仕事とりあえず始まる2

貴志は2階の二つの部屋のうち右の部屋の物を片付け、掃除機をかける準備をしていた。それだけしかまだ見ていないが、せつりは気がついた。この人、仕事をちゃんと出来る人だと。そのまま貴志の仕事ぶりを観察していると、貴志が気づいて声をかけた。

「どうしました」

「さっき話していた通り、写真を撮るのでよろしくお願いします。掃除機をかけているところを撮りたいので、片付けが終わっているところに掃除機をかけてください」

「わかりました」

貴志は片付けをする手をとめて廊下に移動し、置いてある掃除機を手に取り、既に天井の掃除と物の片付けを終えた左の部屋で掃除機をかけ始めた。

「それでは写真を取ります」

せつりは声をかけると掃除機かけている貴志の写真を撮った。

「ありがとうございます。写真を取り終わりました。ところで。今貴志さんの仕事ぶりを拝見させていただきましたが、仕事が早くて丁寧ですね」

「別に。大したことありません」

貴志はそっけなく答えた。

「貴志さんは謙虚ですね。そうだ。貴志さんにお伝えしたいことがあります」

「なんですか」

貴志は身構えた。

「葉月さんのことです。率直に言いますが、彼女は仕事ぶりが雑で遅いです」

せつりの言葉を聞くなり、貴志は引きつった笑みを顔に浮かべた。

「わざわざそんなこと言いますか」

「どうせすぐにわかることですから」

「多分貴志さんは彼女の仕事ぶりを見て、何故そうなると疑問に思われると思います」

「私が思うに、それは聞くだけ無駄です。葉月さんはただそういう風にしかできないから、そうしているのです」

「貴志さんはこの、会社なんておこがましくてとても言えない場所では、最初からエリート社員です」

「私たちにとって、貴志さんがここで働いてくださることは大変ありがたいことですが、普通の人たちと普通の速度で仕事がしたいと思われたら、私たちに気を使わずに転職しても大丈夫ですからね」

貴志は何かを言い出そうとして。口ごもったあと「今はこちらでお世話になります」と言った。

「わかりました。改めてよろしくお願いします」と言いながらお辞儀をしたあと、せつりはこのあとやってほしいことを指示して2階をあとにする。

1階に戻ると洗面所の掃除を始めていた由水可をせつりは手伝い一緒に終わらせた。次のトイレ掃除をやっている途中で、貴志が階段を掃除しているのにせつりは気がつくと1階の部屋にいる映子さんを呼び2階に移動してもらうことにした。

「貴志さん、映子さんが通りますので通してください」

「ごめんね」と映子さんも声をかける。

「わかりました」と言いつつ貴志が脇に寄ったところを通り抜け2階につくと映子さんにしばらくこちらでお待ちくださいと言い残して一階に戻った。

1階に戻ると由水可がトイレ掃除を終わり、動かした物を片付けていた。

「良し。このあと貴志さんの階段掃除と代わるよ」

「え、どうしてですか」

「1階の天井の掃除は貴志さんに任せた方がいいでしょう」

「確かに」

由水可とせつりは貴志と階段掃除を代わると急いで終わらせると、1階の部屋に向かい貴志と三人で手分けして部屋の掃除を終わらせ、廊下と玄関、玄関前の掃除を終わらせた。

「終わりましたので、点検をお願いします」

せつりは映子さんに報告する。映子さんはにこにこしながら家中を見てまわった。

「大変良くできました」

その言葉とともに料金が手渡された。三人で分けると少ないが、三人でした初めての仕事の対価だった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家を追い出され死体と出会う 川名真季 @kawanamaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