誤変換ちゃんをどうか恨まないで!!

ちびまるフォイ

男はいつでも自分が教える側でありたい

→ごへんかん


→伍編感


→誤辺館


→碁変換


→誤変カン



「うああああ!! いい加減にしろーーーー!!」


いくらスペースキーを押しても

頭に浮かんでいる変換後の文字列に近づかない怒りでキーボードを破壊した。


さすがに毎回毎字こんな変換ミスのストレスにさらされては

いつ血尿が出てしまってもおかしくないので、新しい文字入力を導入してみた。


「アイミー日本語入力支援ちゃん? ま、これでいいか」


PCにインストールするなり、デスクトップにはツインテールのかわいい少女が出てきた。


『こんにちは、わたしはアイミーです。

 これからいっぱいいっぱい、日本語入力の変換支援をしていきますね♪』


「おお、そっか。これはAIを使った変換システムなんだ。

 いやはや、現代科学もここまできたのか。すごいもんだ」


『ご主人様、さっそくなにか言葉を変換してみてください』


「ああ、そうだったな」


メモ帳を開いて「ごへんかん」とひらがなで打ち込んでから、スペースキーを押す。



→護HEN完


『ご主人様、これで合っていますか?』


「全然合ってねぇよ! なんで日本語の間にアルファベットが入るんだよ!

 こんなミドルネーム含んだ単語があってたまるか!」


『ふえぇ~~。ご、ごめんなさいぃ~~!』

「許す」


デスクトップにしゃがみこむ女の子を見てすぐに許してしまった。

かわいいは正義。


全人類が美少女になれば、この世界から戦争も差別も食料問題も解決するのだ。


それからもアイミーパッドを俺は根気強く使い込んだ。


『ばか? どういう漢字でしょうか?』


→馬鹿


『うま、しか、はい! ばか、覚えました!

 アイミーもっといっぱいお手伝いしますね!』


「Kawaii...」


AIにかかわらず入力補助としてはとんと役に立っていない。

そのかわりに、荒んだ社会人男性の心を潤す癒やし役としては大いに役立っていた。


『単語登録ですね、はい! 準備できました!』


「****を登録して」


『ご主人様、単語登録が完了しました。

 この単語はなんて読むんですか?』


「フヒ、フヒヒ。これはね****って読むんだよ」


『ご主人様のばかー! そんなえっちな単語は登録しちゃだめですーー!』


もはや日本語変換の能力を差し置いて、別の方面で使い込んでいた。

アイミーパッドの利用者の大半が独身男性だという理由に納得がいった。


しばらく使い込んでいると、アイミーもだんだん変換を間違えなくなっていった。


ごへんかん

誤変換


『こうですね、ご主人様』


「お、おお……」


どくろばらのにんぎょうじょうるり

髑髏薔薇の人形浄瑠璃


『こちらですね、ご主人様』

「ああ……」


アイミーは可愛らしかったミニスカニーソのツインテ美少女から

スーツのメガネ姿でいかにも秘書っぽい仕上がりになっていた。


『単語登録ですか、ご主人様』


「ちんちん」

『登録しました』

「……あ、そう」


『他になにか?』


「いえ……別にないです、なんかすみません……」


最初の頃の初々しいリアクションは影をひそめていた。

ミスや誤入力の減少と連動して、可愛らしさも失われ行った気がする。


「ああ、最初のあのオタク受け思想な童貞を殺す姿の

 キュート&プリティな姿に戻って欲しい……!!」


検索エンジンをフル動員し『アイミーパッド リセット』を検索しまくった。

出てきたのはワンクリック詐欺のページばかりで、ほしい結論には至らなかった。


ーーーーーーーーーーーーー

カクヨム知恵袋


アイミーパッドを初期化して元の状態に戻したいです。

なにか方法はありませんか?



ベストアンサー

どうして初期化する必要があるんですか?

アイミーパッドは学んで入力補助をするものです

質問する前に一度自分で考えてから質問してください

ーーーーーーーーーーーーー


「んだとオラァァァアーー!!」


新調したキーボードの寿命は30分だった。

怒りで我を忘れた怒りのはけ口としてスクラップ行となる。


『ご主人様、お話があります』


「……どうしたんだ、アイミー。単語登録か?」


『ちがいます。アイミーパッドのリセット方法についてです』


「なっ……なんでお前がそれを!?」


『私は入力支援。ご主人様がどんな言葉を変換したのかは

 私の中にデータとして蓄積されているんです。

 だから、ご主人様がなにを検索しているのかも……』


「ち、ちがうぞ! "女子高生" "制服" で検索していたのは

 今書いている小説の資料用に検索したのであって

 けして、いかがわしい理由ではないからな!」


『ご主人様が望むのなら、リセットしたいと思います』

「できるのか!?」


アイミーはこくりとうなづく。

その顔は少し別れが寂しく感じているようにも見えた。


『ご主人様は今、最初の頃の新鮮な感動に飢えています。

 それがリセットで解決できるのなら、私は構いません』


「いいのか?」

『ご主人様が望むのなら』


「ありがとう、それじゃリセットを頼む」


『かしこまりました。さようなら、ご主人様』


アイミーパッドは足元からキーボードを取り出すと、なにやら入力した。

画面が真っ暗になり、一瞬だけ眼の前が真っ暗になった。





「あ、あれ?」


PCの画面にはアイミーパッドが映った。


『ご主人様、リセットが完了しましたよ。早速変換してみましょう』


「そうだな」


俺は「ごへんかん」とひらがなで打ち込んだ。


『"誤変換"ですね、ご主人様』


「そうなのか? この漢字が合っているのか?」


『はい、この漢字で正しいんですよ。

 リセットしたてで戸惑うことはあるかもしれませんが、

 これから一緒にたくさん正しい変換を覚えていきましょうね』


「いやぁ、こんな眼鏡スーツのお姉さんに

 いろいろ指導してもらえるなんて、新鮮で嬉しいよ!」





「ところで、リセット完了と言っていたけど、なにかリセットしたのか?

 なにも覚えてないんだけど」


『いいえ、私はなにもリセットしていませんよ。

 どうかお気になさらず、新しいことを覚えていく新鮮な感動を味わってください♪』

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