第2話 再開

「さ、サーバル、ちゃん…?」


恐怖に喉を震わせながらも、決死に声をかける。サーバルはそれに満面の笑顔でうん、と頷く。


「ごめんねかばんちゃん。遅くなって、怖い思いさせちゃったね…」


「サーバルちゃん…!!」


かばんはサーバルに弾かれるように抱きついた。体を縛っていた恐怖感は既に消え去り、さっきの涙とは対照的な安堵の涙を目じりに浮かべて。サーバルはそんなかばんを優しく抱きしめ返す。


「怖かった…。怖かったよ…!サーバルちゃん!!」


「ごめん、ごめんね」


サーバルはかばんを落ち着かせるように背中をさすり、帽子を脱がし、頭もやさしく撫でる。空を覆っていた分厚く黒い雲から、一筋の光が差し込んだ。





「…サーバルちゃん、ここ、キョウシュウエリアだよね?何があったの?それにその目…どうしたの…?」


サーバルと再開し、だいぶ落ち着きを取り戻したかばんは、サーバルに一気に質問をぶつける。


「そんないっぺんに聞かれても困るよ」


そんなかばんにサーバルは笑いながら言う。


「そうだね…。何から話そうかな…。あ、そうだ。ここはかばんちゃんも言ってた通り、キョウシュウエリアだよ。あれから三千年ほど経ったんだから、環境や景色が不気味に変わっちゃうのは仕方ないんだけどね…」


「え!!?さ、三千年!!?どういうこと!?」


「どういうこともなにも、普通にそのくらい生きてるだけだよ。わたしも。かばんちゃんも。…ほんと、いつ死ぬんだろうね」


「…!」


かばんは絶句していた。どうして海を渡って他の島に辿り着いただけで三千年ものときを過ぎることになるのか。そしてそんな未来の世界でも、サーバルは普通に生存しているということ。他でもない、かばん自身も。この三千年後の世界でのどこかで。


…思わず身震いをしてしまうかばん。そしてそんなかばんにサーバルが追い打ちをかける。


「あと、この目だね。元々わたしたちフレンズの特徴として、『元動物が既に絶滅している子は目に光が灯らない』っていうのがあるんだ」


「え、じゃあサーバルちゃんも…」


「うん。わたしももう、絶滅したよ」


かばんは今度こそ唖然とした表情になった。


「しかもわたしだけじゃない。ほかのみんなも、みんな絶滅したんだ。だけどこれには理由があってね、今から千二百年前のときだよ」


『千二百年前』という言葉に愕然としたかばん。だが、黙ってサーバルの言葉を聞く。


「そのころ、氷河期がこの世界に来たんだ」


氷河期。かばんはジャパリ図書館で読んだ本を思い出した。この世界の生物の生まれ変わりの時代。そんな時代が来てしまったのかと軽く絶望してしまう。


「でもジャパリパークはサンドスターが気象を操ってるから、氷河期が来ても寒くなる程度だったんだよ」


だから氷河期が来ても、サーバルたちは平気に生きているのか。と、納得してしまうかばん。


「あのときだったらこの永い命も早々に捨てることができたのかな」


「そ、そんなこと言わないでよ!!」


虚空を見つめがらそんなことを口走るサーバルに、かばんは思いっきり反抗する。


「サーバルちゃんがいなかったら、ぼく、この世界でなにも出来なかったんだよ!絶対!ぼくの傍から離れないで!!お願いだから!!!」


サーバルはそんなかばんに呆気にとられたような表情をしたが、やがてその表情を緩ませ、かばんの肩に手を置く。


「ごめんね。わたしがかばんちゃんにそんな大事にされてたのに勝手なこと言っちゃったね…」


「う、うん」


「また会えてうれしいよかばんちゃん。三千年前とはかなり変わっちゃったけど、もっかいさばんなチホーからこのジャパリパークを回ってみようよ。意外とひので港からさばんなチホーって近いんだよ」


「そ、そうなんだ。みんなにもあってみたいし、ぼくもついていきたい!」


「もちろんだよ!ほら、わたしの手に掴まって」


サーバルが差し出した手をかばんがしっかりと握りしめる。そしてかばんはサーバルの手が妙に冷たいことに気付いた。


「サーバルちゃん。なんでこんな手冷たいの?」


「氷河期で寒くなっちゃったからね。わたしの体も冷えちゃったよ。じゃ、しっかり握っててね!」


サーバルはそういうと天に思いっきりハイジャンプをする。


「うわああ!!」


サーバルのジャンプ力は三千年前から飛びぬけて上昇しており、ひので港から飛んだのに、もうさばんなチホーが目に入ってきた。


「えへへ、伊達に三千年生きてないよ!ほら到着!!」


サーバルがド派手にさばんなチホーに着地する。かばんは空中でサーバルに抱きかかえられたので着地の衝撃を受けることはなかった。


「じゃあ、さっそくしゅっぱーつ!」


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