第42話The daily life that I regained
「あ、れいちゃん。調子の方はどう?高杉さんの方もだけど」
あの後母禮は、一応怪我人である遊佐や斎藤らの様子を見に彼らのたまり場となってしまった救護室を再び訪れていた。
随分良くなったのか遊佐はいつもと変わらぬ調子で母禮に様子を聞けば、母禮も何もないと言わんばかりにこう返す。
「おれは、まぁまぁと言った所だ。高杉さんなら今さっき目を覚ましたよ。」
「そっか。ならいいんだけど、所以さんの事はどうするつもり?」
「え?」
思わずあの夜から考えないようにしていた事実をいきなり突きつけられると、思わず目が点になる。しかし遊佐はおどけた様子で溜息を吐いた。
「え?じゃなくて!話の大本は密さんから聞いた。全く、あの人最低だよね。いくられいちゃんみたいな強い子に免罪符だなんて言ってさ……ほんと呆れる。でも、改心したみたいだし、どうする?殺しちゃう?それともその腕に抱きとめてもらう?」
「嫌な言い方だな……いや、あながち間違いでもないんだが……。」
遊佐の問い掛けによって思い返せざるを得ないが、母禮とてあの光景を見た以上、自身の気持ちに嘘を吐く訳にもならなくて。少し俯き、頬を赤らめてはこう呟く。
「そうだな、抱きとめてもらおうか――……」
「ほんと!?おーい!密さーん!比企さーん!賭けは僕と密さんの勝ちって事で!」
なーんちゃって、と言う前に先に遊佐に勘違いをされた上に、どうやら母禮の知らぬ間に賭けまでされていたらしい。そして賭けの結果に比企と花村も対照的な反応を見せる。
「嘘!?待って!結局俺だけ負けな訳!?」
「よっしゃぁ!ははーん、甘いんだよ比企。こういう色恋モンはこういう時に芽生えるモンがあるってのが定番でよ……」
「あんたら……」
勝手な言われ様に母禮がわなわなと身を震わせていると、後ろから「ちっ」と舌打ちが聞こえた。
「何だよ、賭けは俺様の負けか。稀代の勝負師と言われた俺様も随分と落ちぶれたモンだ。」
突然聞こえた声に全員がいつの間にか部屋に来ていた高杉に目を向ける中、母禮は驚いて高杉へと近寄る。
「高杉さん!あれだけ寝てろと!」
「いいや、もう十分だ。って事は勝負はこっからでもいいってか?」
「「「「は?」」」」
声を揃え、唖然とする4人に対し、高杉は口角を上げては母禮の肩を抱き寄せ宣言した。
「こいつは俺様がもらう。例え今は斎藤に気が向いても必ず最後は俺様が落としてみせるさ。」
「え、ちょっと待って。急に話がすっ飛んだんだけど。」
と遊佐が
「いやいやいやいや!!どうしてそうなる訳!?」
と比企が
「お前、こいつの母親に惚れてたのをとうとう鞍替えしたか」
と花村が
無論、抱き寄せられた母禮は赤面で、わなわなと身を震わせながら怒鳴る。
「いい加減にしろ!おれは別に……!」
「でも最後はなんだかんだで助けてくれたろ?それって惚れたとみなしていいんじゃねーの?それと、どこのどいつとファーストキスしたんだか。」
ニィ、と笑ったままの高杉を他所に3人はもはや石と化している。そして数十秒たっぷりと間を置いては3人は声を上げる。
「えええええええええええ!?先に手出されたの!?れいちゃん!」
「何してんの、お年頃の女の子が!相似みたくビンタかませばよかったのに!」
「これ斎藤に知られたら、戦争勃発すんじゃねぇの!?」
「……生憎だが、もう始まるがな。」
たった一声に母禮と高杉も含めた5人が振り向いた先には、殺気を醸し出している斎藤の姿があった。
「高杉さん。幾ら惚れた女の残した子供とは言え、無差別に手は出さないで欲しい。」
「何言ってんだ?俺様から見てみりゃ、お前は沈姫に飼われてる犬にしか見えねーよ。ガキにはまだ早いっての。んで沈姫はどーすんだ?俺様と斎藤、どっちを選ぶ?」
「し、知らない!2人共大嫌いだッ!」
ガーン、とショックを受ける斎藤と「ほう」と声を漏らす高杉。
「中々言うじゃねぇか。だったらこの結果報告は――……」
「何で母さんの墓の前でしなくちゃならないの!!」
国での戦慄から1ヶ月。
丁度、高杉の怪我も大分良くなったという事で約束通り、母である大鳥杏子の墓参りをしに斎藤、高杉、母禮の3人で会津へと来ていたのだが、どうしても高杉は母禮と自身の関係をハッキリさせようと斎藤までここまで連れてきたのだ。幾ら有給を取ったからといって、これほどまでの横暴は早々ないだろう。
「線香ならここにあるぞ」
「ありがとう、斎藤さん。」
「花も活けてやらんとな。一応杏子の好きだった百合も持ってきてはある。」
「高杉さん、貴方母さんの好きだった花さえ知ってるの……?」
若干引き気味の母禮に対し、「少し違う」と一応保守の為に牽制を入れておく。
「退職する時に、花を送ろうと思ってよ。それで何の花がいいって聞いたら、百合がいいって答えてな。まぁあの面に百合は合わないけどよ。」
「……聞こえてたらバチ当たるよ」
「それも上等だ」
余裕のある笑みを浮かべては、次々と線香を供えていく。最初に高杉、次に斎藤、最期に母禮といった順で上げては「さて」と高杉が切り出す。
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