ほら、皆様に謝りなさい

脳幹 まこと

ほら、皆様に謝りなさい


 部品長から話は聞きました――あなた、また失敗したんですってね?

 言い逃れしても無駄ですよ。ほら、ここの三〇二六個目の部品を見なさい。三ミリほど枠線からズレている。

 私は何度も何度も言いました。「この部品はお客様に渡るもの。だから絶対に失敗してはいけない」と。この部品には皆様の思いが積み重なっているんですよ、それをあなたは台無しにしてしまった。それを分かっているんですか?

 分かっている? 分かっているですって? 分かっていないじゃないの。分かっていれば失敗なんてするはずないのですよ。あなた、こんな簡単に出来る仕事すらまともに出来ないの?

 毎日毎日同じことしかしてこなかったのですよ、あなた。同じことしか出来ないあなたが、それすら出来なくなったら一体、何が残るって言うんですか。

 また、あなた、そうやって。あなたの悪い癖なのですか。怒られる時はいつも、そうやって俯いてばかりで。

 俯いている暇があったらねえ、次の部品の組み立てを行うとか、他にやることがあるんじゃないのかしら?

 怒られている間、あなた、まるで動かないじゃない。まったくそれだから駄目なのよ。「動かない」なんて無駄無駄無駄。どうして、そんなことが出来るの。そんな、エネルギーの無駄遣いが出来るの。

 さっさと今日の分の部品を組み立てなさい。怒られているから無理ですって?

 まあ、あなた!! まあ!! まあ!! まあ!!

 ひどい口ぶりだわ。私のせいってこと? 私が怒っているから、作業が止まっている、そう言いたいのかしら?

 そんな幼稚園児でも言わないような言葉がどうしてこんなにペラペラと出せるのかしら。本当に呆れる、呆れてしまう。

 あなた、こんなことを考えているのでしょう。「口答えしたいけど、上役だから言い返せない」と。ああ、ああ。理解できますわよ、本当に。自分の聡明さがうんざりするくらいに分かってしまいます。

 それがエネルギーの無駄だと言っているのです。そんな負の感情に囚われるくらいなら、部品を組み立てればいいのです。部品を組み立てながら、私への憤りを持てばいい。自分の無能さを責めればいい。将来への不安を抱けばいい。

 なのに、あなたはそうしない。一つのことしか考えられないから。本当に酷いわ、真っ先にAIに仕事を取られる人間だわね、あなた。

 さっさと手を動かしなさい。部品を組み立てなさい。組み立てながら皆様に謝りなさい。皆様も部品を組み立てながら、あなたの謝罪を聞いていますから。

 あなたが色々な感情を抱きつつも謝罪をしているところを、皆様も部品を組み立てたり、自分のことを考えたりしながら聞いていますから。

 良いですか。さっさと動かしなさい。毎日毎日やっているのだからお手の物でしょう。目で見なくたって分かるでしょう。ほら、一三六三二個目の部品の部品が流れてきましたよ、さあ。さあ!!

 ……。

 …………・

 もう。

 どうして、さっきから俯いてばかりなの!?

 ああ、部品が流れて行ってしまった。あなたがもたもたしている内に、あなたがやるべき作業がどんどん流れて行ってしまう。あなたの作業が増えていく。あなたの罪が増えていく。

 あなた、どうして止まったままなの。あなた、困った顔をすれば誰かが代わりに仕事を請け負ってくれるだろうとか考えていない?

 違うのよ。あなたの分はあなたが組み立てなければいけない。誰も助けてくれない。あなたがぼうっと突っ立っている間、どんどんと他の人は部品を組み立てているわ。そろそろ、今日の分は終わりかもしれないわね。

 でもあなたはどう? こんなに時間が経っているのに、一個も組み上げてないじゃない。私に怒られているなんて理由、通用するわけないじゃない。それはそれ、これはこれじゃない。

 あなたが失敗しようが何しようが、あなたの仕事が減る訳ないじゃない。

 さっさとやりなさい。ともかく、次、失敗したら承知しませんからね。あと、あなたが今日見過ごしてきた六七九〇個の部品の組み立ては、今日中に終わらせなさい。

 ええ、物理的に無理ですって?

 そんな言い訳、通るわけないでしょうが。なんとかしなさいよ。そろそろ皆、帰ってしまうわよ。

 ああ、皆、へとへとそう。まあ、分からなくもないわ。体力勝負でもあるから、この仕事。よく頑張ったって思うわよねえ、あなたも。

 私? 手伝う訳ないじゃない。私は悪くないんだから。

 あなたが悪いのよ。皆様に謝って、手伝ってもらったらどう?

 聞いてくれるかどうかは別だけど。

 ……。

 ……何を、しがみついているの?

 だから助けるわけないじゃない。どうして分からないの?

 理由がないじゃない。あなたを助ける理由が。

 部品が出来なかったらあんたも困るだろう、ですって?

 あなた、出来損ないねえ。三ミリズレてるこの不良品とまるで同じ。

 その時はあなたの周りに請求するわよ。損害賠償をね。

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