〝5〟分間の対話
ミロク
最期の〝5〟分
視界がパッと、うってかわって暗くなって
だんだんだんだん黒くなってきて
「ああ、これが『死ぬ』ってことなんかって。」
何故かおかしくなって笑いたかったが声にならなかった。
なんだか全然怖くないや、
なんだか全然痛くないや、
倒れる前も後も
不思議と感覚に変わりなく
ただ地につけている背中に
地中からリアルな死が這い上がってきているのだけはなんとなくわかっていた
昨日と変わらぬ日常で
短い人生で一番通ったであろう通学路で
一人でぼーっと歩いていて
横から出てきた白い車に跳ねられたのが3分前
私を跳ねた車から
今知らないおじさんが出てきて、青ざめた顔でこちらを見ている
先程電話もしてくれていた。救急車と警察だろうか
そういえば親にはまだ伝わってないのかなって
答えのわかりきった問いを自分に投げかけた
ほんとにどうでもいいことしか思い浮かばないんだなって、
自分自身にちょっと反省。
親にはまた、自分から伝えに行こう
今からそっちに行くのだし。
だんだんだんだんと暗くなって
だんだんだんだん黒くなって
色も匂いもわからなくなった。
でもまだ耳と意識が生きている。
そばにいるおじさんや通りかかった人達が、
泣きながら声をかけてくれてるのはわかる
人って案外優しいんだな
命を落として、初めてわかるものかも知れない。
目はもう見えないけれど、多分こういう顔をしてるんだろうなって
わかると私も悲しくなってきた
悲しい顔をしないでほしい
私を囲わないでほしい
なんなら私を一人にしてほしい
葬儀も墓も、同情も憂いも涙も言葉も
死んでしまったらどうでもいいことだ
残って生きている人からしたって
大半の人は
一年ほどで人生の〝イベント〟の一部となるのでしょう?
嫌味のつもりはないけれど
ちょっとしたアイロニー。
もう何も見えなくて
自分自身さえ黒くなってきて
いよいよ声も聞こえなくなって
いよいよ最期の〝5〟分が終わるのだと思ったら
不思議と嬉しくなってきた
消されてもリセットされるゲームのキャラじゃない
もう二度と、私は私で無くなる
あなたも含めた誰の世界からも私は消える
そのことが無性に嬉しかった。
ただあなたと最期に話せたことが嬉しかった
ありがとう
さようなら
〝5〟分間の対話 ミロク @Sky-hand-dantyo
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