道徳だよ!たかしくん
トビーネット
#1 道徳、第2シーズン開始
「せんせい! クラスに『仲間』などいません」
たかしくんは言いました。先生は答えます。
「よろしい! 正解だ!」
先生の黒いムチがしなり、ピシリと船室の壁を叩きます。 同時に、クラスのみんなの視線が、たかしくんに集まっていました。どうしてこうなったのだろう。たかしくんは、唇をかみしめました。
それは、ある日のことだった。
いつものようにたかしは、学校へと向かっていた。曲がり角で転校生とぶつかることも無く登校を完了。午前まではいつもの授業だった。午前が終われば、たのしみな給食。その給食も終わりかけていた。給食には、たかしの好物、〝照り焼きチーズ豚マン〟 が現れた。
まさか 〝照り焼きチーズ豚マン〟 が出ると思わない。(長いので以下、 〝マン〟) みながみな、〝マン〟を残すので、たかしは余り物を合法的にゲットできた。しかも大量に。机の中で腐らせると困る。そう思ったたかしは、ジャケットやズボンのポケットに突っ込みはじめた。席につくと、後ろポケットの〝マン〟はつぶれた。くにゃりと感触を味わうたかし。このときの〝マン〟らが、まさかあとで役に立つとは、まだ、たかしは思うはずはなかった。
いよいよ、昼休みのにぎやかな教室がはじまる。 本来ならば、午後の最初は道徳の授業……のはずだった。昼休みはそこそこに、いつもとはちがう雰囲気の先生がドアをけり開け踊り込んできた。
はっきりいって午後の授業は、ねむい。
けりやぶられたドアの音は、たかしの耳には入ってこない。
「むにゃむにゃ。お母さん」
たかしはうっかりしていた。
「あ、いや先生。トイレいいですか…」
どうも眠気がとれないのだ。今のような眠気ならば、いつもならば、たかしはとっくに授業を抜け出している。トイレに行きながらも、途中で顔を洗いつつ、眠気をさますのである。たかし流の眠気覚ましは一味違う。教室のある階とは別の階のトイレを利用するのだ。教室がある階から離れさえすればいい。 そうすれば、誰にも見つからない。たかしの思い描くままである。学校でウンコをすることすら可能であった。
たかしは、トイレへ行きたいのである。いよいよ、たかしが席をたとうとしたとき、彼を縛る者がいた。いや正確には、腕と足、腰がベルトのようなもので固定されている。 口には、マスクが取り付けられていた。防毒マスクほどの息苦しさはない。呼吸用のマスクだろうか。体には、奇妙な感覚がまとわりついている。ふわりとしていながらも押さえつけられる感触がある。目をあけるも、周りは見えない。 あきらかに周りは教室ではない。
【エマージェンシー。警告。★※!%。 !!”###。】
とつぜんのことに、落ち着くことなど出来なかったが、耳は聞こえ始めた。
【陶器は……着陸…… をして下さい】
陶器とは。たかしは、わけもわからず、拘束されたままだ。たかしは、気を失った。
「ここは……教室にしては、飛行機の残骸と焼けるような臭いがする。」
たかしが目をさますと、あたりは、機械的な部品、こげあと、海、砂浜で覆われていた。
「そうか。これは夢。道徳の夢なのだ」
たかしが取り乱している間に、整理をしておこう。まず、たかしは学校で給食を食べた。寝た。起きると、飛行機にのっており、不時着した。
たかしは、なぜ助かったのか。それは 〝マン〟である。 〝マン〟を覚えているだろうか。〝照り焼きチーズ豚マン〟 だ。 たかしは、給食のあまりものを大量にポケットに詰め込んでいた。 体中に〝マン〟をまきつけていたようなものだった。
「夢にしては、体中が痛い。寝違えたか」
おもむろに、ポケットから取り出した 〝マン〟をほうばる。 〝マン〟には照り焼きの風味がない。失われたのだ。 たかしは、寝てから時間が経っていることに気が付いた。
「道徳とはいえ、無人島に不時着とはひどいな」
夢とはいえ、たかしが現実を受け入れのは早かった。いや、夢だと認識があったからこそ、受け入れられたのだろう。周りを見渡し、生存者を確認する。 誰もいない。クラスの皆はいない。たかしは、ゆっくりと砂浜の近く、木の根元まではい上がった。
