虫との戯れ

六地蔵

虫との戯れ

幼い子どもがタンポポやネコジャラシで遊ぶ姿には、微笑ましいものがある。引っこ抜かれた植物たちが少し可哀相な気もするが、あれはあれで繁殖の役割を担っているらしい。その見返りとしての遊びと考えると、子どもとそれらの植物はある種の共生関係にあるのかもしれない。


ある虫は、キアゲハなどの人間にとって身近な蝶に寄生する。寄生された蝶は、狂ったように蜜に貪りつき、人が近寄っても逃げることはない。

これを、子どもが喜ぶ。捕まえようとする。逃げないのだから、簡単に捕まる。すると、蝶の背から突き出た寄生虫の卵管が、捕まえようとした子どもの指を刺すのだ。

この虫は、このようにして産卵する。痛みはない。少し腫れ、痒みを伴うので、蚊などによる虫刺されと区別がつかないという。

産み付けられた大量の卵は翌日には孵化し、体中に広がる。脳を始めとしたあらゆる器官に住み着く。


子どもは、死なない。しかしその体はもう虫の巣としての機能しか果たさない。体を動かすことはもちろん、声を発することさえできない。ただ、漠とした意識の中で、虫たちの蠕動だけを感じる。


幼い子どもが蝶と戯れる姿には、微笑ましいものがある。しかし、体内に卵を産み付けられるというのは、あまりいい気持ちはしない。

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