転生反逆戦線

みのる

転生しすぎ

『日本政府 政治機能の維持を断念』


 薄い一枚の新聞紙の半分は占めるだろう大きな文字と、「元国民の保護は米国に」の文字、そしてあきらかに議員の数が少ない議会の写真で埋まっていた。

 裏面には『転生研究所 「神様」との接触断念』 『台湾 転生者数1千万人迫る』 『本紙は今号をもちまして休刊します』の見出し。やはりこれだけで記事の半分を占める勢いだ。

 駅のホームでそれを読んでいた新見信貴にいみしぎは、その新聞を丸めて捨てる。突然吹いた強風が、軽くも表面積を持った丸い新聞紙を飛ばし線路に落とした。もとより捨てられていた物だが、もう問題ない。この路線はもう動いていない。いや、この街はもう機能していないのだから。

 「いた!探したんだよ信貴!」

 幼さが残る女声が信貴を呼ぶ。高架のホームを下り、動いていない改札から出た駅前広場の奥から呼ばれた。

 「マカ。別に10分も離れてないだろ。」

 「その10分もないうちに変なところに行くからだよ!ほんとにもう毎度毎度・・・」

 「別に迷ったわけではないしいいだろ」

 「よくないですぅ!私が怒られるんですぅ!いいから帰るよ!」

 マカと呼ばれたその少女は、半分怒っていてやっぱりもう半分も怒っているようにピンクの髪を揺らす。いかにも平凡的な日本人の若者然とした信貴と比べて、その大きな目と整った顔立ち、なにより目が痛いほど鮮やかなピンクの髪は外国人にもそういないだろうが、これがというのだから信じられない。

 「・・・」

 先ほどまで自分がいた駅と、それに隣接している─もはや廃墟と化したビル群を一瞥し、少し遅れマカについて歩く。

 背中に大きくバツが重ねられた女神が描かれたジャケットを、飛ばされないように抑えながら。



 西暦2XXX年、突如出現し人類へコンタクトを送った上位存在─通常「神様」は、人間を突然並行する「異世界」へと「転生」させ始める。当初は日本人の若者のみであったものの、徐々にサラリーマン、老人、やがて全世界のあらゆる世代の人間を異世界へ転生させ始めた。

 日本政府はじめ、各国はあらゆる手段、技術をもって「神様」との対話、あるいは戦争を試みたがその全てが失敗に終わり、世界総人口は「神様」出現前のおよそ4割へと落ち込んでいた─



 もはや抵抗する気を無くした世界、その中で唯一「神様」に対抗するために活動を続ける組織が存在した。

 『転生反逆戦線』。

 異世界転生者、異世界転生経験者によって構成された、最後の反抗勢力。

その目的はただ一つ、「異世界転生を阻止すること」。

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転生反逆戦線 みのる @hokuro510

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