おまめのぼうけん

リエミ

おまめのぼうけん


 おまめは大きな木の下で生まれました。


 まだ芽が出ないうちに、もっと景色のいいところへ根付くことに決めましたので、転がりながら移動をし始めました。


 草むらに入ったところで、水溜りにはまりました。


「ああ、もう風が吹くまで出られないぞ」


 とおまめはしくしく泣きました。


 そよ風じゃおまめの体を転がせません。


 もっと強い突風でもない限りは。




 さて、おまめは水溜りの中でしばらく泣いて待っておりますと、水溜りは涙で塩辛くなり、おまめもふやけてシオおまめになりそうでした。


 しかしその一歩手前で、草むらからシッポの長いトカゲが出てきて、おまめに気づいてくれました。


「おや、こんなところにおまめが」


 と、トカゲは言って近づきます。


 おまめは、やってきたトカゲのしっぽを掴まえることに成功したので、そのままトカゲと一緒に行くことにしました。


 草がおまめの濡れた体を拭いてくれました。


 が、乾いた涙が塩になり、どうしても離れてくれません。


 ついに、シオおまめになったのです。




 新しくなったシオおまめは、草むらから出たトカゲと一緒に、砂地に行きました。


「わしはここまでじゃ」


 とトカゲは言って、大きくしっぽを振りましたので、シオおまめは飛ばされて、岩に激突しました。


 トカゲは行ってしまいます。


 トカゲとは本来そういうものなのです。




 シオおまめは少しだけ岩に当たって、亀裂を作りました。


 岩のくぼみに入ったのでした。


 またしても動けず、自分が二つに離れてしまわないよう、両手で押さえながら、風が来るのを待ちました。


「ひどいところに来た。ここでは日差しが強すぎて、カラカラになってしまいそう」


 おまめはひとり呟きました。


 そばを見回しても、誰もいません。


 おまめは日光に日焼けしてゆきました。




 おまめは長いこと待っていたので、いい感じに黒光りしました。


 ちょうどその頃、空を優雅に飛んでいたハトが、黒光りした岩陰のシオおまめを、目ざとく見つけたのでした。


 ハトはおまめが大好きですから、すぐに進路を変えて、おまめ目指しました。


 ところがよく見ると、おまめはシオおまめです。


 ハトは塩分控えめに、とお母さんに言われていたので、困りました。


 おまめは、


「ぼく、食べないで~」


 と言いましたら、ハトは、


「そうだ。塩を洗ってから食べよう」


 と思いついて、シオおまめを口ばしに挟みました。


 かわいそうにシオおまめは、空を飛ぶハトにくわえられ、川まで連れられました。


 そしてシオおまめを川につけて洗おうとしたら、突然、大きなワニが現れて、ハトを大そう驚かせたのです。


 ハトはその拍子に、くわえていたシオおまめを川に落とし、あっという間に空高く、高く、ずっと高くへと消えてしまいました。




 おまめは、


「ああ、大変だった」


 とぷかぷか浮かびながら呟きました。


 体から塩分が溶けて、また普通のおまめになったのです。


 そこへ、先ほどの大きなワニが泳いで来ました。


「おお、おまめ。ここはとても景色のいいところだぞ。お前は俺が助けてやったんだから、ここに住むことにしろよ」


 そう言われ、おまめは周りを眺めました。


 遠い空、緑あふれる山、やわらかな草地が見えました。


「よぅし、そうしよっと」


 おまめは答えたので、ワニは一息吹いて、おまめを水面から岸へ打ち上げました。


「ありがとうワニさん。ぼくは長いこと、もうずっと、こんなところを探していたんだった」


 おまめは喜んで草地に潜りました。


「どういたしまして。めんこいおまめさん」


 ワニは満面の笑みを浮かべました。


 おまめは川下へ去っていくワニを、とてもいいワニだと思いました。


 本当にいいワニとは、このことをいうのです。




 おまめの割れた亀裂から、芽が伸びて、日向に向きます。


 そして、ずいぶんと長い期間をかけて、木になり、おまめは昔、自分が生まれた場所にあった、大きな木に育ったのです。


 もう自分だけの、たくさんなおまめを実らせています。


 それらのおまめも、やがてポトリと落ちて、自分だけの旅に出るのでしょう。


 そうしておまめ、いいえ、大木は考えていますと、いつかのワニが現れました。


 ワニはあの小さかったおまめが、今や自分だけのおまめを根元に落とし、おまめたちを育てている様子を、しばらく眺めておりました。


 そしてふと、何を思ったかワニは、落ちているまだ小さなおまめたちを、食べ始めました。


 大木は、あんまり、それはあんまりじゃないか、と思って、ワニへ近づこうとしましたが、木の根が深く張っているので、もう動けません。


 悠々と食べ続けるワニを、追い払うこともできなかったのです。


 なるほど、ワニはあの時、おまめを助けてくれたのは、これが狙いだったに違いありません。


 もう大木は悲しそうに、おさないおまめが食べられるのを、見ていることしかできません。




◆ E N D

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