ちいさなまちにある市立みやもり幼稚園さくらぐみ。
そのランチタイムにななみちゃんの特別なランチ、
アンパンマンパンが何者かに食べられてしまった。
楽しみを奪われななみちゃんは泣きじゃくり、新人担任ももこ先生も頼りにならず、
ランチタイムは阿鼻叫喚の大恐慌時間に突入してしまう……。
衝撃的な導入から始まる大事件。
しかし、事件や犯罪には探偵という要素が欠かせないというのが、
エドガー・アラン・ポーのころからのお約束である。
この物語で探偵役を務めるのは、榊崎玲子(5さい)だ。
幼稚園生らしからぬ眼を持ち、その冴え渡る頭脳で
みやもり幼稚園の怪事件を次々と解決してきた才媛である。
子供のころは誰もが探偵という職業に憧れ、つば付き帽子を前後二枚重ねては
ハンチング帽を被ったシャーロック・ホームズの真似をしたかもしれない。
しかし玲子は決してゴッコ遊びで探偵をしているのではない。
論理を武器とし、あらゆる可能性を潰し、真実へと至ろうとする姿は
紛れもなく「名探偵」なのである。
また、探偵には助手も欠かせない。
ワトソン役を務めるのは同じくさくら組のみーちゃん。
読者を代弁するように疑問を浮かべてはそれを玲子が解消するのだが、
そのときの彼女のリアクションも愛らしく必見だ。
はたして、この大事件の犯人は一体誰なのか。
玲子の推理の果てに何が待ち構えているのか。
是非ご自分の目で確かめてください。
そして、玲子のすきなひとがパパと紹介されているように――
事件の外で生まれる人間関係にも注目してください。
「事件あるところに探偵あり」とはよく言ったもので、この世で一番事件が起きやすい空間である幼稚園に探偵がいないはずがない。
1日に何件も事件が起こる恐ろしい空間で、どんな事件でも真摯かつスマートに解決する榊崎玲子は間違いなく名探偵(※ただし幼稚園生レベル)だ。
数々の事件(※ただし幼稚園生レベル)を解決出来る彼女には、確実に裏打ちされた知識と経験が備わっている(※ただし幼稚園生レベル)。
事件と彼女を取り囲む登場人物たちは、個性豊かかつ感情豊かに物語を彩る。ここに幼稚園生だからこその自然かつ大きな振り幅が存分に生かされ、ともすれば下に見てしまう幼稚園という舞台に、我々の想像以上の奥深さが生み出されている。
その可能性をいち早く見出だし表現した著者のかぎろ氏の慧眼には驚きを禁じ得ない。
皆様には、同氏が描いた「ドッタンバッタン大学ドゥルルルエンジョイヒィーヤ学部チョモランマタンタラタッタン学科」(※幼稚園生レベルの記憶力)も併せて読んでいただきたいと切に願う。
みなさんは幼稚園を卒業しましたか?
私は所謂ホイ卒で、こうして初めて幼稚園児たちの生活を垣間見ることになったので、興味津々で本作を拝読しました。
タイトル通りこの小説には幼稚園生の探偵・玲子と怪事件があるわけですが、その小さいながらも重大な事件の描かれ方が本作の見どころです。
楽しみにしていたお昼ご飯を誰かに食べられてしまう、その脅威を大真面目に取り上げて描き切るのは並大抵じゃありません。
作者様の手腕により、事件発生のライブ感から名探偵の玲子ちゃんが場を取り仕切り解決するまで、一連の流れを軽快に描写しつつも情景がパッと浮かぶようなコミカルさで描かれるのは小気味よく、本作を読むことで素敵な時間をすごせました。
アンパンマンパンをかじった犯人とは!?
正義とは何か!?
そんな小さな謎と大きなテーマが同居する、面白い短編小説です。