キミとの最適解

仲咲香里

キミとの最適解

 二週間前から、ずっとキミのことだけ考えてた。

 今日、朝一番に、キミとの真剣勝負に挑もうって。

 キミの心を、いとも容易くほぐすアイツが、ボクはいつも羨ましかった。


 いったいどの公式を当てはめれば、キミはボクにたった一つの答えをくれる?



 昨夜は一晩中、キミのことを想って眠れなかった。

 難攻不落、冷酷無比、キミを形容する言葉に、ボクは二の足を踏む。

 でも、望みは捨てない。


 ボクが寄り添えば、きっとキミは微笑んでくれると、信じてるから。



 キミのくれる感情は今、波打つ微積分グラフのどこにある?

 迷いを捨てて、ボクが真っ直ぐキミを見つめれば、必ず何処かで交わるはずだ。



 越えてみたいんだ、キミとの境界線を。

 ボクらの関係が不等号でしか成り立たなくても、いつかは等号で結ばれると信じてる。

 キミがレッドカードを提示して、ボクとの間に作る壁を、今日こそボクは壊してみせるよ。



 そんなボクの本気を嘲笑うかのように、無情にも、寝坊という名の悪魔を代入?

 どれだけの事象を掛け合わせれば、この運命的な確率に結び付くのだろう。



 キミへ向かって、全力で走る。

 例えこのまま力尽きようとも、今日のボクの決心は固い。

 それをボクは、証明したいんだ。


 逃げない。

 諦めない。


 夏休み中に、キミと約束したよね。

 いつも適当な駆け引きでごまかしていたけど、今日は絶対に、キミと絡まる方程式を解いてみせるって。

 もうすぐ、冬休みになる。

 今度こそボクは、輝くような青春を彼女と謳歌したいんだ。


 高鳴る鼓動とこの想いの丈を、口にするのは恥ずかしいから、一つずつ心の空欄へ書き込んでいくよ。

 キミの求める正答を導き出して、必ず届ける。


 キミへ———。





 固く閉ざされた高校の正門を乗り越えると、ボクは乱暴に、耳からイヤホンを取り払った。

 この状況で、替え歌なんて作っている場合じゃない。

 焦り過ぎて、完成度が低いのが気にかかるから、今夜にでももう一度練り直さなきゃ。


 昇降口で上履きに履き替えると、ボクは急いで自分の教室へと続く階段を、二段飛ばしで駆け上がった。

 ボクの教室は三階だ。


 しんと静まり返る校内で、廊下を走るボクの足音と、自分の荒い呼吸音だけが聞こえる。

 同時に、紅潮した頰を刺すような緊張感と、自分の限界を超えそうな拍動も感じる。


 教室が見えてきた。


 ボクはそのままの勢いで、教室のドアに手を掛け、引き開けた。

 騒音と共に現れたボクに、教室中の視線が集まる。



「遅れてごめんっ!」



 言い訳無しで、ボクは肩で大きく息をしながら、素直に謝罪の言葉を述べた。

 キミはそれでも、ボクを受け入れてくれるだろうか。

 こんなボクのことを、待っていてくれただろうか。



 恐る恐る、ボクは顔を上げる。



「残念だったな。三十分遅刻したから、追試決定」


「そんなあ! 先生っ、ボクの想いはっ?」


「知らん」


 どうやら数学キミとの真剣勝負は、一週間後の追試までおあずけだね?

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キミとの最適解 仲咲香里 @naka_saki

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