最終話 ~祭りの後の夢~4/4
360インチ相当の画面に映し出された輝く【おめでとう】の文字。
それは今この瞬間、小学4年生の少女が全平行世界の頂点に立ったという事実を告げていた。
「――終わり、ですか」
己の信念を懸けた勝負に敗北し、どこか満足げに呟く赤のエブリパ仮面。その手のひらから健全すぎるアメコミ原作プラグ&プレイゲーム機のコントローラーが滑り落ち、堅い音を立てて床を跳ねた。
「赤のエブリパ仮面の闇の神力が弱まっていく――今だ、えりちゃん――」
「うん!」
「煌めいて! マイ・ハードディスクドライブ!」
魔法エブリパ少女が胸に付けたHDDを杖の石突きにセットし、バトンのように回転させたのち斜めに交差させるように大きく二度杖を振り上げる。
その動作一つ一つを宙を舞うKinectが検知し、杖の軌跡に翡翠の光を残していく。
杖とKinect、二つに分かたれた宝玉に込められた力が混じり合い中空に描かれるのは、内部にXの字を抱いた魔方陣――巨大なXbox360のロゴだ。
そして交差するラインの中心に押し当てるように、少女が砲と化した杖を構える。
HDDに込められた神力を受け取り輝きを増していく杖の宝玉。それに呼応するように魔方陣が回転し、その光を何倍にも増していく。
そして宝玉の光が最大に達した瞬間、少女の右指が引き絞られる。
「ももこびーーーーーーーーーむっっっっ――」
瞬間、魔方陣の光の全てが杖の先端へと集まり膨張し、世界を
「――えーーーーーーーっくす!!!!」
砲の先端から撃ち出されるXを描く膨大な
「ああ――」
Y○SHIKI御殿全体を満たすほどの光の波を赤のエブリパ仮面は抵抗することなく受け入れる。
まるで己の肩に乗る清らかな表情を浮かべた青髪の美少女フィギュアに、無様な姿は見せられないとでも言うように。
「ですが、やはり口惜しい……この世界ならば、私の願いも実現し得たというのに――」
決して捨てさる事の出来ない夢が赤のエブリパ仮面の口から漏れる。その言葉を聞いたエブリ子が、何かを思うように口を開いた。
「AKAKINさん、いろんなゲームを紹介してくれたよね。Y○utubeで、たくさんの人に」
「そうです……私は知らせたかった……あらゆる知的生命体に、全てのゲームは生まれた時から神ゲーであることを……」
「でもわたし、エブリパーティ遊んでるAKAKINさんの方がずっと楽しそうに見えたよ!」
それは問いではなく、答えだった。
これまでエブリパ仮面達に問う事しか出来なかった少女が初めて言い切った回答。その言葉を聞き、赤のエブリパ仮面が微笑んだ。
「ええ――そうですね。私も本当に、そう思いますよ」
光のなかにほどけていく赤のエブリパ仮面の言葉から、最後に残った後悔の色が抜け落ちていく。
「全ては遊ぶ喜びから始まった……これだから、ゲームを遊ぶ事はやめられない――」
そして赤のエブリパーティ仮面は光のなかへ消え去った。
後に残ったのは、柔らかな笑みをたたえた『ゼ○サーガ エピソード2 プレミアムボックス同梱K○S-MOSフィギュア』だけ――。
「……さよならだ、赤のエブリパーティ仮面。願わくばきみが、自分の世界で本来の輝きを取り戻すことを祈っているよ――」
つよくんの手向けの言葉が途切れると同時、エブリ子の身体を緑の光が包む。
僅かな時間と共に光が消えると、エブリ子の姿は魔法エブリパ少女となる前の【こずえ】とおそろいの格好に戻り、杖とKinectもまた再構成され元のXbox360ワイヤレスコントローラーの形を取り戻していた。
そしてXbox360Sハードディスク(250GB)からも黒い光が抜け落ち、つよくんとXbox360専用メモリーユニット(64MB)に分離する。
「ありがとう、えりちゃん……きみはあの最狂のエブリパリスト、赤のエブリパーティ仮面を倒して、この世界を救ったんだ……」
「うん、つよくんも……!?」
これまで共に戦い続けてきた相棒にねぎらいの言葉を掛けようとしたエブリ子の表情が固まる。
少女の視線の先には、黒色を失い殆ど透明になったつよくんの姿があった。
「驚かせてごめんね……肉体を捨て、神力も使い果たしたぼくには、もうこの姿を維持することも出来ないんだ……」
「つよくん……なにを、言ってるの……?」
「聞いて、えりちゃん」
