戦争しましょ!
まてりあ
第1話
2120年、国際連合の事務総長を勤めるマザーコンピューター『レディ』は、副事務総長にこう告げた。
「第三次世界大戦の可能性が、30%を超えました」
白髪混じりの老齢な男、副事務総長は目を見開いた。
「そんな馬鹿な!ありえません、人類が自ら破滅の道を選ぶなど!!」
巨大なコンピューターである『レディ』が、モニターに疑似的容姿を映し出す。
長い黒髪を一つに束ね、黒縁眼鏡をかけた知的で気品のある女性だった。そして、やや威厳のある声で言った。
「疑っているのですか?私の持つ膨大なデータから、現在の状況を検証した結果ですよ」
人類の英知の結晶である『レディ』が下した判断は、100%間違うことはない。そのことを思い出し、我に返る副事務総長は畏まって謝った。
人類は世界的な不況に喘いでいる。いつ世界恐慌が起こってもおかしくない状況。すでに保護主義的な経済政策をとり始める国もあった。
『レディ』は安心させるようにやさしい声で語りかけた。
「人は追いつめられると理性ではなく、感情で動いてしまうものです。現在の世界的な不況から経済的に追い詰められた国が、世界大戦への可能性を引き上げたのです。
しかし、対策は講じてあります。このソフトを加盟国にダウンロードさせなさい。そして、もし二国間で戦争になりそうになったら、これでもって解決するよう伝えなさい」
副事務総長は了承の意を示すと、ソフトの説明を受けた。
それはふざけているとしか思えない、奇想天外な内容だった。
ソフトはVRMMO『Surrogacy War』という名のヴァーチャルゲームで、師団や指揮官、武器の数、性能が平等でほぼ操作する人間のスキルのみで決着をつける戦争ゲームであった。
戦争とは他国に対し、自国の目的を達成すること。別に破壊行為や相手を殺すことが目的ではない。
そういうことはヴァーチャルの世界で行い、現実世界は平和と安全を維持しようという考えであった。
国際平和と安全の維持は国連の基本となる目的。スーパーコンピューターである『レディ』は戦争はなくならない、しかし、平和と安全の維持は守らなければならない。その矛盾に対する解決方法を生み出したのである。
加盟国も戸惑いはしたが、あの『レディ』発案であり、ゲームの運営、チートの監視をするとのことで受け入れた。
ほどなくして、A国とB国が戦争をはじめた。戦争中であっても経済は停滞せず、国民は普通に仕事ができ、戦後も戦前と変わらない国力を維持できた。負けた方は賠償金の支払い、相手の要求によっては領土を奪われたりしたが、世界は表面上平和であった。
ただ少しだけ人間は戦争好きで、ゲーム好きであったため、この安全な戦争をちょっとした2国間の取り決めにも、軽い感じで活用し始めるようになった。
例えば……
「そちらの農作物の関税を安くしてくれ」
「いや、それはできない」
「なら、戦争しますか」
……といった具合に。
しかし、これにはメリットがあった。
今まで時間がかかりすぎていた物事が、スピーディに決まるようになったからである。
頻繁に戦争が行われていたため、いつしか国民は自国が戦争中であることさえ知らなくなっていった。
1年後。
副事務総長は世界に向けて『レディ』の言葉を伝えようと広場の壇上に登った。
手を上げ挨拶をし、一呼吸間をとった。そして、厳かに語る。
「戦争の新しい形が誕生したことで、世界経済は持ち直し、好況へと転じ始めました。すべては事務総長である『レディ』のおかげ・・・」
突如、ドカーンッと破壊音が鳴り響き、地面が激しく揺れた。
巨大な光線が国連本部の建物をスパッと切り裂き、上部はすべり落ち、横に倒れた。
土煙で視界がふさがれ、広場にいた人々は悲鳴を上げた。
「ううっ、何事だ!?」
副事務総長は爆風で吹き飛ばされ、天を仰いでいた。
視界が晴れ、目にしたのは空一面を覆うUFOの大群であった。
どこからともなく声が聞こえる。
「我々はこの地球を侵略しに来た異星人だ。我々の力は圧倒的だが、降伏は許さない。生き延びたければ最後まで戦って勝利を勝ち取れ。何か言い残すことはないか?地球人の代表者は答えろ」
全ての人類の脳に直接響いているような感じだった。
人類は混乱したが、しばらくして壇上の副事務総長に視線をやった。
副事務総長は『レディ』に連絡を取ろうとしたが、『レディ』のいた本部は跡形もない。
今まで『レディ』に頼り切っていた副事務総長は、追いつめられこう言った。
「ヴァーチャルゲームで戦いませんか?」
宇宙人から声が返った来た。
「なんだそれは、そんなものは知らん。戦争は生死をかけた命のやり取りだ!」
人類は戦争の恐怖を思い出した。
戦争しましょ! まてりあ @materia
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