第014話 「もしも願いが叶うなら」

 ドラゴンとの決戦の日だ。


 目が覚める。

 あまり良くは眠れなかった。

 それは皆そうだろう。


 けど疲れはだいぶとれている。

 体調も悪くない。


 テントを畳むと最後の打ち合わせと連携の確認をする。

 荷物はここに置いていく。

 帰りに取って戻ればいい。


 出来る限り身軽にしてから一気に岩山を目指す。

 

 そこから一気に戦いだ。







 平地の草原を数時間進むとドラゴンの住むという岩山が見えてきた。


 遠くから何匹もの飛行生物が山の周りを飛んでいるのが見える。

 

 まだはっきりとは見えないがあれがドラゴンなのだろう。


 僕らは『全速で頂上に向かって、ボスドラゴンを少しでも早く倒す』というシンプルな作戦をとっている。

 

 狙いがボスドラゴンである以上、ボスと戦う前に僕らの体力が削られるのは不利にしかならない。

 

 だから、岩山をしっかり目視で確認すると走る速度を上げて一気に頂上まで駆け上がることにする。


 僕らの接近に気が付くとすぐに3匹の灰色のドラゴンが空から襲ってきた。


 ドラゴン。

 初めてみる種族だ。

 こんなに大きい飛行生物。

 ものすごい迫力だ。


 2匹は空中から僕らに向かって炎を吐いた。


 もう一匹は急降下しながら爪で攻撃してくる。


 ドラゴンの炎はカカの火魔法で十分相殺できた。


 すぐさま重ねたハクビの火魔法で押し返すことすらできた。



 空から急下降して放たれる爪の攻撃はすごい威力だったがアナコンダ程度だろう。


 トトが作った闘気の防壁で難なく止めることができた。


 僕はそのタイミングでドラゴンに飛びつき顔面に一撃を打ち込み地面に叩き落とす。


 間髪入れずにジジが駆け寄って喉を噛み切る。


 他の2匹も数分で制圧する。


 十分に勝てる相手だと感じた。


 しかし、隣にいたトトは山の頂上を険しい顔で見つめていた。



 まだまだこれからだ!


 僕は気を引き締める。


 それから頂上付近までの間、10匹以上のドラゴンに襲われた。


 多少の傷は負うものの回復魔法で治しながら進む僕たちをドラゴンたちは足止めすらできない。


 僕らは悪くない状態で頂上まで辿り着くことができた。







 頂上のくぼみにとんでもない大きさの灰色のドラゴンがいた。


 もしあれがドラゴンというなら、今まで相手にしていた生物はドラゴンじゃないのかもしれない。

 それくらい大きい。


 今までのドラゴンと少し形も違う。

 前足がある。


「よくきたな、我の前に二度立ったものは貴様らが初めてだ。

 ずいぶん獣臭くなったみたいだが」


 あ、あれ? わかるぞ?!


 このドラゴンの言葉は理解できる。


 トト達はこのドラゴンと以前にも戦った事がある様だ。


 トトがガーシニア問いかけに答える


「ウホホ、ウホホ、ウホウホホホ」


 トトの言葉はいつも通りわからない。


「おもしろい。いいだろう。

 ガーシニアの名にかけて誓おう。

 我を倒して見せてくれ」


 ガーシニアと名乗るこのドラゴンの一言で戦いが始まった。


 先手必勝。

 トトが先制で全力闘気で灰龍グレイドラゴーンの顔まで飛び拳を叩きつける。


《ゴフ》


 鈍い音がするものの、ガーシニアは軽く殴られた程度にしか効いてない。


 間髪入れずにジジもとびこむ噛みついた。


《ガキン》


 硬すぎてジジの牙が皮膚に刺さらない。


 まずい。

 僕は一瞬で悟る。


 トトもジジも一撃必殺で全力で攻撃してるはずだ。

 

 これであの程度にしか効かないのはまずい。


「おー、こりゃ効くな。

 久しぶりに面白い相手になりそうだ」


《バサンバサン》


 スゴイ風圧に吹っ飛ばされそうになる。


 ガーシニアが翼を広げ空に舞い上がった。



 直ぐに大きな口を開け奥から光が見える。


「カカ、ハクビ!全開炎」


 僕は叫びながらも自分自身も全開に魔力を込めながら炎魔法をガーシニアの口もと目掛けて放つ。


 同時にガーシニアの口からも灰色の炎が放たれる。


 タイミング良く揃った僕とカカとハクビの炎が合わさって、ガーシニアの灰炎グレイファイガとぶつかり合う。


《グゴゴゴォオォ》


 耳をつんざく雷なような音がなりながらしばらく均衡する。


 しかし、灰炎グレイファイガの威力の方が僅かに強く押し負ける。


《ドガーン》


 だいぶ相殺されてるおかげて、僕とハクビは闘気で十分に防げるがカカはダメージを負った。


 思うより先にハクビがカカに回復魔法をかけている。


 僕が大声で叫ぶ前に皆は体を動かし初めていた。


「離れて囲むんだ」


 以前から決めてあったペアになりガーシニアを囲む様に動く。


 無防備になりやすい魔法組を闘気で守れるようにペアにするのだ。



【正面】僕とカカ

【左後方】ジジとハクビ

【右後方】トト


 3方向に分かれてガーシニアを取り囲む。

 