つよくんを両手ですくい上げたエブリ子の困惑の言葉をつよくんは遮った。
そしてあの日初めてあった時と同じように、彼は少女へと語りかける。
「このエブリパ世界はぼく達エブリパーティ仮面が観測したことで誕生した。だから別世界の存在であるぼく達は世界に悪影響をもたらす異物であると同時に、世界にとってなくてはならない存在でもあるんだ……」
声を出すことさえもはや苦しいのに、透明になったうさぎは少女に対し言葉を紡ぎ続ける。
「ぼくが元の世界に戻れば、観測者を失ったこの『エブリパーティが64億1千万本売れた世界』は消滅する。ぼくがこの世界に留まれば歪みは増し続け、やがて滅びに到る。だから今ここでぼくという存在が消え、この世界の一部として組み込まれることが、この世界をこの世界のまま存続させる唯一の方法なんだ」
「そんなのないよ! だってつよくん、ずっとがんばってきたのに……この世界のために、ずっと……!!」
「いいんだ、えりちゃん。この姿になった時から、ぼくはこの結末を願って生きてきたんだから……」
「分かんない、分かんないよ! つよくんがなにを言ってるのか、わたしにはぜんぜん……!」
「えりちゃん……」
駄々をこねるように首を振るエブリ子に、一瞬つよくんの心が揺れ動く。
けれどもう、彼には少女に優しい言葉を掛けて慰める事は出来なかった。
これからは彼女ひとりで、その気持ちと向き合わなければならないのだから。
「ぼくという観測者が消えることで、エブリパーティは全人類が遊ぶゲームじゃなくなるだろう。もしかしたら明日には誰もプレイしないゲームになっているかもしれない……。それでも、かつてエブリパーティが64億1千万本売れて全ての争いが解決した時代があったというこの世界の歴史は守られる。それがこの世界を生んだぼくの責任なんだ。だから、えりちゃん――」
「…………うん」
長い時間を置いて、エブリ子が涙をこらえるように頷いた。
少女には彼の言葉の意味が1割も分からなかった。それでも、光の粒に変わりつつある彼の最期の言葉を自分は確かに聞いていたのだと示さなければいけないと思ったのだ。
そしていよいよ、つよくんの身体が崩壊を始める。
透明な身体の端から光の粒となって消滅していきながら、つよくんが最期の言葉を告げる。
「お別れの時間だね……。えりちゃん、今までありがとう。きみのおかげでぼくは自分の願いを叶えられた……きみは世界で一番楽しくエブリパーティを遊べる、世界で一番素敵な女の子だ」
「うん……わたしも、つよくんのこと大好き……おときちくんのつぎに……!」
「ああ――ありがとう」
つよくんが僅かに口元をほころばせる。
それが、殆ど形を失った今の彼に出来る最大限の感情表現だった。
「二次元の推しの次なんて、最高の褒め言葉じゃないか――」
そして、4番目につよいエブリパーティ仮面は光のなかへ消え去った。
後に残ったのは、彼と共に戦い続けた女子小学生の瞳から溢れた涙だけ――。
そして、世界は変革した。
かつてエブリパーティというゲームがあった。
いや、かつてと言うにはまだ早いのだろう。その言葉が遊びの総称であり、平和の象徴だったのはほんの数年前の事だ。
世界64億1千万本の売り上げを達成し、『全ての戦争を終わらせたビデオゲーム』とまで言われた概念。だがそれほどのゲームであっても、ある日を境に人はそれを遊ぶ事をやめた。
現在再び世界中で争いの火種が巻き起こりつつある。一度は葬ったはずの破壊の文明を蘇らせ、人類は退化したと言う者も居る。
しかしこれが人のサガなのだと私は思う。
平穏の時代があれば、戦乱の時代がある。その繰り返しの振り子の狭間を私達は生き続ける。
そのなかで、かつて一本のビデオゲームが人類の歴史を変えたのだという記憶が残っているのなら、人はまた一歩より良い未来に近づいているのだと私は信じたい。
ゲームだけ遊んで生きて行くには、我々の歴史はまだ未熟過ぎるのだから。
(『お祭り騒ぎが変えたもの』あとがきより抜粋)
カーテンの隙間から春の日差しが差し込む室内に、目覚ましの音が響いた。
鳴り響くアラームの発生源であるスマートフォンを部屋の主が手だけを布団から出して止める。
三度戻った静寂に満足して布団を被り直し、その数十秒後にようやっとその意味に気付いた主が布団を蹴っ飛ばして飛び起きた。
