第4話夢魔、襲来。

都へと戻った孫登は太史慈を抱えたまま、その足で診療所へ向かった。太史慈は無事であったが不可解な術の為に未だに意識が戻らないでいたのだ。しかし太史慈を診た医師は意外な言葉を口にした。

「この方は至って健康そのものですな。」

「え?健康って…。でも意識がないんですよ!?」

詰め寄る孫登に医師は返答に困った表情を返し、改めて寝床に横たわる太史慈を見る。

「なぜかはわかりませんが体そのものは健康体そのものなんです。ですが意識だけが戻らない…いわゆる脳死状態というやつです。」

「脳死って…そんな…。先生、さっきまで普通に歩いていたんですよ?そんなわけない!」

孫登の剣幕にたじろいだ医師は懸命に理由を説明した。

「今の医学では彼の症状を説明するのは難しいのですが…ですが回復の可能性がないわけではありません。これを見てください。」

医師が指差す方を見ると太史慈の手首、ちょうど張角の術で不可思議な光の輪が見えた所に解読不明な文字が浮き出ていた。

「これは…?」

「私は呪術に疎いのではっきりとは申せませんが彼の意識が戻らないのはこの字が関係しているかもしれません。」

「じゃあこの呪いを解くことができれば太さん

の意識も戻るかもしれないんですね!?」

「あ、あくまで可能性ですよ?コホン…。ただいずれにせよあまり時間が残されていないのは確かです。」

「え?それってどういう事ですか?」

孫登の問いに医師は太史慈の脈をはかりながら言う。

「先ほどから定期的に脈をはかっているのですが、徐々に弱まっています、もって3日。その間に解決できなければ彼の命は…。」

その時、診療所の扉をけたたましく開け放ち、怒号と共にここに駆け寄って来る人物がいた。

「孫登!これは一体どうしたんだ!?」

「甘さん!」

その人物は見事な銀髪の髪に赤いはちまきをした見事な体躯の持ち主で、孫登には太史慈と同じくらい親密な関係の持ち主であった。名は甘寧。一国でも一、二位を争う程の優れた武芸を持つ人物である。甘寧は太史慈を一目見ると孫登に告げた。

「孫登、何があったか知らないが太は憑依されている。それもただの憑依じゃない。何者かに使役された使い魔によっての意図的な憑依だ。」

「そんな!じゃ、じゃあ張角が何か太さんにしたんだ…。」

孫登は思い当たる節があり、今までのいきさつを甘寧に話した。しばらく目をつむった甘寧だったが、やがて意を決したように孫登に言う。

「孫登、太の中に入るぞ。」

「え?入るって…どういう事ですか?」

「体は異常がないのに目覚めないのは太の精神が囚われている証拠だ。俺達は今から太の精神世界に入り、その元凶を断つ。」

甘寧はそう言うと呪文を唱え出す。

「え!そ、そんな事が本当に可能なんですか??っていうか甘さん大丈夫なんですか?」

孫登の返答に甘寧は呪を唱え終わる事で返事にする。

「この者を捕らえし邪悪なる魂よ。我、万物の理を以て浄化の裁きを下す!我が魂と戦士の魂よ、共にその世界へ討伐の為、いざ往かん!」

言い終わるや否や、甘寧はごそごそと懐から大きな白い札を取り出す。すると札は光輝き、甘

寧と孫登を包み込むと二人から青白い光の球体現れ、その球体は太史慈の額へ吸収される。そして脱け殻のように二人の体はその場で崩れ落ちた。一部始終を目の当たりにした医師は腰を抜かしていたが、吸い込まれかけた球体が一部、太史慈から戻ってきて医師の眼前で甘寧の顔を成したので医師は更に悲鳴をあげた。

「あ、俺達は死んだわけじゃないからな!そのままにしておいてくれ!決して燃やさないように!以上!」

そう言うと、甘寧の顔をした光は再び太史慈の中へと吸い込まれていった。

「………。」

医師はただぽかんと太史慈の顔を見つめ続けていた。


延々と続く光の環。そしてその環には無数の記憶の光が行き交う。その中に二つ、とても大きな光が走っていた。それはやがて人の形を成していく。甘寧の術式は成功したようだ。

「え?」

「…よし、上手くいったみたいだ。孫登、今から言う事をよく聞くんだぞ!」

「え!」

「俺達は今から太史慈の目覚めを阻害している存在をぶっ倒しにいく!精神を縛る者を倒すには精神体となって戦うしかないからな!」

「ええ!?」

「急な話だが事態が事態だからな。頼むぞ孫登!」

「甘さん、変な顔~!」

「人の話を聞けぃ!!」

甘寧は孫登の顔面を思いっきりぶん殴った。

「いいか!精神体は自分が思う形でその通りに見た目が形成されるんだ。お前がどういう想像したか知らんが変な想像したら張り倒すぞ!」

「そ、そうなんですか…。うーん、じゃあ…。」

孫登はどうせならと絶世の美女を想像してみた。すると甘寧の言う通り、甘寧の精神体は銀髪の赤いはちまきに色白で目はぱっちりとした唇が魅惑的で巨乳の女戦士へと変化した。

「おお♪」

「おお♪って何だ?まさかまた変な想像を…。」

「いや、いつもの色男ですよ!さあ行きましょう甘さん!」

「何だか気になるが…まあいい。この道の最奥に太史慈の深層意識、つまり太史慈の心があるはずだ。時間はない、急ぐぞ!」

女戦士と化した甘寧は孫登によって想像された巨乳を大きく揺らし、光の帯となって深層意識の底を目指した。


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あの空の下に帰る日まで。 @gokuryu1003

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