 カカのダメージはハクビの回復魔法で十分に回復していた。


 僕はカカを連れてガーシニアと距離をとる


 戦況は良いとは言えない。



 全力の火力でも押し負ける。

 トトの全力闘気でも勝てない。

 勝てる可能性は、数の利だけ。


「こりゃ、おどろいたな。」


 ガーシニアは笑っている様にも見える。


「我の灰炎グレイファイガでも焼かれず、未だに戦闘姿勢をとるか。

 本当に長い間待ってみるものだな」


 ガーシニアが言い終わる前にジジが動き出す。


 後方より飛びかかるが、気配を察せられ翼で叩き落される。


 時間差で飛びついているハクビが心臓近くへ闘気の攻撃を打ち込む。


 やはり大したダメージにならない。

 すぐに叩き落される。


 それを囮としてちょうどガーシニアの真後ろをとったトト。

 


 なんだあの闘気は?!



 目視でもはっきりとわかる見たことのない赤い闘気を纏ったトトがガーシニアの心臓目掛けて飛んでいく。


「キキキーーーー」


 僕のすぐ後ろでカカが叫ぶ。


 僕でも直ぐに分かった。

 カカは『ダメーーー』って叫んでいる。



 赤色のトトはうまく死角を突いていたがギリギリでガーシニアに察せられて心臓への直撃は避けられた。


 しかし、トトの突撃はそのまま右肩を貫通した。


「グガァーーー」


 初めてガーシニアから悲鳴が漏れる。


 今まで軽い傷しか与えられなかったガーシニアの外皮に穴が開いている。


 とんでもない威力だ。


 飛行状態を保っていられなくなったガーシニアは地面に降りてくる。


 それと同時にトトも地面に叩きつけられるように落ちてきた。

 

 トトは着地しなかった。

 そのまま落ちたんだ。


 赤い闘気も消えてる。

 既に意識がないようだ。


 大丈夫なのか?


 あんな赤い闘気初めてみた。


 カカがあんな風に叫んでいたことからも、とても体に負担をかける技なんだろう。


 僕の思考より早く事態は動く。

 

 トトを危険だと判断したガーシニアはすぐにトトを踏みつけようとする。


 それを読んでいたジジは、トトの前に立ち全力の闘気で防壁を張る。

 

 ハクビはトトに寄り添って回復魔法をかけている。


 防壁が壊れるギリギリ保ちながら地面にめり込んでいく3匹。


 まずい。

 僕は風魔法でガーシニアの両目の眼球を狙う。


 風のナイフが眼球を捕らえる前にガーシニアは目を閉じた。


 外皮には傷すらつけられないが、気を逸らすことはできたようだ。


 僕の方に注意を向けたガーシニアは踏みつぶそうとしている足をトト達からずらす。


 そして体をひるがえして僕の方を向くのと同時に、トトとジジとハクビを尻尾で強打した。


 3匹は数十メートル吹っ飛ばされる。

 死んではいないと思う……

 けど、もう動けないだろう……

 

 数瞬の間に地に足をつけて立ってるのは僕とカカだけになった。





「……」




 体は正直だ。

 

 足の震えが止まらない。

 ガクガクして転びそうだ。



 おしまいだ。

 力の差がありすぎる。




 僕は【絶望】した。




 絶対に勝てない。

 逃げることもできない。


 僕の大切な家族が殺される。

 


 

 その時――後ろに居たカカが僕の前に歩み出てドラゴンから守る様に両手を目一杯広げて立つ。



 背中しか見えないが震えているのが分かる。


「カカ……」


 口から言葉が自然こぼれる。



 そうだった。


 忘れてた。


 このサルが息子に守られてるだけなんて我慢できるわけない。


 闘気も扱えないくせに盾になるつもりなんだから。


 むちゃくちゃだよ。母さんは。


 まったく戦術も何もあったもんじゃない。



 目から涙が溢れ出ている事に気づく。



 暖かいな本当に……

 暖か過ぎて困っちゃうよ。

 母さん。



 涙は止まらない。




【マジカルサルの暖か魔法】


 僕が抱いた【絶望】は簡単に消滅させられた。


 僕の生きる世界に彩りをくれた究極最強の特殊魔法。

 

 僕の【絶望】なんかで太刀打ちできる魔法じゃない。





 うん――やる事は決まった。




 僕は前に立つカカの肩を引き寄せて対面にまわりこみ、両手で両肩を掴んでサルの目を真っ直ぐに見る。

 


 

 僕もだけどサルの黒目からも涙が止めどなく溢れている。


 


 ははは。

 泣き虫だからな。

 母さんは。


 あれ?

 あまり意識したことなかったけど、チビの僕でも母さんよりもだいぶ大きくなってたんだね。




 不思議だな。


 心はとっても穏やかで思考はとってもクリアな気がする。






 そして――僕はサルに をした。






「ありがとう。母さん」


 心から溢れた言葉を母に告げてガーシニアに向き直る。


 ついさっき父から教えてもらった赤い闘気を身に纏う。


 父より濃い赤い闘気を揺らしながら僕はガーシニアの心臓を目掛けて最速で突撃する。




 灰龍グレイドラゴーンに到達する刹那の間に祈る。


『もしも願いが叶うなら、次に目を開ける時に、この世界に転生した時と同じようにサルが僕を覗き込んでますように』

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森でサルに拾われた魔人の赤子は愛を知ってドラゴンを倒す 青木将太郎 @aokishotaro

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