第43話whereabouts
「――で、結局お前はどちらを選ぶよ?俺様か斎藤か。とうに俺様は腹を決めてるからな。何言ったって構わないぜ?」
「……と言っても、沈姫がここで答えを出してもアンタは諦めないんだろう?」
「ネチネチうるせーなー……。お前男なら少しは器を広くしろ。……の前に、どーよ?久々に母親と会って。」
斎藤の言葉に軽く舌打ちをしては、目の前にある墓石の下に眠る杏子に線香をやる母禮へと高杉は言葉を投げかけた。すると母禮は小さく笑う。
「そうだなぁ……。まずはありがとう、かな。あの時母さんが守ってくれなかったら、私もあの時死んでた。だからそういった意味でのありがとうと、もう1つ。」
「もう1つあんのか?」
「皆と出会わせてくれてありがとう。高杉さんを助けてくれてありがとう……って。あれだけの致命傷を負ってるのに生きてるのはきっと母さんが「生きろ」って言ったからだと思う。」
その言葉を聞いては、高杉はふと目を見開いて笑う。
「違いねー。……で、話を元に戻そうぜ。お母さんの前で誰を婿にするって決めるよ?」
すると、母禮は斎藤の方へと顔を向け、俯いたままでいる様子を斎藤は母禮の顔を覗き込む。
「沈姫?」
と名前を呼んだと同時に斎藤の横っ腹に蹴りが入る。しかも物凄く凄まじい勢いで、だ。あまりの痛みに腹を抑える斎藤に母禮は「馬鹿ッ」と突然罵った。
「義兄さんを殺されて憎かったのに、どうしても憎めなかった……でも今思い返せば、きっとそれは監視だと言っても、新選組に来た時からずっと貴方が守ってくれたから……ッ!」
確かに母禮が新撰組に入隊したのは本当に時の気紛れと偶然でしかなく、斎藤との関係もただの監視役と保護対象程度であった。
しかし義兄である啓介を殺されてしまってから、2人の関係は一気に変わってしまったのも事実。そして斎藤はあの時高杉と対峙した時も、決死の覚悟で斎藤が母禮を守り抜いたのも紛れもない事実だ。だからこそ母禮は抑えられない気持ちを2人の前で吐きだしていく。
「どんだけ憎んでも、免罪符だと言われても、貴方の免罪符となったあの日から見えた貴方の笑顔がどうしても忘れられなくて、あのままずっと一緒に居たかった……だから!あの時、想いをうやむやにされた時に腹が立った!けれど結局最終的に私は大事にされてるのか、なんなのか分からなくて……!」
気持ちを吐き出すだけ、どうしても涙が溢れてきて仕方がない。何せそれだけ母禮にとっては斎藤との思い出がありすぎた。
その様子に呆気を取られている斎藤に対し、高杉が肘で腕をつつき、答えを促した。
「沈姫、じゃあ俺の言い訳も知って……。」
「忘れられる訳ないじゃない!馬鹿ッ!……でも」
「でも?」
「いくら思い出があっても、やっぱり嘘は吐けない。」
「嘘?」
「この中できっと1番自分の思いを決められないのは私だと思う……斎藤さんの事は好きだよ。でも、どうしても高杉さんを見捨てられない。」
「は?」
予想していなかったのか、高杉は思わず声を漏らすのを他所にぽつぽつと自分自身の想いを伝えてゆく。
「まだ、貴方の事を完全に理解した訳ではないけれど、出会ってからずっと守ってくれた……愛してくれた。その気持ちをどうしても無下にはできない。」
「……おいおい、なんだそりゃ。」
呆れた様な声で呟くが、顔だけは今まで1番優しい笑みを浮かべてはこう言った。
「俺様は両手に華生活なんて懲り懲りだよ。こりゃー杏子にフられた時より酷いな。」
「高杉さん……」
「もういい、お前ら先に霊園出てろ。俺様はもう暫く杏子に話があるからよ。」
「? じゃあ、先に行ってるからね?」
2人の背中を見送っては、墓に改めて向き直ってはぽつりと呟いた。
「……見てるかよ、杏子。俺様は負けちまったよ。この国に、お前の娘に、俺様自身に。カッコ悪いだろ?」
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