けものフレンズ-新たな世界へ-
ショウ
第1話 変わった世界
穏やかな波に揺られながら、かばんは船を進めていた。最高の相棒であるサーバルに別れを告げ、散々お世話になったたくさんのフレンズたちに感謝しつつ、旅立ちをしたかばん。その心に寂しさはない。というとウソになるが。
「頑張るぞ!絶対ヒトの手がかりを見つけなきゃ…」
誰かにいうわけでもなく、一人で気合を入れる。そんなかばんの目に一つの島が見えてきた。
「あ、ラッキーさん!あれってなんですか?」
「あれは、残念だけどボクにもわからないね…。ボクのデータには少なくとも記録されてないよ」
ラッキーウォッチが残念そうに光を発す。
「そうですか…。とりあえず上陸してみますね」
「わかった」
ラッキーウォッチが光を発し船をその島に近づけ、上陸できる場所を探す。
「あ、ラッキーさん!あそこに桟橋っぽいのがありますよ」
「じゃあそこにしようか」
遠目に見えた桟橋に近づく船。しかし、その桟橋に近づくにつれ、かばんが違和感を覚える。
「あの桟橋、ボロボロだけど見たことある気がするんですけど」
「奇遇だね。ボクもだよ」
そして船が桟橋に差し掛かったとき、かばんははっきりと思い出した。
「ラッキーさん!!これってぼくらが出発したキョウシュウのひので港じゃないですか!?」
「アワワ、ボクもそう思うよ」
腕時計の状態でカタカタと震えるラッキーウォッチを見つめつつ、かばんは意を決して船から桟橋に渡る。かばんたちが出発したものとはかなりボロボロで今にも崩れそうな桟橋を、ギシギシと軋ませながら進み、島に上陸する。その島は間違いなくかばんたちが生まれ、旅し、旅立ったキョウシュウの筈なのに、草木は枯れ果て、海の上より気温が低く、地面も冷たい。不気味に生気のない風がびゅうびゅうと吹き続ける。
「な、なにここ…。みんなどうなっちゃったの…」
かばんが不安そうに呟くが、それは風に乗って流されるのみ。誰の耳にも通らない。そもそも人っ子一人見当たらない。
どんどん不安になってきたかばんはラッキーウォッチに声をかける。
「ラッキーさん!こ、ここなんですか!?どうなってるんですか!」
「…」
かばんは懸命に声をかけるが、ラッキーウォッチは声を出すどころかアワワワと反応もしない。そして次第に空も雨が降ってないのが不思議なほど真っ黒な雲に覆われ、日の光も差し込まなくなった。
かばんは胃の中身が出そうになるほどの恐怖と不安と緊張に包まれた。ついには座り込み、その場で蹲りながら静かに嗚咽を漏らす。
自分は結局、一人じゃなにも出来ないよわっちい存在なのだと、サーバルやみんなが居ないとなにも出来ないんだとか、深刻な自己否定に陥ってしまう。
「…もう、いや…。ここになにがあったっていうの…!!やだああ!!!」
思わず叫んでしまうかばん。そして意を決して桟橋の方に駆けようとする。今すぐにでもここから逃げようとしたのだ。そのとき、視線を感じた。
「…!!!!」
背筋が凍り、心臓が止まりそうになるかと思ったかばんだった。そして背後に何者かの気配を感じた。しかもその気配はどんどんかばんに迫ってきていた。
「(に、逃げなきゃ…)」
そう思っても足が地面にへばりついたように動かない。しかしかばんの本能は「今すぐ逃げないと殺される」と訴えている。
「(う、動け!動け!動け!動いてくれ!!)」
動かない足を必死に動かし、ついに地面から足が浮いた。しかしそれと同時にかばんはバランスを崩し、地面に仰向けに倒れてしまう。背中に走る衝撃とヒヤリとする地面の冷たさに思わず目を瞑る。
そしてそんなかばんの両肩に、重みが伝わる。
「た、た、食べないでください!!!!」
ほとんど反射的にそう叫んでしまった。
「食べないよ!!」
…聞き覚えのある声が響いた。
「…え?」
かばんがパッと目を開ける。
「食べないよ。かばんちゃん!」
そこには、光を失い、吸い込まれそうなほど真っ黒な瞳をしたサーバルが、その瞳をかばんに向けていた。
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