弊社爆破

しろめし

最終話「さよなら弊社。ここが貴様の墓標だ」

株式会社ベンピッピ。深夜0時にも関わらずオフィスには明かりが灯っていた。


「てめぇ!何帰ろうとしてるんだ!」

クソクソウンコマンな上司の怒号が僕に突き刺さる。

「ふぇぇ、でももう深夜0時だよぉ……」

僕の魂の悲鳴がゲリゲリウンチマンな上司に届く訳もなかった。

「お前まだ仕事残ってるよなぁ?」

「こんな作業量、とてもじゃないけど終わらないっしゅ……」

「でもお前の仕事だよなぁ?それを残して帰るなんて甘えじゃないのか?」

「このままじゃ身体が持ちません……」

「とにかく帰るのは許さないからな」

「ふぇぇ……」

こうして僕は深夜3時まで残業した。

トイレに立つことも許されない僕のおしめには大増量ぶりぶりうんちがたっぷりと蓄積していた。


混濁した意識が覚めてゆく。

もう朝か。昨日家に着いたのは何時だろう。覚えてはいなかった。

どれくらい開けていないのか分からない水色のカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいた。

起きなければ。身体を包み込む布団の暖かさに後ろ髪を引かれつつも、逃げるようにベッドから這い出る。

朝食は食べない。というよりも食べられない。学生時代は三食食べなければやる気が出ない人間だった。しかし、社会人になって、どうしようもない毎日に揉まれて、いつしか朝食を受け付けない身体になってしまっていた。無理に身体に詰め込んでも吐き出すだけだった。

寝ぼけた顔に水道からひねり出した冷や水を浴びせる。幾分か眠気が取れた気がしたが、ここのところずっとこびりついている慢性的な眠気と吐き気が取れることはなかった。

鏡を見る。そこには絶望が顔に張り付いている情け無い男の顔があった。

「何やってるんだろうな」

鏡に映る男に問いかけても、答えは返ってこない。

もう限界だ。

気がつけば涙が溢れ出ていた。




半年後



「ファファファ、日本か。懐かしいな」

煙草に火をつける。潮風が身体を通り過ぎてゆく。

「スレイブ、何を笑っている」

「何でもない」

僕を乗せた船がゆっくりと日本へ近づいてゆく。


僕は地位も名前も捨てた。半年前のあの日、涙が止めどなく溢れどうしようもなくなった僕は会社を無断欠勤した。行くあてもなく街を彷徨っていた僕に手を差し伸べてくれたのはテロリスト集団『椅子ラム肉』だった。


僕は海外へと渡った。立派な戦士になるためである。

そこで僕は厳しい戦闘訓練を重ねた。傷だらけになり、骨も何度も折れた。しかし、弊社への復讐のための傷はいとわなかった。


一人前の戦士として認められるのに半年を要した。

僕に与えらた名前は『スレイブ』だった。

皮肉な名前だ。

そうして僕にテロ任務が課せられた。

目的地は日本。僕は祖国へ銃口を向ける。

「待っていろ弊社、待っていろ日本」

ブラック企業を量産する悪しき国へ正義の鉄槌が下る。


「ファファファ!腐れ社畜どもが!あの世で無期限の休暇を取りな!」

僕は片手でバイクを走らせながら道ゆくスーツ姿の人々へ銃弾をばらまく。

「マー!」

「マー!」

断末魔が響き渡る。

半年前まで通っていた通勤路をバイクは走る。


「懐かしいな」

忌まわしい記憶を、消えない心の傷を刻みつけた弊社が入ったウンチッチビルを見上げる。

「ファファファ!ここが墓標だ!」

僕は携えたグレネードランチャーを弊社が入った5階へ打ち込んだ。

爆発。悲鳴。絶望がそこにあった。

「マー!」

「イヤァァァ!テロリズムよ!イヤァァァ!」

「ファファファ!生き地獄から我が救ってしんぜよう!」

ビルの入り口から我先にと逃げようとする人々が銃弾に倒れていく。

「マー!弊社の強制重労働並みの生き地獄よォォォーッ!命!絶つ!」

中には自ら舌を噛みちぎり自害する者もいた。


「アッ!お前はクソ部下池沼野郎!」

人々を天国へ誘う僕の目の前に、僕をここまで陥れたクソクソウンチッチ外道下痢カス上司が立っていた。

「アアア!命!お助けを!」

「ファファファ、私が苦しんでいるときお前はどうした?お前に教えられたことを今実行しよう」

私はウンコの擬人化の両膝に銃弾を撃ち込んだ。

「マー!」

下痢の固体物がコンクリートに跪く。

「私が苦しんでいたとき、お前は更なる苦しみを与えてくれたよなぁ?どうだ、散々バカにしてきた部下に同じことをされる気分は」

「アアア!アアア!」

ボキャ貧下痢便野郎は声にならない声を上げるのみだった。

「お前は楽に殺さない。じっくりと地獄へ導いてやろう」

銃口は急所を狙わない。

逃げ惑う人々。燃え盛る炎。地獄絵図の中で、僕の復讐は始まったばかりだ。









「こんな小説を書いてみたお」

「はいはい、そろそろお部屋に戻りましょうねー」

看護師は笑顔で作者の手を引いていく。

病院の中庭に一筋の春風が吹く。

駄文が敷き詰められた原稿用紙が風に乗って飛んでいった。


僕はどこで間違えたんだろう。僕はただ、普通に働きたかっただけなんだ。


心を壊してまで働いて手に入れたものは、何一つなかった。何一つ、なかったのだ。




働きたくないでござる。ウンコしてるだけでお金もらえないかな。by作者


おしまい

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弊社爆破 しろめし @hakumai_daisuki

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