第5話 旅人さんとの出会い
「あなた達のような小人と、私は小さい頃に
アイリスおばあちゃんは、スカーの身体の泥を綺麗に落とした後、プリムの身体を綺麗に拭きながらゆっくりとその時の思い出を
その小人とはモモくらいの年齢の時に出会ったこと。その小人のことをアイリスは“旅人さん”と呼んでいたこと。旅人さんがくれた木苺がとても美味しかったこと。そして、旅人さんとはあまり長い間一緒に居られなかったこと。
「朝起きて、いつものように旅人さんがいる所に向かったけど、そこに旅人さんは居なくてね…きっと次の旅に出たんだわ。心残りといえば、お別れの挨拶が言えなかったことくらいかしら。あれからとても長い年月が経って、旅人さんとの思い出も夢だったんじゃないかと思っている時にあなた達をモモが連れてきて、あなた達を見た時に、旅人さんとの事は夢じゃなかったんだって私、とても嬉しかったのよ。」
アイリスは手際良くインクの身体も綺麗に拭き、そしてお湯を入れ直してくると言いキッチンへと向かって行った。
「なんだ…全然悪い人じゃないじゃないか」
インクがホッとした様子で安堵の声を漏らす。
「ていうか、僕たち以外の人に会ったことあるんだね」
「アイリスばーちゃん!いい人なのだ!」
ここに住んでいる人間が危険ではないことが分かった小人達は、一安心と胸をなでおろしたのであった。
「さぁ、あなた達このお湯に浸かりなさい!」
アイリスは桶に新しいお湯を入れ、手に石鹸を持って戻ってきた。
三人の小人達はアイリスが持ってきた桶に入り、お湯に浸かり、ほぅ…と息を漏らした。ひと息つくと、アイリスが持ってきた石鹸でそれぞれ髪の毛の汚れを綺麗さっぱり落とし、用意してあったふかふかのタオルにそれぞれが包まれた。
その間にモモが洗濯から戻ってきたようで、小人達の服を暖炉の前に干した。
「服は、着ていたものが乾いたらとりあえずそれを着てね。あなた達のサイズだとすぐに乾くと思うわ。私はスープを温めるわ。モモ、小人さん達を食卓の上に乗せてあげて」
「ありがとう、アイリス。モモ。」
インクはタオルに
「ほーら!乗って!」
モモがクスッと笑いながら両手を三人の元へと差し出す。三人が手の上に乗ると、モモは三人が転んだり落ちたりしないようにゆっくりと立ち上がり食卓へ向かい、机の上にゆっくりと三人を下ろした。
コトコトとスープを煮込む心地良い音とトマトの美味しそうな香りに、小人達の気持ちが高まってゆく。
「スープ!スープ!」
「…おいスカー、髪ちゃんと拭かないと風邪引くぞ」
待っている間、暇な時間を
「ほんっと世話焼きだなぁ…」
二人の様子を見ていたプリムも、気になったのか自分の髪をわしゃわしゃと拭き始めた。
「…三人が着てた服、とても薄かったから多分食事が出てくる頃には乾いてると思うよ」
椅子に腰をかけたモモは机の上に
「…あ!」
一息ついたのもつかの間、突然アイリスが何かに気付いたように大きな声をあげた。
「び…びっくりしたー…どうしたのアイリスおばあちゃん…」
「今気づいたのだけれど、小人さん用のお皿になるようなもの、どこかにあるかしら…家の食器ではどれも小人さん達には大きすぎるのよ、どうしましょう…」
大事なことに気付いたアイリスはオロオロとし始めたが、モモにはすぐそれにぴったりのものが思い浮かんでいた。すぐさま立ち上がり、キッチン横の扉へと向かう。
「アイリスおばあちゃん、そこは気にしないで!ちょっと待ってて!」
扉が閉まり、しばらくガサゴソと音が聞こえた後、モモがドールハウスと何かが入った袋を両手いっぱいに抱えて部屋から出て来た。
「それは…家か?」
「そうよインク、これ私が何年か前におじいちゃんにプレゼントしてもらったドールハウスなの!それでね…」
モモは大きめのドールハウスを机の上へと置き、中心から二つに開くと、袋の中身も一緒に机の隅に広げた。
袋の中からは、ドールハウスの中に飾るミニチュア家具やこの為に用意していましたと言わんばかりの雑貨が大量に出てきた。モモは手際良くその中から、ミニチュアの食器をいくつか取り出した。
「これを洗って使えばいいと思うわ!フォークやスプーンもあるのよ!」
「すごい!僕たちにぴったりなサイズだ……」
「ベッドかたいのだー!」
三人の小人達は、ドール用の家具や雑貨にテンションが上がってわちゃわちゃ賑やかに騒ぎ始めた。
その様子をよそに、モモは小人用に選んだ食器を手際よく洗い、
「服一枚だと今の時期、朝と夜寒いだろうなぁ…」
旅人のような格好や荷物も持っていない、どこから来たのか、何者なのか、何もわからないボロボロの格好をした彼らと出くわしたモモは、たくさん聞きたいことがあったが、また今度でいいかと口を閉じたのであった。
人間さんと3人のコビト ZEN @asahi_zen
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