第4話 じゃんぐるチホー

三千年後のじゃんぐるチホーに侵入したサーバルとかばん。そこもさばんなチホーと同じく荒野と化していた。あの鬱蒼とした木々はもれなく朽ち果て、生い茂っていた草もすべて消え去っている。かつて二人とラッキービーストが探検した観察ルートも、その木で作られたルートすら見ることができない有様だ。


「うわっ。わたしここはあんまり見てなかったけど、こんな惨状になってたんだね…」


「ここも、こんな悲しい光景になってるんだね…」


「仕方ないよ。我慢していこうね」


「う、うん。がんばる」


サーバルとかばんは乱雑に転がっている木屑に注意しつつ、カワウソたちに出会った河を目指して進む。

そして、周りの景色を見渡していたかばんがあることに気付く。


「あれ?サーバルちゃん。じゃんぐるチホーの他のみんなはどうしたの?それにさばんなでも、トムソンガゼルさんやシマウマさんを見かけなかったし」


「あー、それわたしもわからないんだよ。最近その二人全然見かけなくなっちゃたんだよ。なぜかは全然わからないけど。多分じゃんぐるのみんなもいなくなっちゃったんじゃないかな」


「え、そうなんだ」


みんなどうしちゃったんだろう。ジャガーさんたちはいるかな。などと考えつつ、かばんは殺風景な風景を眺めるかばん。


「あ、かばんちゃん!開けた場所に出るよ!」


「あ、うん!」


サーバルが一際大きな声を上げた。かばんはそれに大きな声で返事をし、サーバルについていく。が、その最中、視界の隅に何かをとらえた。


「ん…?」


少し注意深く見るとそれは先端が二つに裂けた黒かかった紫の布だった。これはなんだろうと拾って手の上で眺める。


「かばんちゃーん!はやくー!」


「わかったー!今いくよ!」


サーバルに呼ばれ、かばんはその布を鞄に放り込み急いでサーバルの後を追う。


しばらくして、サーバルがこちらを振り向き、待ってる姿が見えた。


「どうしたのかばんちゃん。なにかあったの?」


「いや、なんでもないよ。ごめんね」


「…?そう。まいいや、かばんちゃん。カワウソに出会った河に着いたよ」


サーバルに言われ、改めて河を眺める。


「…え?」


正確には『河だったもの』だった。あの大河は完全に凍りついていた。


「いくら寒くなったからと言っても、なんで河まで凍りついてるの…」


「それは…謎だね」


「ヒャッホー!!たーのしー!!」


二人が呆然としているとそんな声が響いてきた。声のした方を見ると、やはりというか、遊びの天才コツメカワウソが凍りついた河の上で滑りまわっていた。


「あ、カワウソさーん!!」


「ん?あ、かばんじゃん!!」


かばんが呼びかけると、パッとこちらに視線を投げる。その目は、やはり真っ黒に染まっていた。


「かばんー!!会いたかったよー!」


「ぐへっ!!」


と、急にかばんの腹めがけてダイブを繰り出し、かばんの体をくの字に曲がらせる。


「ちょっとちょっと、それは危ないだろカワウソ」


そして吹っ飛んだかばんを優しくキャッチするもう一人のけもの。ジャガーだ。


「かばん。久しぶりだね。それより大丈夫か?」


「ゲホッゴホッ!!…じゃ、ジャガーさん…!な、なんとか平気です」


かばんが決死にジャガーの顔を見上げる。そしてその吸い込まれそうな真っ黒な瞳に少しドキッとする。


「まったく、カワウソは少しは加減というのを学びなよ」


「えへへ、かばんごめんね。でもそれくらいまた会えて嬉しいんだよ!」


「まあそれはあたしもだけどね。ホント、久しぶりだよ。三千年ぶりだっけ?」


「…そうなっちゃいますね」


「わー!悠久の時だったんだねー!」


「そんな永い間待ってくれてるなんて、ぼく、ほんと嬉しいです」


「あたしも、また会えてうれしいよ」


と、ジャガーはかばんに手を差し出す。そしてかばんはその手をしっかり握り返す。


「つめたっ」


そしえ思わず口に出てしまう冷たさ。


「あ、あははごめんね。この凍った河で色々試してたからさ」


「…ジャガーさんもカワウソさんもここの生活辛くないんですか?こんな風景にこんな寒さに…」


かばんは直球にそんなことを聞く。ジャガーは少し考える素振りをしてからこう答える。


「そうだね…。正直に言うとあたしは辛いね。なにより、カワウソ以外のじゃんぐるのみんなが居なくなってることがなによりも…ね」


「わたしは何が起きても楽しけりゃいー!」


三千年たっても相変わらずなカワウソに苦笑いする一同。


「あ、そういえばジャガーさん。道中こんなものを見つけたんですけど」


かばんはそう言うと鞄から紫の布きれを取り出した。


「これって何かわかります?」


「え、なにそれ?」


サーバルが意外そうな声を上げる。


「さっきぼくが遅れてたとき、これを拾ってたんだ。それでジャガーさん。何かわかりますか?」


「…全然わからん」


相変わらずなのはジャガーも同じだった。


「でもこれ、なにか見たことあるんだよね…。なにかとても大事だったものに似てるというか…」


「ジャガー。これってもしかしてキングコブラの…」


カワウソがそこまで言ってジャガーが衝撃を受けたように目を見開いた。


「こ、これ、確かにそうだ!キングコブラのリボンだ…!かばん!これどこにあったんだ!?」


かばんの肩を揺さぶりながらジャガーが必死に聞く。


「こ、これは道中、倒木の間にちょこっと転がっていたんです…」


「道中、転がっていた…?カワウソ!こうしちゃいられん!キングコブラを探しに行くぞ!」


「うん!!」


ジャガーとカワウソは大ジャンプしてかばんたちがやってきた小径にひとっとびで駆け込んでいった。


「あ、あの二人もあんなジャンプ力ついてたんだね…」


「そ、それよりサーバルちゃん!キングコブラさんが居るかもしれないんだって!探すの手伝いに行こうよ!」


「…うん、そうしたいのは山々なんだけどね、ここはあの二人に任せよう。それがあの二人のためだし、キングコブラのためでもあるんだから」


「え…」


「だって長い長い間全く会えなかった友達の手がかりがようやく掴めたんだよ?だからキングコブラの件はあの二人に任せよう。かばんちゃんならあの二人の気持ち、わかってくれるって信じてる」


「…うん。分かった。じゃあぼくたちはこうざんに行こうか。アルパカさんとトキさんに会うために」


「分かった。じゃあ山まで行こうね」

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