神様は俺を困らせるのが大好き


 翌日、アラウドは見事とだけ言って兵士達に外に案内される、連行された時は暗くて気づかなかったが振り返ると巨大な城が立っていた。

そりゃそうだわな、これで普通の一軒家とかだったらある意味凄いわと納得して歩き出す。ここにきてすぐに牢獄に入るという神様も驚く様な事をして、ろくに散策も出来なかったので宿探しも含め歩く事にした。


「へぇー流石に賑わってるな。商店街なだけあって」


 多くの人が行き交い様々な商品を扱う店が並ぶ、客を呼び込もうとする声もそこらじゅうで聞こえた、宿探しを忘れついどんな物があるのか見てまわっているともくもくと食欲をそそる香りが漂ってくる。そういえばこの世界に来てから何も食べてないし飲み物も買ってないなついでに買っていくか。


「いやまてよ……俺お金なくね」


 ここまで色々な事が立て続けに起こりすぎて全く気づかなかったがこの世界で使えるお金を一切持っていない、牢獄に入って美味しいとは言えないが食事は何日かとれていたし紙みたいだったが布団で寝れていたので完全に忘れていた、一難去ってまた一難とはまさにこうゆう事を言うのだろう。


「くぅ……どうしよう詰んだぞ、美少女を悪い奴から助けたらお金が貰える。みたいな展開なんてあるわけないし」


 近くのベンチに座って途方にくれる今日は野宿が確定した学生時代帰宅部主将だった俺にはもう動く体力は無いし、この世界でどうお金を手に入れれば良いのかさえわからない。


「どうした?少年」


 煙草をくわえた黒い髪に茶色い瞳の紫色のスーツを着た男が隣に座って話しかけてくる。三十代半ば独身って感じだろな、それと煙草を吸ってからこい!嗅ぎなれない匂いだが何か情報を聞けるかもしれないので我慢して黙っておく。


「特に何も休んでただけです」

「そうは見えなかったが、これからどう生きようかみたいな顔してたぞ?それとため口で良い堅苦しいのは苦手でね」


 ため口で良いのは助かるが、何故この人といいじぃさんも何で心が読めるんだ顔にでも書いてあんのか……自分の顔を触ってみるが見えるはずもない男は煙を吐くと俺の隣に置いてある神越を手に取る。


「少年この刀どこで手に入れた?」

「大根の神様みたいなじぃさんがくれた神越だって」


 男は煙草を環境なんてどうでもいいと言わんばかりに捨て眉間にしわを寄せながら見ている、見た目はただの刀なのに何かわかったのだろうか、抜刀してはまた納めて隅々まで確認すると予想外の事を言った。


「俺は瀧崎 蓮十郎って言うんだが、どうだ少年行く場所に困ってるなら一緒に来てみないか?」


 どうやら神様は俺の事を困らせるのが大好きらしい。しかし、行く場所が無いのもまた事実まぁ話を聞くのは無料だし詳しく聞いてから判断するか。


「俺は嘉神 悠。それだけじゃ流石に決断できないな、もっと詳しく頼む」

「自己紹介ありがとな。具体的には住む場所を提供してお前にそいつ《神越》を使いこなせる様に鍛え上げる」


 悪い話ではないがこの人にとってのメリットはなんだ、住む場所を提供し俺を鍛える正直デメリットしかないだろう。瀧崎は煙草に火をつけようとしているが風が吹き苦戦していた、何度かつけなおしてようやく火がつくと俺が聞こうとしていた答えを言う。


「俺のメリット……いや世界にとってのメリットだな正義があれば当然悪もある、それは神にも言える実はその刀を渡したのは俺の親父だ。んで悪から世界を救ってもらうべくその刀をお前に託した。しかし、今のお前じゃ到底無理だだから親父に変わって俺が鍛えてやろうって訳さ」


 なるほど話の内容は理解できた。もうこの世界の人々は心が読めるものだと思っておくことにした、どうせやることないんだ弱い自覚もあるしついて行くかなにせ世界最後の希望だしな。自惚れながらニヤニヤしていると返事を催促してくる。


「決まったか?俺もあまり暇じゃないんでね」

「ついていくよあんたに、自分が神越をどこまで使いこなせる様になるのか興味がある」

「なら早速今日から始めよう。俺の家は山奥にあるから時間がかかる残念ながら徒歩だがな」


 瀧崎はまた煙草を捨て歩き出す。あぁこの付近にはないのねしかも徒歩か移動手段は圧倒的元いた世界の方が便利だな、はぁ自転車持ってきたかった不便すぎる。ため息をつきながらついていく山なんて一体どれくらいかかるのだろう、しばらくすると街が随分遠くなり瀧崎が立ち止まる。


「流石に徒歩じゃ無理があるか……」


 何やら遥か彼方にある山を見ながら顎に手を添え瀧崎は考えこむ、俺は疲れはてその場に座り込んでしまう、選択を間違えたかもしれないこんなんじゃ修行に入る前に疲れ果てそうだ。まさか、既に始まってるのか俺の事を帰宅部主将だと見抜いてまずは体力作りからという事かやるなこの人……


「よし、瞬間移動するか歩くの面倒になってきたしな、なぁ少年」

「は?」


 聞き間違えか?瞬間移動いわゆるワープみたいなものだろう出来ても不思議ではない。だが、俺が気になったのは当然そこじゃないここにきて面倒になったから空間転移って……なら何故今まで歩いた!?この人、蝶と蛾の区別つかずに両方蝶って言っちゃうくらい馬鹿!?


「少年捕まれ離すなよ」

「はぁ、なんか絶望まっしぐらな気がする」


 差し出された手を掴むと、突然目の前に築五九年もうすぐ還暦迎えて崩れちゃいますぅみたいなボロい寺が出現する。親子揃って何で崩れそうな建物に住むんだか、生活出来んのかな牢獄のがまだしっかりしてたが……まぁ案外頑丈なのかもな大丈夫だろ。


「さて、まずは雷にうたれてもらうぞ世界を救うだけでじゃなく神をも越えるんだ。まずは人間を卒業しなきゃな?」

「はい?」


 瀧崎から突然の人間卒業を告げられ訳がわからなくなる、どうやらこの後に感動の卒業式がおこなわれるらしい。それもただの卒業式ではなく人間を卒業する為の――


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暇だったので"攻撃こそ最大の防御"が異世界でどこまで通用するか試してみる 三日月 夢兎 @muu3510123

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