1-2 沢田さんの正体(2)
「私がコンビニのオーナーになる前の話って知ってる?」
「……噂で元自衛官だったことは聞きました」
「うん、その噂なんだけどね⋯⋯嘘なの」
「……え?」
「私の本当の仕事は貴方たち家族を監視することなの」
「俺たちを……監視……?」
俺たちを監視して何になるのだろうか。父さんはただのしがないサラリーマンだし、母さんもただの専業主婦だったはずである。こんな家庭にわざわざ監視するようなものなんてないはずだ。
「そう、私はあなたたち……いや、あなたのお父さんを監視していたの」
「……理由は? 監視するほどのことをしているような家庭ではないと思うんですけど」
「確かに、あなたたちにはわからないでしょう」
正直、何を言っているのかわからなかった。今までのことも全く分からなかったが、この話はそれらよりもわからない。
「結局、何が言いたいんですか?」
「……あなたたちのお父さんはサラリーマンではないの」
「……いや、給料もらってる人間だったらサラリーマンですよ?」
「あぁ、そうか。なら、サラリーマンね」
重要な話のときに限って天然が発揮されるのはどうしたものか……。
「だから、結局何が言いたいんですか……?」
「あなたのお父さんは、とある国家秘密の案件にかかわる一人……とまでしか言えないわ」
「大まかな内容とかは……?」
「そんなのあなたが聞けば済むでしょう?」
「いや……国家秘密なんですよね……?」
「そうねぇ」
「『そうねぇ』じゃないですよ……俺、殺されますよ?」
本当にお笑いとかじゃないんだからやめてほしい。自分で「国家秘密」と言っときながらこれなんだから……。
「私はその内容までは知らない……いや、知ってはいけないの」
「でも内容を知らないと監視も何もできないのでは……?」
「ま、まぁ……。それはそうなんだけど……そこはプロの技……ってことで」
「……それで騙せるほど、俺は幼くないですよ?」
「それもそうか……」
結局俺が聞き出すほうになってるし……。こんな人に国家の秘密案件を託して良いものなのか気になるところではある。しかし、重要なところまで話していないところは流石である。
———まぁ、悟られてはいるけど。
「……で、何が聞きたいんですか?」
「昔、お母さんがなんか言ってなかった? なんか薬のこととか……」
「薬……? もしかして……」
「まぁ、それは後日で良いんだけど……着いたよ」
気づいたらすでに家の前に着いていたようだ。扉を開けて日向を抱きかかえる……つもりだったが、それは流石に無理なので悪いが起きてもらう。そしてそのままベッドに寝かせて部屋を立ち去った。そして、先程の話を聞くために下の階に降りる。
「日向ちゃんは寝た?」
「はい……。さっき話していた、薬ってなんですか?」
「私も詳しくは知らないんだけど、なんか薬の中に入っているチップが欲しいらしいんだよね……」
「じゃあ、薬箱の中とかに……?」
「そんなところに普通隠すかなぁ?」
「まぁ、ダメ元で……」
俺は仏壇のある部屋の押し入れから薬箱を持ってきた。沢田さんとその箱を開けると、やはり中にそれらしきものは見つからない。しかし、明らかに不自然な位置に風邪薬が置いてあった。
「なんで、これだけこんなところに……」
「錠数が足りないからじゃない?」
確かに瓶の中には一錠しかない。大人と子供で錠数が違うから、一錠だけ残った? ありえない話ではないが、それだけで場所を変えるだろうか。
「……もしかして、この中にあるんじゃ?」
「まさか……こんな小さな錠剤の中にあるわけが……」
二人で目を合わせて苦笑する。しかし、この中以外には考えられない。俺はすぐに水道水をコップに注ぎ、その中にその錠剤を溶かそうとした。しかし、沢田さんがその手を止めた。
「なんで止めるんですか……!?」
「だって、中にチップが入ってたら使い物にならないじゃない」
「あ、そうか」
焦っててそこまで頭が回らなかった。確かに精密機械に水をかけるのはご法度である。ただし、それってICチップだよな……?水にぬらしても大丈夫じゃないのか……? だってクレジットカードとかに使われているやつだし⋯⋯。
「……金槌とかってないわよね?」
「ないですね……。でも、叩いたらチップが粉々になりませんか……?」
「それもそうね……」
二人で出した結論は、「やすりで削る」ということだった。このカプセルをヤスリで削るなら、カプセルをばらした方が速いということを知ったのは翌日のことである。俺たちはいつの間にかに寝てしまっていたらしい。気づいた頃には日向は俺達が苦戦したカプセルの中身を取り出していた。
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