【Third Season】第九章 君を撃ち抜く勇気 BGM#09“Fight a Duel.”《行間三》



行間三



 深刻なエラーが発生しました(err.No.445189ff4a)。

 全ディーラーの身命と財産の保護のため、強制ログアウト処理を実行します。

 お疲れ様です、リリィキスカ=スイートメア様。


「づっ!?」

 リリィキスカ=スイートメアというハンドルネームを使っている少女もまた、生活感のないモニタだらけの部屋で頭を押さえていた。おそらくは国境を越えて世界中のあらゆるディーラー達がやっているのと同じように。

 何かしら、大規模なシステム障害に襲われた。

 スマホに目をやっても、マギステルスの『総意』とやらはメールもメッセージも送ってこない。パートナーに対する特権的なものを用意している余裕もないようだった。人ならぬ悪魔が泰然自若としていても、やはり絶対の存在という訳ではないのか。

 あと少しだったが、取り逃がす。

 どうやってもあの少年だけは絶対に届かない。

 裸にワイシャツ一枚、長い黒髪もあちこち跳ねるがままにしている少女はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。結局のところ、『蠍の執着』とは何なのだ。どう付き合っていけば良い? 一番求めるものだけ永遠に手に入らない呪い、みたいな才能でない事を祈るしかない。

 ゲームの中に入れなければ少女は動けない。

 数字を目で追って金を稼ぐ以外何もできない人格破綻者がリアル世界でできる事はあまりにも少ない。

 となるとネットワークが安定するまでは小休止か。

(……待てよ)

 と、ここで引っ掛かりを覚えるから少女は突出しているのかもしれない。

 禍々しい蠍の尾のように。

(世界中のディーラーが同じように強制ログアウトされているこの状況。だったら逆に、ログイン・ログアウトの過程で不自然な動きをする人間を炙り出す事もできる?)

 蘇芳カナメが『そう』だとは限らない。

 ゲームの中ですら届かない存在をリアル世界で追い回せるとも。

 だけど。

 かつて少年と共に戦い、そして互いに銃口を向け合って対立した少女は『事情』についてもある程度精通していた。

 蘇芳カナメでなくとも。

 そのすぐ近くに特大のイレギュラーが存在する。

 そして少年に危難が訪れていれば、そいつはまず間違いなく己の力をフルに発揮するだろう。リリィキスカはもはや確信していた。世界経済全体が粉々に吹っ飛びかねない大きなシステム障害が起きる時は、必ず蘇芳カナメというディーラーが巻き込まれる時だと。

 おそらくここから手繰っていけば、その隣に立っている少年にまで辿り着ける。

 今度こそ。

 今度の今度こそ、一つでも彼のためになる事ができる。

 半ば祈るようにして、少女は頭の中に浮かぶ鍵の名前を口の中で呟いていた。


「無辜の管理者……蘇芳アヤメ」

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マギステルス・バッドトリップ 鎌池和馬/電撃文庫 @dengekibunko

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