女の子らしい色合いに満ちた部屋の隅には、その空気を壊すようにほこりを被ったXbox360コアシステムの箱が置かれていた。
「エブリ子ー! いい加減起きないとほんとに間に合わなくなるわよー!」
跳ねた髪を直す時間もないままに着替えたばかりの少女に向けて、部屋の外から母親の声が響いた。
中学校の入学式という人生でいくつとない大事な日に寝坊した娘を叱るような、同時に少し心配するような声に、少女が部屋から飛び出しつつ返事をする。
「どうして起こしてくれなかったのお母さん~~~!!」
「だってあんた、いつも『もう中学生なんだから自分でなんとかする!』って言ってるじゃない」
「なんとかならない時もあるの!」
「はいはい」
「あとエブリ子って呼ばないで!」
「はいはいはい」
会話の合間に顔を洗いつつ少女がリビングに入る。
学校指定の平凡なブレザー姿からは、もう少女がかつてエブリパーティの筆頭女の子アバター【こずえ】とおそろいの衣装を纏っていた姿を想像することは叶わない。
「それとほら、あんたの探してたやつ落ちてたから置いといたわよそこに」
「えっ!?」
母親が示した先、トーストの乗った皿の横に少女の手のひらに難なく納まる大きさの白い箱のような物体があった。
「ほんとだ……ありがとう、お母さん!」
少女にとって大切なお守り。これが無くなってる事に気付き夜中に部屋中探し回ったのが寝坊の原因だった。
「まったく。名前は呼ぶなって言うくせにそんなの付けて、どうしたいのよあんた」
「これは別なの、これだけは……」
母親の呆れ声にもめげずに、少女がそのお守りに紐を通して鞄にぶら下げる。同じく鞄に付けられた流行のゆるキャラキーホルダー達に対し明らかに異質な大きさと形をした傷だらけの物体がぶつかり、音を立てて揺れた。
ほんの数年前まで多くの人が活用し、けれど今ではその正確な名称も記録容量も忘れられたその周辺機器の名を、彼女は今でも正確にそらんじることが出来る。
『Xbox360専用メモリーユニット(64MB)』。それはあの日あの時少女が夢物語の主人公だった時間の存在を証明してくれる、ただ一つこの世界に遺された物体だった。
「てかあんた、そんなことしてる場合じゃないでしょ」
「ふみゃあ!?」
我に返りスマホを確認すると、時間は既に真面目に走ってギリギリという段階になっていた。
玄関へ続く通路と用意された朝食を二度見比べ、意を決したように少女はトーストを口にくわえて玄関へ向かう。
「いやあんた……それ許されるのマンガのなかだけでしょ」
「
「その頭のおかしさがいつかバカじゃない方に大成すること祈ってるわよマジで」
持って回って辛辣な母親の言葉を聞き流しつつ、少女は靴を履き扉を開く。
「――!」
目の前の道で反射した陽光の煌めき。その光の粒が一瞬、彼がこの世界から消えた時の光と重なった。
その既視感を振り払うように、少女は咥えたパンを手に持って振り返り叫ぶ。
「行ってきまーすっ!」
里見エブリ子。中学一年生。
少女の人生は、まだ始まったばかりだ――。
おわり
参考文献
第五回エブリパーティ大会7 決勝戦
https://www.nicovideo.jp/watch/sm33909767
第五回エブリパーティ大会10 決勝再試合
https://www.nicovideo.jp/watch/1538405047
D○!Do!Do!しようぜ
https://www.youtube.com/watch?v=whE0Y0LeNWE&list=PLArUtUj6BzX-Z03R-r48fzvKEf0ON0ir6&index=1
顔に最も有名な革命家の面を被り以下略
https://twitter.com/KgPravda/status/699415885711159296
健全すぎるアメコミ原作プラグ&プレイゲーム機のコントローラー
https://twitter.com/kgpravda/status/579658597790961666
邪神モッコスとは - ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/a/%E9%82%AA%E7%A5%9E%E3%83%A2%E3%83%83%E3%82%B3%E3%82%B9
おまかせ!とらぶる天使とは - ニコニコ大百科
