第5話 こうざん

じゃんぐるチホーをサーバルがジャンプでひとっとび。こうざんの麓まで一気につく。麓にあったロープウェイ乗り場も朽ちている。ところどころ建材は欠け、そこら中に苔や蔦が走っている。


「ここ、トキに会った場所だね。あのとき一緒に聞いた歌も懐かしいね」


「そうだね…。じゃあ、どうやって登ろうか」


「わたしのジャンプでひとっとびだよ!さ、掴まって!」


「う、うん」


かばんはサーバルが差し出した手をしっかりと握る。サーバルはその手を引き寄せかばんを抱きかかえると一気にハイジャンプ。ところどころ出っ張っている岩々に着地しつつ頂点へ一気に駆け上がる。


「さて、ついたよかばんちゃん」


一瞬で頂上に着地したサーバルは、ゆっくり丁寧にかばんを地面へ下ろす。

そこもかつての面影はなく、草も綺麗に消え去り、かばんがせっかく描いた地上絵も草が消え去った今、それも消えている。遠くにはかばんの記憶よりだいぶ古くなっているジャパリカフェが見えた。


「あ、良かった。ジャパリカフェは無事なんだね」


「そうだね。わたしもそこは一安心だよ。じゃあ早速アルパカに会ってみよっか」


「うん」


二人で並んでジャパリカフェに近づき、ドアを開ける。ギイィ、と不気味な音が響く。


「ふぁあ、いらっしゃい。…って、かばん!?ひっさしぶりだねぇ!」


「え、あ!かばん!また会えてうれしいわ」


ジャパリカフェには真っ黒な瞳のアルパカ・スリがお茶を淹れ、トキがそれを片手にくつろいでいた。


「お、お久しぶりです…」


「ふぁああ!ほんとにひっさしぶりい!まあたあえてうれしいゆぉ!」


「何年ぶりかしらね。また歌聞いてもらえると思うと嬉しくてたまらないわ」


トキとアルパカがすごい勢いで両手を握り、ぶんぶんと振る。


「あ、ありがとうございます」


「お茶ぁのむ?」


「は、はい。頂きますね」


かばんとサーバルはアルパカに案内され、席に着く。


「つぅめたいイスでごめんにぇ。すぐ淹れるからちょおっと待ってね」


「はい」


「分かったよ」


「あとで私の歌も聞いてね」


「う、うん」


サーバルが若干たじろぎながら頷く。


「あ、そういえばここは三千年たった今でも無事なんですね」


「あー、ここ一回倒壊したのよ」


トキがなんでもないように言い放つ。


「えっ!壊れちゃったんですか!?」


「そうだゆぉ~。ビーバーとプレーリーに頼んで建て直してもらったんだぁ」


「ここも壊れちゃったんだね…」


「でもいいんだゆぉ。こうして今ここでカフェ出来てるんだから。ほら、お茶できたゆぉ」


といってアルパカはサーバルたちが座っているテーブルに紅茶を並べる。


「あ、あれ?冷たいね」


カップを手に取ったサーバルがそんなことを口走る。


「そうなんだよねぇ。ほんとあれからあったかいの淹れられなくなっちゃたんだよねえ。申し訳ないねぇ」


「まあ、おいしいからいいけど…」


サーバルが紅茶を含みながら言う。


「じゃあぼくも、いただきますね」


かばんはそういい、カップに口を付ける。


「あ、冷たくておいしいです」


「そういってもらえるとうれしいゆぉ」


アルパカは満面の笑顔で嬉しそうに言う。


「じゃあ次は私の歌ね」


トキは紅茶を飲み干し、一足先に外へ出る。かばんたちも少し遅れてトキについていく。


「私、あれからだいぶ上手になったのよ」


「そうなの?サーバルちゃん」


「さあ?わたしはあんまり聞いてないからねえ」


「うまくなったと思うゆぉ」


「まあ、聞いてみれば分かるわ」


トキは大きく息を吸い込む。サーバルは耳を触って警戒する。そしてトキが歌い始める。


「わたしはあ、とき。なかまを探してる~。どこにいるのなかまたち。わたしのなかま~。探してください。ああ、なかま…」


トキの歌は三千年前とは比べものにならなかった。トキの歌声はあのときの喧しさは微塵もなく、悲哀の感情に満ちていた。


「トキさん…」


「私の歌、どうだった?」


「素敵でしたけど…、な、なんか心に来ました」


「ほんとに上手になったでしょお?」


「うん。とてもきれいな歌だったよ!」


サーバルも素直に称賛する。


「ムフ。嬉しいわ。久しぶりにあなたに聞いてもらって私は本当に満足よ」


「あたしもお茶飲んでくれてうれしいよぉ。まぁたおいでねえ」


「うん!じゃあね!」




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