君は願う。
一陣の風が吹く。あまりの強さに思わず目を閉じてしまう。そっと足元を見るとどこかの建物の屋上にいた。神様が気を利かせてくれたのか周りの景色から察するに病院の屋上に飛ばしてくれたようだ。既に日が落ちていた。彼女の部屋へ向けて歩みを進める。一歩ずつ踏みしめながら、自分の選択が間違っていなかったことを言い聞かせながら。
この街の住人はそれがどんなに近しい人であっても亡くなっていれば短い間にその人の事を忘れる。写真などを見れば少しは思い出せるが見ている間だけだ。これを町の人は気付いていない。僕自身も神様の下を訪ねるまでは疑問に思わなかった。明らかにおかしいのに。
これに気付くきっかけになったのは家で飼っていた犬が死んでしまったからだった。神様なら何とかなると思って必死にあの気の遠くなる高さの階段を上った。例え神であっても生命を弄ぶことは許されない。僕はそれをわかってはいたけれども願わずにはいられなかった。共に暮らす大事な家族だったから。神様の出来ない、と言う言葉に泣きじゃくって困らせてしまったのは今でも覚えている。どうやって僕を慰めたのかはもう覚えていないが、その時に死者に関する記憶を封印するという奇跡と言うより呪いの適応外になった。
彼女の病室を覗くとすでに起きていたようで外を見ているのが目に入った。弱弱しくなってしまった彼女、その白い肌は月明りを反射し幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「調子はどう?」
「まあまあかな」
もう余り力が出ないようで頑張って笑顔を見せているのが理解できた。
「僕、君を忘れない事に決めたよ」
「そっか......それでいいんだね?」
頷いて返事をすると彼女を一筋の光が伝っていった。
「私ね、死ぬことよりも忘れられることの方が怖かったの
「だから......ありがとう」
そう言った彼女は何よりも美しかった。
この世界では一度しか死なない。 てくの @techno
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