木によりかかり、体の痛みを確認する。奇跡的にか、 骨は折れていないようだ。たかしは医療の専門家ではなかったが、身体は動くので確信があった。少しのだぼくで、済んだようだ。 頭の精密検査は必要だろうが、夢には必要がない。ましてや、無人島にそのような設備があるとは思えなかった。
たかしは、手持ちの〝マン〟を確認した。 そう、〝照り焼きチーズ豚マン〟である。 たかしの〝マン〟の量ならば、毎日、三食たべても、ゆうに数か月は持つ。かりにだ。生存者の数人が他にいたとして、合流し、分けたとしても、自活のための生活を確立するには十分な量であった。栄養も万全だ。〝マン〟ならば、一ヵ月食べたとしても大丈夫だ。無人島に栄養を管理する医者はいない。何とか団体はいない。 ある意味、大丈夫だ。 なにせ〝照り焼きチーズ豚マン〟である。
そのうち、たかしは夢に飽きてきたのか、ちょっとしたゲームをはじめた。置いた〝マン〟に、〝マン〟を投げ始めたのだ。〝マン〟当てゲームの誕生である。 さしずめ、〝照り焼きチーズ豚マン・当て〟とでも言えばいいのだろうか。さしものボードゲーム会のドイツ何とか賞といえども、これをゲームとは認めないだろう。たかしも自覚はあったが、これは夢なのでよしとした。たかしの好きなボードゲームは、ドイツのいつかの何とか賞を受賞した何とかというやつの拡張なのだが、名前は忘れた。 さて、砂の付いた〝マン〟は、スタッフがあとで美味しくいただきました。なお無人島にテロップはでない。
ちょうど一ヵ月は過ぎたであろう頃。あらわれた救助の船。〝マン〟から絞りだした油。その油で燃やした〝マン〟に火をつけていた。 船がたかしを見つけるには、十分な煙があがっていた。〝マン〟から失われた風味も、香りも焼けたことで戻っていた。これなら船員も気が付くに違いない。たかしには自信があった。 そう、たかしには、 〝マン〟があったのだ。覚えているだろうか。〝照り焼きチーズ豚マン〟である。 たかしは誰にも会う事なく、無人島体験の夢は終わった。
ボートから乗り継ぎ、船に乗った。ちょっとした大きさの客船である。
船の甲板には、ジャージに覆面のものたちがいた。ボートを漕いでいたのも覆面の一人である。ストッキングを覆面にしているためか、覆面らの表情はいちじるしく歪んでいた。むかしの映像でみる銀行強盗を思い出す。ストッキングが何デニールか、気になったが、聞いても答えられる人間はいないだろう。
その中の一人が、背を向けたまま覆面をとった。 あの先生だ。 道徳の時間に、ドアをけり開け踊り込んできた先生である。背を向けたまま、顔だけをたかしの方に向けた。長いことストッキングによる覆面のせいか、表情はゆがんだままだ。元いたどの先生なのかは分からない。
分かっている事はある。夢はまだ終わっていないということだ。背をむけたままの、ドアをけり開け踊り込んできたはずの先生は、たかしに向かい叫んだ。
「たかし! 道徳の授業はどうだった」
「どうもこうもありません!」
たかしは、きわめて遺憾であり、国際的な制裁も辞さない覚悟であったが、覚めない夢では、それも実現できそうにない。 背をむけたままの、ドアをけり開け踊り込んできたはずの先生…以下、「背をドア先生」、「セオドア先生」とでもよぼうか。セオドア先生は、叫んだ。
「みんな、見ろ! たかしは生きているぞ!」
ジャージの覆面たちは、付けていたストッキングを放り出した。ストッキングの着用時間が短いのであろうか。たしかに、クラスのみなだった。確認する間をおいて、セオドア先生は、質問を投げかけた。
「たかし! 『仲間』がいきていた気分はどうだ」
「せんせい! クラスに『仲間』などいません」
たかしくんは言いました。先生は答えます。
「よろしい! 正解だ!誰かが助けてくれると思ったら大間違いだ」
セオドア先生の長い説教の中、船室の影から見守るものがいました。影はつぶやきます。
「ククク...第二幕のはじまりだな...」
影の笑いとともに、第2シーズン開始です。
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