第8話 武器調達

「ここがアームズストア、要は武器屋っすね」


 テンに案内されて、シオンはアームズストアまでやって来ていた。武器屋と聞いて無骨な建物を想像していたが、テンが案内してくれた建物に雑多な印象はあまりない。むしろ教会のように荘厳な外装と、博物館のような洗練された内装を兼ね揃えていた。


 武器は大抵が規則正しく並んで壁に固定されており、弓やユニフォームに至っては専用のガラスケースに飾られている。

 値段や説明、そして番号がその近くに書かれているため、これを店員に言うと実物を持ってきてくれる仕様のようだ。


「ここら辺は正規品しか売ってないので、うちらには縁のないところっす。よっぽどお金をかき集めたとしても、得意武器一つ買うのが限界っすね」


 値札を見ながらテンが自分の両肩を掴み、恐怖に震えるような仕草をする。


「用があるのはあっちの中古コーナーっす! たまに不良品が混ざってるっすけど、ギリギリ手が出る値段っすよ。私が不良品の見分け方や、前から狙ってた掘り出し物を教えてあげるっす! うちの観察眼は一家言持ちっすから、安心してほしいっす!」


 テンが誇らしげに言うので、中古コーナーとやらに目を向けた。


 そこはシオンが想像していた武器屋そのものの雑多な空間で、古そうな棚に乱雑に武器が詰め込まれている。普通に危ないだろあれ。


「シオンはこの前、刀を選んだんっすよね? だったらこの「洋刀ムラサメ」なんかお勧めっすよ! 全体のチープな作りにも関わらず剣先はきめ細やかで、素材も悪くないっす。そして何よりこの遊び心溢れる柄! ここら辺の模様にも実はちゃんと意味があって、魔力伝導体の配置が……」

「店員さん。こっからここまでの武器、全部一つずつ持ってきてくれねぇ?」

「えぇ!?」


 テンの解説など全く意に介さず、シオンは店員を呼びつけて大胆な注文をしていた。しかも彼がいるのは中古コーナーではなく、正規品のコーナーである。


「話聞いてたんすか!? そっちはとてもじゃないけど私達に手が出る値段じゃ……」

「お、お買い上げありがとうございましたー……」

「えええええ!?」


 テンの追求が終わる間もなく、シオンは正規品コーナーの棚一つ分を買い占めていた。支払いはもちろんこれ、ブラックカード。


 余りに想定外な事態に、テンもアームズストアの店員も気が動転していた。


「な、なんでそんなにひょいっと買えるんすか!?」

「なんでって……知らないのか? クレジットカードは現金払いよりもスムーズに物が買えるんだぞ?」

「そういうことじゃないっす! なんでそんなにお金持ってるのかって聞いてるんすよ!」


 なんで、と聞かれても困るところだ。エドワーズ家は世界トップレベルの大富豪なので、武器なんていくら買ってもお小遣いで事足りるのである。むしろシオンは、テンがなんで騒いでるのかが分からなかった。


「あー……なんだ。お前も何か買って欲しいってことか?」

「え!? いや、別にそういうわけでもないっすけど……」

「武器の一つや二つ、好きなの買ってやるよ。武器屋を案内してくれたお礼にな」

「ふぇっ!? い、いや悪いっすよそんなの……! 悪いっす……よねぇ?」


 高い武器を無料で貰うのは気が引けるようだったが、それでもテンの顔は物欲を隠せていなかった。シオンの顔色を窺いながらも、目線がチラチラとショーウィンドウの方に向いている。


「早く決めないと、俺もう帰っちゃうぞ?」

「ちょ、ちょっと待って欲しいっす! ほ、本当に良いんすね!? 頼んじゃいうっすよ!? それなりに高いの頼んじゃいますよ良いんすね!?」

「良いって言ってんじゃんか」


 何をそんなに動揺しているのか本当に分かっていない坊ちゃんなシオンが、呆れ顔でテンを見つめる。一方、完全な承諾を得たテンはテンにも昇るような笑顔で、「じゃ、じゃああれを……」と控えめな声で指さした。


 まだ遠慮があるようでそんなに高くはないが、正規品の、破れにくいユニフォームである。やっぱり何かとユニフォームが破けることは気にしていたようだ。当然と言えば当然だが。


 要望を聞いて頷くと、シオンは気負うこともなく追加注文した。店員がユニフォームの実物を持ってきたのを確認してから、魔力で動くカードリーダーにブラックカードを翳す。


 すると、さっきまでは正常に反応したブラックカードが、何故かカードリーダーに弾かれた!

 単に反応しないだけではなく、カードリーダーの魔力に弾かれるとは一大事だ。


「あれ、なんでいきなり……。まさか!」


 この短時間で使えなくなる理由と言ったら、シオンには一つしか思い浮かばない。


 こんなことをわざわざするとしたら……兄しかいない……!


 顔を若干青くしながら、シオンはテンに誤った。


「ごめん、多分兄にブラックカードの使用を止められたかもしれねぇ……。ちょっと家に戻って確認してくる!」

「え、止められた!? どういうことっすか!?」


 テンの質問も意に介さず、シオンはアームズショップを飛び出した。


「私のユニフォーム……」


 彼の買った武器と一緒に一人取り残された彼女は、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。




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〈磁力〉

物理魔法 動力属性lv.1

効果:金属を引き寄せたり飛ばしたりできる。方向の制御ができる分パワーは低いが、テンは移動主題の一つとして用いている。


射程:5メートル

対象:金属

起動時間:2秒

消費:2

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