていった。
次いで式神も所定の位置へと戻っていく。
(めちゃくちゃ短いんですけど!?)
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