3.行政の透明性

2018年3月13日明朝。

財務省に勤める新人公務員・佐藤一郎は、自宅玄関にて透明化を開始した。

残された佐藤の日報によれば、それは行政の透明化を強く求める国民の声を受けてのことだった。

省を代表しての透明化担当への着任だったが、透明化が実行されるのは初めてのことだったので、彼も彼の上司もそのまた上司も、それがどう始まってどう終わるのかはわからなかった。


今もそれはわからない。

透明化によって佐藤は透明になった。

2018年3月12日を以て、佐藤一郎の登省記録は途絶えている。

彼の姿は誰にも見えなくなり、彼の声は誰にも聞こえなくなった。

彼はどこかにいるのかもしれないし、そうではないかもしれない。

生きているのかも、もう死んでしまったのかも。

今はもう、彼が担当する報告書の作成期限だけが、ぽっかりと空いた彼のデスクに残されている。

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