詩集：ある日の景色、路地を往く猫のまっすぐ伸びた影

クリームチーズ（期間限定二個増量）

ビスケットを　二枚　おなかが　いたいので

　チーズを掬うと表面の層が剥がれて剥き出しになる　粉の

　　轢かれた　種子と　塩の粒が　荒々しくて

　　　バターの風味が「とても人工的」なかんじがして

　　　　やわらかい　チーズを挟むと　そこには架空の領土が

　　　　　ヤギの棲む領土です　荒々しいオスの

奥歯で噛み切る瞬間何にもなくなってしまって（痛み）

　　　　　　　　　　　　　　　　ザクザクという暴力的な歯ざわり

　　　　　　　　　断続的で人工的な意識の流れを

　　　　　なんとか一つの表面に取り繕う努力（痛み）

　　　　　「痛いですか？」（痛いよ　すごく）

　　　　　　　　取り繕うのはやめにしましょう

　ビスケットは辛いです　塩が　荒塩が乗っているの

　　ひとが水と油でまとめた粉の　あの　均質で単純な　

　　　味の組成が

　　　　ちょっと夢みたいですね。

　　　　　昼前に醒めた悪い夢みたいな

　　　　　　夢の内容は思い出せないのに

　　　　　　　手触りだけ覚えているたぐいの

悪夢ですね

整合の取れた

　整合の取れた悪夢なんて

性質の悪い現実とおなじ

塩の粒が脂と一緒に海に溶けだしていくのね

子宮内膜を溶かして　肉が

血液と一緒に流れていくのとおなじ

全然違わないよね

軽いビスケットだった