#2 道徳、打ち切りにつき
「クッ!ノートパソコンにストッキング!?」
たかしくんはつい、思っている事を口に出していました。
セオドア先生は見逃しません。
「たかし!このときのノートパソコンの気持ちを答えなさい」
…ほんの少し前のことでした。 セオドア先生は、体をたかしくんに向けながら、左手の甲はうしろに向け、 軽くあおぐようなそぶりを見せていました。
「クラスのみんなで考えましょう」
まるで何かの合図のようでした。 その証拠に、先生のうしろに並んでいたクラスのみんなは、いっせいに、地面のオブジェに手を伸ばし始めたのです。
そして、ここから先は二度目の道徳の時間である。
前回の道徳の授業は、たかしにとって過酷なものであった。 給食で眠らされ、墜落する飛行機に乗せられたたかしは、一人、無人島に不時着。 偶然にも 〝照り焼きチーズ豚マン〟を体のあらゆる場所に隠し持っていたたかしは、ス〇パ〇サ〇ズ〇ー、いや一ヵ月を〝照り焼きチーズ豚マン〟にて生きながらえ、ついに船に救助されたのだ。 だがその船には、道徳の先生、そしてクラスのみなが乗っていた。何たるや、しくまれた道徳!
「たかし!どうした、はっきりと答えなさい!だが急ぐ必要はないぞ」
先生の口から発せられる言葉は、その人物の行動とは矛盾していた。黒くしなるムチは、ビュンと風を切りながらも、何かに打ち付けられた。 はずみで、手すりの装飾が砕け散り、いくつかの破片が甲板に転がった。
「たかし!よく考えるんだ」
とつじょ、セオドア先生は、身体を大の字のように一瞬にしてひろげきった。次にはかるく飛びはね始めた。 ボディランゲージを駆使するその姿は、繁殖期にアピールするクジャクのようだった。
「たかし!みんなで話しあってこそだぞ。これは道徳の授業だ」
さらに、ぴょんぴょん飛び跳ねる。アピールが足りないと判断したのか、先生はいよいよ高く飛びはじめた。 今度は、体を回転。その姿は、フィギュアスケート選手のようだった。さらには、ひざをコンパクトに折りたたむこともあった。
「どうした!見ていないで、みんなも道徳をはじめなさい」
さらに高く、回転しながら体にひねりを入れるセオドア先生。いきおい高く跳ねると、その場でひざをかかえ込みや、くるりと空中でひねりを入れ、それでもまだ回転を入れるのかといわんばかりであったが、かろやかに着地した。見事だった。たかしの口からため息が漏れる。
「…後方かかえ込み二回宙返り一回ひねり」
たかしの声を聴いたのか、腕をひろげたまま着地の姿勢で、ニヤリとするツカハラ、いやセオドア先生。笑みに応えるたかし。
「いきなりD難易度ですか」
メガネをクイと上げるしぐさは、メガネがないはずのたかしの目をキラリと光ったように見せていた。
そんなことはどうでもよい、とボソリとつぶやきながら、先生は着地の姿勢を崩さず本物のメガネを光らせた。 メガネをしたままの宙返り。難易度はそのままでいいのだろうか。しかもここは甲板、船の上だ。タカシの脳は点数をつけるべく、急激に回転をはじめていた。
さて、クラスのみんなは、いよいよ待ちくたびれていた。ほんの少し前まで、みなはストッキングをかぶり覆面をしていたのだ。みなと同様、甲板に人数分がおかれたオブジェにも、ストッキングがかぶせられている。オブジェの中身は明らかだった。 ストッキングでは隠し切れない独特のフォルムは、 バンデッド・プロ仕様モデル5世代目である。通称、「
しかし、このバンデッド・プロ。 5世代目モデルは、発表されたばかり。国内向けには発表すらなかったはずだ。並行輸入はおろか、一般人では手に入らない
ゴクリとたかしのノドが鳴った。
最新のスマート・シミターが目の前にあるのだ。そして、今は希望の糸でもある。
クラスのみなは、いきおいよく地面のオブジェに手をかけた。そして、ストッキングをゆっくりと掴みあげると、ビリリと中身があばかれる。中身をみて、たかしは確信した。やはり、見た目はシミター、 バンデッド・プロ仕様モデル5世代目である。 通称「
いったいこのパソコンで何をしようというのでしょう。
セオドア先生の見事な着地姿勢はひときわ目立っています。 その後ろにずらりとならんだ独特のフォルム。見た目はシミター。 バンデッド・プロ仕様モデル5世代目。通称「
「ククク...今回はここまでのようだな...」
影は紅い直方体を手の中でころがしながら、不敵な笑みを浮かべました。
いつまで待っても、無料ダウンロードが始まる気配はなく、そのための「ジャバボタン」が登場しないため、スポンサーがしびれをきらしています。影はいったい何者なのでしょうか。
どうやら今シーズンで打ち切りの気配は濃厚となってきました。その気配は、あたりに霧となって広がりはじめたのでした。
道徳だよ!たかしくん トビーネット @tobynet
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