双葉理央と友人たち

麻衣は咲太の話を長々と聞いてくれた。双葉理央が二人となったこと、彼女の魔女的な願いによって、自分と国見佑真が女子高校生になってしまったと。そして、確かに恋人出会った麻衣の姿を見て、もうその関係にはなれないことを自覚してしまったということも。

「思春期症候群なら、聞いたことある。全部を肯定はできないけど、梓川さん……、咲太の目が本気だった。双葉さんはたぶん、迷っているのよ」

「迷っている?」

「国見さんへの思いが横恋慕なことが煮え切らないんでしょ? それで咲太と国見さんが男友達として仲良くしちゃうんでしょう? だから、女友達の方がいいって言ったんじゃないかしら。」

理央の感情は、嬉しいのと悔しいのと、二元的に表現できない感情だった。うっかり二人が女子であれば、と言ってしまったのだ。たぶん理央は、必死でそれを隠そうとしているのだろう。


翌日。予め咲太は佑真に電話した。

「双葉の目を覚まさせたい」

「女子の声で言われると嬉しいけど、実は梓川ってのがなぁ」

「僕だって。思春期症候群のせいで、僕は麻衣さんと付き合っていないことにされていた。国見は、上里と付き合っていることになっていたか?」

国見は長いため息を吐いた。ほんとに残念そうである。

「早く戻りたいね、梓川。俺はどうすればいい?」


13時。理央は、何時になくおしゃれな格好で待ち合わせの喫茶店でカフェオレを飲んでいた。もう1時間も前からここで待機していた。昨日もあまり眠れなかったくらいだ。咲美と佑華は、咲太と佑真の記憶を持っているみたいだが、一晩寝て起きたらそれを忘れているかもしれない。それならもう今まで以上の仲を怖がる必要もない、本当の友達になれる。

「お待たせ、理央」

制服を着た、ふたりの少女が姿をあらわす。視認した瞬間、自分が理想と信じてやまなかった友情は崩れ落ちたのだった。

咲美・咲太は、理央とそう変わらない身長ながらスレンダーで、崩すことなく制服を着ている。かえでと同じような猫っ毛だった筈だが、ロングのストレートで、スカートの下には夏なのに黒いストッキング。ヘアピンをいくつも付けて、その一つは白いウサギがついている。落ち着かないのか、スカートの裾を掴んでいた。佑華・佑真は、今どきの女子高校生然とした姿をしていた。少しギャルっぽい、でも真面目なクラスのまとめ役。短いスカートも、眩しい太腿も、どうぞ見てくれという傲岸不遜な態度。理央が憧れ、同時に恐れ、理不尽に嫉妬を込めた姿が現れた。

つまり、桜島麻衣と上里沙希のコスプレを咲太と佑真がして来たのである。


「……梓川……、……国見」

絞るように名前を呼ぶのが精一杯。

「ごめん、双葉。僕たちはどうしたって男子高校生の僕らだ。僕には麻衣さん、国見には上里がいる」

沙希のコスプレをした国見が、理央の肩に手を当てると自分の方に引き寄せて、思い切りハグした。

「……国見、そんな」

「ごめん、理央。俺は今しかお前を抱きしめられないんだ」

「それじゃあ、そ、それじゃあ! 私たちは友達でいられないじゃないか……。だって、国見が、梓川が大好きで、もう異性としてしか意識できないんだ……うぅ……、私が、エッチなことを、考えてしまうんだ」

咲太は、理央を後ろから抱かずにはいられなかった。傍からは、女子高校生3人の美しい友情に見えないこともない。

「僕たちは友達だよ。双葉、約束どおりスカートを履いてみた。髪をセットした。僕の家でわいわい言いながら、はじめてストッキングを履いてみた。女装だって思うと恥ずかしいけど、双葉が見てみたいって言うから楽しくやってみたよ。どう? 可愛いでしょ。麻衣さんのコスプレ」

咲太の真似をして、佑真もセクシーなポーズを取る。滑稽な姿だった。

「別に女同士でなくても、双葉が望むなら大抵のことはやってみたいんだよ。俺たちが男に戻っても、スカートでもなんでもやるからさ」

佑真は沙希の姿を借りてイケメンなスマイルを浮かべる。全然沙希には似ていない。咲太も、自然と笑っていた。

「ふたりとも……私は……うぅわぁぁぁぁ……」

理央は咲太の胸に顔をうずめて、大声で叫んだ。

「バカだ、ブタ野郎だ、私は、うわあああああん!!」

「双葉……、忘れないぞ。僕らはそれでも友達だから」


諭すように理央に語りかけると、目の前が真っ暗になる。

「あれ……?」

意識はしっかりとしている。真っ暗なのは、単に深夜に明かりのないところに飛ばされたからだ。理央と佑真と、しゃがんで線香花火をぶら下げていた。この、何も言わないほうがいい感じ、理央が咲太と佑真が女子ならば良かったといった直後である。

咲太は小さな遊び心を覚えた。

「理央、佑真、私たちズッ友だョ!」

麻衣のコスプレをしたつもりでそう言うと、ふたりは呆れ果てた顔をする。

「ブタ野郎だね」

「ブタ野郎だな」

声を揃えてツッコまれると、三人とも笑い声になっている。

白みだした稜線に、恥ずかしいけれど青春なんて言葉を思い出してしまった。

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ロジカルウィッチは青春ブタ野郎の夢を見ない 井守千尋 @igamichihiro

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