喧嘩師、天宮麳の小話

たいせー

第1話

俺の名前は天宮麳あまみやらい

俺ァ昔から自己PRってのが苦手で、自分の事をなんて言えばいいかわかんねーけど、まぁなんだ、俺ァ一応『最強の喧嘩師』って異名で通ってる、口喧嘩好きの20代だ。

二つ名なんてのァ、誰かが他人から聞いた話を誇張して作ったほとんどフィクションみてーなノンフィクションに沿って作られてるから、『最強の』なんてのは大袈裟だ。

なにせ、俺ァただのパンピーだからな。

そんな俺も一応は『喧嘩師』として、いろんな奴らと言葉を交わしている内に、他人に語れるような面白いエピソードの一つや二つは出てくる。

って事で、今回は俺の体験した幾つかのエピソードを話していこう。


Episode1

「僕は物語の『外』にいるんですよ」

少年は、俺にこう話しかけてきた。

「あぁ?物語の外?」

「ええ、外側。

傍観者ではなく、あくまで外側なんです。」

あぁん?

「そいつァどーゆー事だ?

わかりやすく説明しな!」

少年は微笑んで

「ええ、全て説明しましょう。」

と言ってから、少年は語り始めた。

「全ての物語には『第一者』『第二者』そして『第三者』が存在しますが、僕はそれらに干渉しない、言わば『無関係』の人間なんです。

物語の全てを知りながら、何にも参加しない。

小説で言うところの『神の視点』というやつですね。

誰もが僕という存在を認知していながら、誰も僕と接触しない。

そんな立ち位置僕はいるんです。」

少年はそう説明した。

「へぇ、そうかいそうかい。

でもよぉ、それにも例外があるだろ?」

「例外?

そんなものはありませんよ。」

「いいや嘘だ。

お前が気付いていないだけで実際、今お前はその『例外』を行っている。

だろ?」

「あっ」

少年は顔を赤らめた。

「んだよ、年相応の可愛い顔出来んじゃねぇかよ。」

物事には例外が付き物だ。

こんな風にな。


Episode2

「人間を操る方法はありませんか?」

スーツのおっさんが俺に話しかけてきた。

「あぁ?知らねぇよ。

俺ァ何かの教祖じゃねぇんだよ。」

「ええ。分かっておりますよ『最強よ喧嘩師』こと天宮麳さん。

あなたならば人間のひとりやふたり、その口で操る事くらい可能では無いのですか?」

「ふざけんなよ。

俺ァマインドコントロールや催眠術とは無関係だぜ。

それに、知っていたとしてもお前みてーな自己紹介もしねぇ野郎にァ教えねぇさ。」

男は困ったような顔をして

「私はこれから新興宗教を立ちあげようと思っているのですが、どうすればいいのか分からず、あなたにご相談した次第なのですが…」

と言った。

「俺には相談された覚えなんざねぇよ。

まぁ、心優しい〝この〟天宮麳さんがアドバイスをくれてやるとすればひとつだ。

コミュ障を治しな。」

ったく、俺に話しかけてくる奴ァ、俺に見つけるやいなや、自己紹介もせずに話しかけてきやがるからなぁ…

俺が『言葉』に関してくれてやれるアドバイスはこんくらいしかねぇぜ。

「あとは自分で見つけな。

おっと、一応注意しとくが、俺のトークスキルを真似しようなんて思うんじゃねぇぞ。

んな事したら三日でトレンチコートマフィアに目ぇ付けられて一週間以内にお陀仏だぜ。」

男は驚いた。

ったく…こんなアホみてぇな冗談を真に受けでる内は、俺ァこいつに何もアドバイス出来ねぇな。

ったく、もーちっとマシな野郎と語りあいてぇぜ。


Episode3

«私と一緒に最高の商売をしませんか?天宮麳さん»

どこから突き止めたか知らねぇが、俺のSNSのダイレクトメッセージに、こんなメッセージが届いていた。

最高の商売って何だよ…

とりあえず、このメッセージを送ってきたアカウントのプロフィールを見てみると…こいつァ納得だ。

なるほど、『口論が強くなる方法』って情報商材を売ってるのか…

ったく、しゃーねーなぁ。

かったりーけど返信してやっか。


ID:Amamiya_battle

«悪ぃが、この商売で死ぬほど金を貰ってんだ。丁重にお断りしとくぜ。»


さぁて、本業の株価のチェックの時間にでも入ろうか?


Episode4

「俺は金に取り憑かれているんです」

依頼人は自分自身を何とかしてほしいと言ってきた。

「って言われてもなぁ、どこかのロイルヘディングちゃんじゃねぁから、俺ァ人智を超えたことなんか出来ねぇが、取り敢えず話を聞いてやる。」

「ありがとうございます・・・

それでは話しましょう、俺の話を・・・」

こうして男は語り始めた。

「俺は〇□銀行に働く銀行員なんです。

ある日、お客様に『お前に幸福な不幸がやってくる』とだけ、窓口で言われたんですよ。

その時は変なお客様だなぁと思って聞き流していたのですが、その次の日からお金が『気持ち悪い程』に舞い込んでくるようになったんです。」

「気持ち悪いほど?

まじかよ、そんなフィクションみたいな事・・・あ、これァフィクションだったか・・・」

「メタ発言はよして下さい。

・・・続きをお話します。

俺はその日にしまっていた宝くじが2等に当選したり、無くしたはずのへそくりが入った封筒が出てきたり、特にいつもと変わらない仕事をしているのに『ボーナス』だと言って、いつもよりたんまりと月給を貰ったり・・・と、他にもいろいろとあるのですが、このように『気持ち悪い程』にお金が舞い込んでくるようになったんです。」

「いい話じゃねーか。」

男は血相を変えて言った。

「それが、その日を境に、この金目当てで命を狙われるようになったんですよ」

おっと・・・そいつァ聞き捨てならねぇな

「それで、俺ァどうすりゃいいんだ?」

「この呪縛を解いてください・・・」

って言われてもなぁ・・・

「俺ァ霊媒師じゃねぇんだ。

俺にどうにかしろって・・・そうだ!」

そう、俺ァこんな簡単な解決方法を思い付かなかったなんて・・・

全く・・・馬鹿だったぜ。

「呑みに行かねぇか?」

「はぁ・・・まぁ、それが解決策ならば・・・」

俺と依頼人は文字通り酒を『浴びるほど』呑んだ。

そして、俺の代金も依頼者持ちにした・・・ってか、依頼料を酒でチャラにした。

つまりこういう事だ。

さっきの話を聞いている限り、全てはこいつが勝手に『入ってくる』と思っていただけで、単に運が良かっただけだったんだ。

ボーナスの件はこいつの努力なんだけどな。

人間ってのは意識次第で幸運にも不幸にもなれる。

例えばだ、1つ嫌な事があって、それで『自分は不幸だ』と思っていれば、起こる事柄全てが自分にマイナスに働いている様に思えてくるだろ?

つまりはそーゆー事だ。

まぁ、依頼人にとっては依頼を解決してくれるわ依頼料を普通よりも格安で済ませられるわでいい結果だらけだぜ。

後に聞いた話では、あいつは金欠で少し困っているらしい。

そうだ。それでいいんだ。

それが丁度いいんだ。

人間ってのは足りな過ぎるくらいが丁度いいんだ。

それを補うために頑張るからな。


ってのが、俺の体験の一部だ。

どうだったかな?

まぁ、ちっとでも楽しんでもらえたなら、恐悦至極ってもんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

喧嘩師、天宮麳の小話 たいせー @d2tum

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