皇太子オスヴァルトには悪いウワサしかない。
何人も側室を囲う(正室はいないらしい)色狂いだし。戦に出れば勝ってくる、攻めた国は必ず落とす、策略家だし。
だが、目の前に現れた実物は、みんなの眠りを守る穏やかな夜のようなオーラの持ち主。
戸惑わないわけがない。惹かれないわけがない!
一方のヒロイン・アンネは、皇帝一族に恨みを持っている。だから、一族の一人である皇太子に惹かれるわけが――あるんだな、これが。
読めば分かる。ついつい惹かれてしまう、いいオトコなんだよ。
女性のハートをわしづかみにする笑顔。気品あふれる所作。そして、理想に向かっていく覚悟。哀しみを呑み込んで、前を向き続ける、芯の強さ。
どこをとってもカッコイイ。
だから、貴女もはやく恋に落ちてきて。
心情の推移や描写がとても丁寧なので、怒りや悲しみなどの激情が大袈裟に描かれていないのに、さざ波のように持っていかれていつの間にかアンネに気持ちを重ねてしまいます。
登場人物には、役割と個性がしっかりと与えられているので「誰だっけこの人?」となる事なくすんなり覚えられました。
説明口調で終わらせる事なく丁寧に仕上げる文章力、かつ中だるみさせない高い構成力を感じられるスマートで優しい物語です。
読み手を置いてきぼりにしない、寧ろ気付けばどっぷりと引き込まれていました。
ラストを早く読みたいような、いつまでもアンネとオスヴァルトのいる世界に浸っていたいようなこの複雑な気持ち…。