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%8A%E3%81%BE%E3%81%8B%E3%81%9B%21%E3%81%A8%E3%82%89%E3%81%B6%E3%82%8B%E5%A4%A9%E4%BD%BF
――――――――――――――――
〈特報〉
(初夏の日差しが反射する通学路を少女が駆けていく)
(エブリ子のナレーション)
『わたし里見えり子! 中学一年生!』
(本編の回想の連続)
『つよくんと出会って魔法エブリパ少女になったあの日からもう3年』
『時々ほんとは全部夢だったんじゃないかって思っちゃうこともあるけれど、このメモリーユニットを見るたびにそうじゃないんだって思い出すの』
『今はもうみんなエブリパーティをやめちゃったけど、それでもあの頃つよくんと一緒に頑張った時間は、とっても大切な思い出なんだ』
『そんなある日、外国から新しい転入生がやってきたの――』
(白髪の美少女が黒板に書かれたアルファベットの綴りを背に無表情に立つ)
「つむぎ・エンタングル。アラモゴードから来たの」
(つむぎがエブリ子の席の側を通る瞬間、目線を送り囁く)
「よろしくね、エブリ――」
(テロップ:不思議な転入生『つむぎ・エンタングル』)
(エブリ子とつむぎが並んで並木道を歩く)
「違うよ、わたしの名前はえり子! エブリ子なんて恥ずかしい名前じゃないもん!」
(微笑むつむぎのカット)
「どうしてあなたは本当の名前を隠すの、エブリ?」
(恥ずかしげに顔を背けるエブリ子のカット)
「だって、もう誰もエブリパーティなんてやってないし……」
(BGMをバックに二人の関係が深まっていくカットが連続して流れる)
(夜道で別れようとしたつむぎがエブリ子を振り返る)
「ねえエブリ」
(BGMが止まる)
「私が人類の支配を企む人工知能に送り込まれた工作員だって言ったら……あなたは信じる?」
(エブリ子が目を見開くカット)
「つむぎちゃん……あなたは、まさか……」
(最終回のつよくんが消えるシーンの回想)
「つよくん……!!」
(世界中の空にエブリパーティで?マスに強制移動させるマスで出てくるやつそっくりのUFOが現れる)
「矮小ナルタンパク質集積体共ヨ。我ガ名ハ【マスクド・エブリパ】」
(各種報道のカットの連続)
「真ノエブリパーティヲ識ル物デアル」
(各国首都が人工知能の操るエブリパーティロボに征服されていく)
(つむぎが高所から街を見下ろし両手を広げる)
「人類が本当の
(走るエブリ子)
「つむぎちゃん、どこに居るの……!」
(どあちゃんがエブリパーティロボを33P+Gで投げ飛ばす)
「行って、えりちゃん!」
(対峙するエブリ子とつむぎ)
「私は戦ったわ。四○(仮)の時も、○獅の時も、ああ播○灘の時も……エブリ、あなたはどう?」
(メモリーユニットを握るエブリ子)
「つよくん……わたしにもう一回だけ、みんなを護る力を!」
「クロス――レイトレーション!」
(装飾パーツ部分の変身バンク)
(重要な部分は見せずに台詞を被せる)
「夢幻の箱の名の下、スカーレットの導きをここに! 魔法エブリパ少女里見エブリ子、ジャンプイン!」
(テーマソング【D○! Do! Do! ~Scorpio Remix~】が流れる)
(アクションシーンの連続)
「私達はソースコードにエブリパーティを宿命付けられた存在。人間に届く領域ではないの」
「コレガ、裁キノ時デアル」
「だからあなたは、私なんかに構っては駄目――」
「世界を守る! つむぎちゃんも助ける!」
(アップのエブリ子の口の動きが台詞と重なる)
「だって、わたしが世界で一番楽しくエブリパーティを遊べるんだもん!!」
(黒バックにタイトルテロップ&コール)
〈映画魔法エブリパーティ少女えり☆ちゃん!
~アラモゴードから来た少女~
エブリパ年M月S日公開!
(BGMが消え、ブオンとSE付きでテロップ)
――これが最後の
(無音でカラフルな告知)
~つよくんストラップ付き前売り券発売中!~
~入場者特典:光る!
魔法エブリパーティ少女えり☆ちゃん! 4番目につよいやつ @buibui
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