仕事、とりあえず始まる

次の日の9時。由水可とせつりは昨日買ったばかりの長袖の上の紺色の作業服に黒の靴下、黒のスニーカーという出で立ちで鈴見家を訪れた。昨日映子さんに、貴志さんを雇うので仕事を頼んでくれそうな人を紹介してくれませんかとせつりが頼んだところ、鈴見家の掃除を頼まれたのだ。

「いらっしゃい。わあ、すごい。二人ともも本格的な服じゃない。貴志にも何か服を買いに行かせるべきだった?」

「そんなことはないです。うちは服装は自由ですから。貴志さんはもう起きていますか」

「ええ、最近この時間は寝ているときが多かったけど、今日はしっかり起きてるから」

「それはよかったです。すぐに仕事を始めさせていただきます。ところで会社のサイトに掲載する掃除中の写真の撮影のことですが、旦那さんの許可はおりましたか」

「うちの家だとわかるものは絶対に撮らないように気をつけて撮影するならいいって言ってたから大丈夫よ」

「承知しました」

「あ、撮った写真はサイトに載せる前に見せて欲しいって言っていたからお願いね」

「それも承知しました」

そんな会話を繰り返している間に二人は玄関で靴を脱ぎ家の中に入った。

「おはようございます」

リビングで所在なく座っている貴志に由水可とせつりは挨拶した。貴志は、着古した英字プリント白地ティーシャツに濃紺のチノパンと白い靴下を身につけていた。

「おはようございます」

貴志は小さい声で返した。

せつりは貴志と由水可に雑巾などを手渡すと、掃除する場所について指示をした。

「じゃ、1階で浴槽を掃除する由水可の写真を先に撮ります。貴志さんは2階に行って、天井のほこりをこの伸縮式ハタキをちょうどいい長さにしてからほこりを落としてください。終わったら、この掃除機を2階に持って行ってかけてきてください」

「わかリました。行ってきます」

貴志は小さな声で返事をするとハタキを持って2階に上がって行った。

「由水可は浴室に行って。洗面器を一つお借りしてその中に酸性洗剤を入れて水で5倍に薄めて。その中に外したシャワーヘッドと、それ以外のお風呂場にある小さい小物を全部集めてつけておいて。あっ、その前に換気扇のスイッチを押してね」

「わかりましたけど」

由水可は少し不服そうな目でせつりを見る。

「本当に写真を撮らないと駄目ですか」

「昨日も説明したでしょう。会社のホームページに作業員の写真を載せてあると、お客様がどんな人が作業しているかわかって安心するから、絶対載せた方がいいらしいって」

「それってネットの情報ですよね」

「由水可のおじいちゃんがお亡くなりになる前に何でも屋のことを色々教えてもらうことができれば良かったけど、そんなこと言っても始まらないから、今はネットの情報を頼りに動くしかないでしょ。さあ、早くやって」

「わかりました」

由水可は不承不承といった感じで頷くとホームセンターで買った青いバケツにスポンジと白いブラシを1本と数本の洗剤を入れたものを持ち、天井を掃除するワイパーを左手に持って浴室に行く。白い壁と青いタイルが敷き詰められた床、薄い水色の浴槽がある浴室に入ると、先程せつりに指示された通りにした。

「いいね。次は浴室全体にシャワーで水をかけて。それが終わったら、壁とドア、浴槽の順番に中性洗剤をかけて」

せつりは由水可が洗剤をかけ終わると、スポンジを由水可に渡した。

「このあとは壁、ドア、浴槽の順にスポンジで擦って行くけど、その前に写真を撮るからこのスポンジで浴室の壁をこすって」

「こうですか」

由水可は写真が撮りやすいように壁の真中あたりに移動して汚れの酷いところをスポンジでこすった。

「うん。いいよ。そのまま、そのまま」

せつりは由水可に声をかけながら何枚か写真を撮った。

「次は貴志さんの写真を撮ってくるから」

せつりは階段を上がり貴志を探した。






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