第44話Here was the truth


 もちろん墓の下で眠る彼女から返事などはない。だが、構わずぽつぽつと告げていく。

「そんなカッコ悪い俺様は今でもお前の事が忘れられねーけど、少し前を見て歩こうと思うんだ。お前が残した最後の希望と一緒にな。……それと、これは内緒なんだが、国の立て直しを政府が秘密裏に発表してな。俺様はそこで特別に国防大臣を任される事になった。だから、また新しく歩いていくとする。」


 そう短く言い残し、霊園の出口へと向かうその刹那、彼はまたぽつりと呟く。

「あばよ、俺様が過去に愛した唯一の女性。」


 声は響かなかったが、今日この日。彼は過去に別れを告げる。当然愛おしかった人にも。短くともぶっきらぼうに高杉は大鳥杏子へと別れを告げた。

  


「……本当に、よかったのか?」

 

 一方、霊園の出口で高杉を待つ斎藤は母禮に向けて一言告げた。「よかったのか?」と言う意味を今更聞くのも無粋だし、何より母禮はそこまで鈍くはない。

「これでいいの。斎藤さんは嫌かもしれないけど。」

「いや、俺も別に構わない……。」

「へぇ?じゃあ、いつ高杉さんに鞍替えしてもいいって事?」

「そういう訳じゃ……」

「大丈夫だから」


 ぎゅっ、と斎藤の胸元の服を掴んでは言う。

「私にはもう何もかも見えてる。この国の行く末の答えも、自分の想いや愛してる人の気持ちも真実も掴めた。今はこれ以上望む事は何もないよ。」

「沈姫……」


 梅雨時期の生温い風が頬を掠る中、斎藤自身の胸元にいる母禮をそっと抱きしめる。まるで、ガラス細工にでも触れるように。壊れぬように。

「……愛してる」


 恋愛に酷く疎い男の腕は一瞬だけ強く細い母禮の身体を抱きしめる。返事はなかったが、掴んでいた服にかかる強さがそれを表していた。

 


「さて、一応俺様も用事があるしさっさと帰るか。」

「人を付き合わせてそれを言うか……。」

 3人一行の足は高杉の勝手な我が儘で奇しくも駅へと向かっていた。横で不機嫌そうに頬を膨らます母禮に対し高杉は軽い調子であっけからんと言う。

「俺様の国創りはここからなんだよ。今度はもっとマトモな方法でな。」

「……犯罪者がよくもそんな事を言えたモノだ。」

「うるせーぞ、公務員。あんま調子乗るんじゃねー。」


 下らない2人の口論に「まぁまぁ」と仕方なく母禮が宥めていると、一瞬だけ聞き慣れた声が聞こえた。

「随分と楽しそうなもので。私も実はあの後、特別に外交官に任命されてね。また君達とは顔を合わせそうだ。」

「え?」


 声に気づき、振り返ってみればそこにはもう人混みしか見えず、あまり理解はできなかったが、確信を以て母禮は呟いた。

「樹戸さんも新しい人生を歩んでるようだね。」

「ああ、本当にな。」


 人との出会い この先の未来


 母禮は母には告げていなかったが、1つだけ今彼女には夢がある。

 それは亡き母の代わりに大鳥家の当主として、正式に家を継ぎ国に直談判していくと。


 今は新選組の平隊士だが、きっとそれは出来ると確証している。何故なら、この短い時間の中で多くの人と出会い、過ごし、すれ違い、今がある。それら全てを糧にして強く歩んでゆけばきっと真実を掴めると。そう感じているから。

「あいつらに一応饅頭でも買って帰ってやるか。」


 高杉は一足早く歩む中で、斎藤は母禮の腕を引き寄せながら耳元で微かに囁いた。

「沈姫」


「アンタに会えて、俺は救われた。ずっと傍にいてくれ。」

「――なーんて……」


 斎藤が母禮に囁くのを見て、高杉は苦笑を浮かべながら小さく呟く。

「何で俺様が先に言おうとした事言ってんだよバーカ。」




Fin.

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Will I change the Fate? 織坂一 @orisakahajime

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