君と夏の終わり
村山 夏月
2人だけの花火大会
誰もいない神社の境内で2人は覗くように花火を見上げた。
わぁ、と隣で溢れる声。
すごいね、とつられて言葉が出る。
似た日はあれど、同じ日はない僕らだけの愛しい日々。
お互いに姿勢を正そうとした際、不意に触れ合ってしまった小指。
生温い夜風が焦らすように2人の間を通り抜けた。
僕は反応を伺うように視線を隣に移す。
しかし、夜空を鏡のように映した瞳には花火だけしか捉えていなかった。
淡い期待は
触れた指を気づかれないように離そうとした時、彼女に突然、掴まれた僕の左手。
思いも寄らない状況に置き去りにされた僕の頭上には
呆気に取られて驚く僕に悪戯っぽく笑う君。
大きな音と共にその日一を誇る大きさの
それは2人の意識を容易く奪う。
手は繋がられたまま、お互いの恍惚な表情は夜空に咲いた花によってさらに明るくなる。
やや暗い
クライマックスを迎える花火大会は、少し間を置くように小さな
咲き散った花火を目で追うように隣を向く。
綺麗な横顔には子供のように楽しむ無邪気な笑顔があった。
彼女の頬がほんのり桜色なのは、花火のせいか、夏のせいか、それとも……。
思考は笛のようにひゅーと鳴る音によって途切れた。
打ち上げられた花火は彗星のように白く輝く尾を引きながら空へと上っていく。
繋がれた左手から還ってくる血液は沸騰しそうなほど熱く、花火の期待と相まって心臓は不規則で早い鼓動をしていた。
まるで、
こんな状況に耐えられそうにない僕は素直になり、
そして、ずっと心の奥底にしまっておいた大切な二文字を告白した。
「あのさ、俺、
僕の恋の行く末を見守るように夜空には先程の
手持ち花火の導火線に火をつけた後に似た焦れったい時間が流れる。
答えは、と視線を送るが彼女は歓喜の表情を浮かべず、真剣な面持ちで僕をただ真っ直ぐに見つめた。
その顔は、私が
菊の花火は失敗で終わったのか、呆気ない音を立てて儚く散った。
やってしまった、と後悔が僕の目の奥を熱く燃やす。
彼女の視線から逃げるように、煙で霞んでいる空を仰いだ。
僕は1つ重大な勘違いをしてしまったらしい。
それに気づけなかったのは興奮のあまり、冷静さを失っていたせいだ。
花火大会はさっきので終わりを迎えたのか、やけに誇張された静寂がこの街を独り占めするように包んでいて何も聞こえなくなった。
しかし、それはまるで……
この世界が、ある言葉を待っていたのかもしれない
「私も、
その言葉は心の中に恋模様の花火を打ち上げる。
勝手に勘違いをして落ち込んでいた僕にとって、その言葉は奇跡のように感じた。
そして、奇跡はそれだけでは終わらない。
まるで僕らを祝福するような、拍手に似た音を合図に、2人はまた夜空に惹かれてしまう。
さっきの失敗したと思われた菊は
紅、青、緑、黄色。それらの彩色に顔の半分を照らされた彼女は僕に感動を共有する。
「凄く綺麗だね」
細い指で涙を拭い、柔らかく相好を崩す君。
夜空が抱えきれないほどの花束よりも、僕は隣に居る彼女に見惚れる。
「うん、凄く綺麗だ」
僕の声は花火の音で掻き消されそうだったが、彼女の嬉しそうな表情を見る限り伝わったらしい。
それから2人は視線を夜空に戻した。
この刹那が永遠に続くことを願いながら、僕は繋がれた左手を優しく握りしめる。
美紗季も浮いた足を揺らしながらそれに倣ってぎゅっと握り返してくれた。
その時、見た花火は人生で最も綺麗だった。
花火大会が終了した後も、僕らはまだ少しだけ神社に居た。
2人っきりで肩を寄せ合って、繋がれた手はそのままに。
今度は覗くように宝石が飾られた夜空を見上げる。
2人の間を優しく通り抜けた夜風。
繋がれた手に入り込んだ。
夏の終わりと恋の始まり。
君と夏の終わり 村山 夏月 @shiyuk_koi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます