023:日記は続くよ何処までも

 女神になってしまった私だよ。こうなると『ミーディアム』という名前もあながち間違いではなくなっちゃったね。


 さて、この度晴れて『ユニヴァース』CEOに就任した私であるが、やはりと言うかなんというか問題があまりに多すぎて死にたくなった。さすがのスライムさんも頭を抱えましたよほんと。


 まず『ユニヴァース』は全八階層、七つの大罪をモチーフにした内なる小学三年生が疼き出すダンジョンだ。これはいいのだがダンジョンなのだから『ユニヴァース』の外というものが在る。

 つまり私の知らない未知なる異文明から、『ユニヴァース』を攻略される危険が現在進行系で存在しているんだよね。そして女神から引き継いでわかったのだが、『ユニヴァース』は外敵からの防衛を最低限にしていることが判明した。実質ノーガードである。

 なにせ外で割拠する異文明が軒並み列強過ぎてヤバイんだわこれが。『ユニヴァース』なんぞカスよカス。マジでウチの世界は路傍の石だから見逃されてる感スゴイんです。


 例えて言うならアレよ。街の周りに呂布百万を率いる平将門(祟神モード)と、本多忠勝百万を率いるナポレオン(俺が此処に居る英霊)に囲まれて、五十人のシモ・ヘイヘ(全て本人)と八十人のクリス・カイル(気分はサイコー)が互いの眉間を狙いあい、空は三人のハンス・ウルリッヒ・ルーデル(病院帰り)と七人の菅野直(マヨヒガ帰り)がブンブン言わしている。

 そんな空前絶後の大戦場において、渦中のホロビル村(確定的に明らか)の外れに住むムラハチ村民X、それが『ユニヴァース』なんだ。侵攻されたら一発アウト。侵攻されなくても戦闘があったら余波でアウト。もう秒で終わるね、秒で。世界終末時計は三秒前ですよまぢつらい。そりゃ女神も頭おかしくなるわ。


 だからこんな木っ端ダンジョンがひとたび『うおォン』等言おうものなら、たちまち鎧袖一触夢の跡。あとには塵すら許されないんです。ダンジョンですらこれなのに、私自身の力量もまた足りていない。神話級スライムさん(ドヤァ)とかしていた私だが、周囲の大神達の相手は本気で無理ですよ。というかホロビル村にさえ溶け込めてないから、実質『ユニヴァース』は孤立無援すぎてヤバイ。思わず『ぷるぷる、ぼくは悪いスライムじゃないよ』と言ってしまうほどヤバみがヤバイ。語彙力も地獄になろうものだよ。


 なので『ユニヴァース』はあくまで『ムラハチ村民X』でなければならないんだね。こりゃあうまく運営できないわけだよ。最初から詰んでるんだもん酷い、あまりにひどい。酷いけどノーガードは流石に良くないと思いますよ私。

 なので外向きは偽装しつつ丁寧に丁寧に改築が必要となる。決して大きくことを動かしてはいけない。またホロビル村を刺激しないように、かつ生き残れるだけの防備を固めなきゃいけない。

 これは存在しない胃がキリキリ痛くなってくるなぁ……だがここはスライムさん、新たに増えた二コアと一緒に秘奥義自分会議でブレインストーミングしたら多少なり案が出ましたよ。


 といっても、外装を変えずに内装から手を付けると言うだけなんだけど。ただ内装の変更をダンジョンマジックでは行わず、『全天候型戦闘猟兵シュヴァルツ八〇ニ』三十万騎を用いていじることにした。利点はダンジョンマジックではないから特有の気配が発生しないってこと。人力なんだから当たり前だし、普通のダンマスじゃあこんな面倒な事はしないので先ずバレることはないだろう。ワタシハムラハチ村民Xデスヨ。


 狂気に駆られた女神もこれはいい仕事をしてくれました。現在サイバーフロアを改装中の彼らには、動かなくなるまで働いてもらうとしよう。マモノ・イズ・ブラックカンパニー。存亡の危機なんだからキリキリ動いて動いてー!


 状況は最悪という言葉しか見つからなかったが悪いのはそれだけじゃない。実は収支がかなり致命的と言うか……正直『ユニヴァース』を維持するギリギリの量のリソースしか得られていない。そりゃそうだ、『ムラハチ村民X』に余裕があるはずもない。これはもうどうしようもないので、各フロアの能率と効果を最大限に高めつつスリム化していかなきゃいけないだろうね。最悪フロアを潰すまである。どのみち七つの大罪になぞらえた厨二ダンジョンだし、ネクロシスフロアなんかあっても意味ないでしょこれ。


 でも一気に潰すとバレるからこっそりやらなきゃいけない。正に一万年計画だわ。あーもう本当に夢のない話だけど……世界には果てがあって、星の海は天井でしかなく、新たな知的生命体と遭遇するなんて不可能だと理解してしまった。仮に遭遇するとしたら大神が支配する異文明の存在で、これはもれなく侵略者にして略奪者。深きものどもは実在したんだよ……つらい、ひたすらにつらい。


 とはいえ私は女神を斃し、下剋上を果たしたのだから責任はとらなきゃね。確り対応してみせますとも。というかやらないと私の生活がマッハで死ぬ。


 そんなやさぐれ気味な私の癒やしはやはり本丸たる『エテ・セテラ』。分霊を派遣して運営しているマイホーム・ダンジョンは、今日も人々の往来が盛んで賑やかだ。結局あのあと、周辺に住んでいた難民の殆どが『エテ・セテラ』に残り、居住区を拡大していったんだ。管理しきれなくなったのでゴディバさんに泣きついたところ、『エイリーズ』から代官が派遣されて正式に町として成立してしまったんだね。


 ちなみに名ばかりだけど私が町長です。そして代官はなんとアイリスちゃんなのです。


「我が世の春ですわ! ワハハ! ワハハ!」

『悪代官みたいにいわないでくださいます?!』


 スライムじるしの人をダメにするソファに身を委ね、新作のシャンパン片手に笑っている淑女っぽいなにか。初めて出会ってからそれなりに月日が経ち、結婚適齢期を迎えた彼女は相当ヤバイことになっていた。何がヤバイって、喪女ルートを全力疾走しているんだよね。


 『エテ・セテラ』代官として派遣された彼女は己の才覚をこれでもかと指し示し、今や『エテ・セテラ』と言えばダンジョンより町としてのほうが有名になってしまった。それはいいんだけど、彼女完全にデキる女(ただしプライベートは除く)と化してしまったんだよ。仕事が終われば『やや、おビール様このようなところにウェヒヒ』とスルメ片手に一杯やるし、淑女さはどこへいったのかと言うぐらい私生活にズボラが目立っている。


 もし彼女が一人暮らしだったら、確実に部屋の中は着替えの服やゴミで埋まっていただろう。メイドさんには本当に感謝しか無いし、侍女という職務が存在することを感謝せずにはいられない。。これで外交方面、つまり外面は確り担保して、未だに『連合の二ツ華』を名乗っているのだから有能すぎるし、ギャップのあまり残念さが際立ちすぎた。


 そしてアイリスちゃんときたら、来る縁談の尽くを蹴っ飛ばしているんだよね。なんていうかなぁ、見る目が良すぎると言うかなんというか。先ず持って『エテ・セテラ』の利権目的の輩は速攻排除であるし、私から見てもいい人と思える縁談すら気に食わぬとお断りしている。そりゃまぁ嫁入りしたら代官やデザイナーとしては活躍出来ないだろうけど、だからって今の旬を逃したら本当に生き遅れてしまうじゃないか。


 アイリスちゃんマジヤバイ問題は秘奥義自分会議でも解決しない難題として、常に課題にあげられている。なおゴディバさんは半分以上諦めている模様。いやいや貴方そこで諦めたらマジで行き場ありませんよ? そう問いかければ、


「ミーディアム殿……ウチの娘を貰ってくれんか……」

『えぇ……?』

「たのむ……たのむ……」


 と、捨て犬のような目でこちらを見てくる始末。ちょっと待ちなさいよ私魔物だよ結婚できませんよと主張するも、「今は神なのでしょう? 儂詳しいンだ」と主張してくる。ぐう正論で言葉に詰まる私……。


 そう、私は魔物という区分では在るものの、同時に神格を得ているから魔物とは言い難い『なにか』になっている。結果的にそう、なんといいますかね……『孕める』し『孕ませる』こともできるようになったんだよね。しかも男性女性関係なくだ。お前何いってんのと思うかも知れないが、神様ってそういうものだよ? ヤればデキる。当然の話だよね。世の男性諸君は男神から尻を守ったほうが良いと私は美少年を見るたびに思うわけです。


 もはや此処まで来ると性別に関する蟠りがないから抵抗は無いんだけれど、人生の決定に神が絡んで良いことなんぞ一つもありはしない。ゼウスっていう神さんが身をもって証明してるってハッキリ分かるんだよね。でも人間というやつは何時だって神を裏切り、予想を超えて成果を出してくる可能性の獣なんだ。

 ある日シャンパン片手に私にすり寄ったアイリスちゃんが、赤ら顔で告げたわけだよ。


「ミーティ!」

『な、なんですの?』

「結婚するわよ!!!」

『あら、おめでとう。誰と結婚なさるの?』

「貴女とッ! 私がッ!! エンゲージメント!!!』

『酔ってますわね? 酔ってますわね?』

「ええ酔っていますわよ~貴女のひとみに乾杯ね!」

『悪酔い絡み酒ですわー?!』


 叫んだ私だけれど、アイリスちゃんはそのままシャンパンをぐびりと含んでヒトガタ端末に突如キスして流し込んできた。いや酔いませんけど何してるんですかね?!


「フフフ、同じ盃を交わした以上もう処女とはいえませんわウェヒヒ」

『は? え、ちょっ意味がわからないのですが?!』

「さきっちょだけですの! さきっちょだけですの!!」

『ちょっ、脱がないでくださいまし?!?!』


 絹のような肌を顕にした彼女が私にしなだれかかってくる。とてもかのじょはぬくいでした。神話級スライムさんの二十三コアは並列してパニック状態に陥りましたとも。いや初心だとか言わないでほしい。神様はいろいろとデリケートなんだ。ほんとまじ一時の迷いであかちゃんできちゃうから。最悪一緒におひるねしたら妊娠したまで在るのが神様ワールドです。種付けおじさんよりひでえのですよ。


「貴女がわるいんですのよ……いろいろ便利なもので籠絡してくるからっ!」

『えっ、それ私が悪いんですの?』

「責任、取ってくださいますわよね」

『えっ? は? えっ?』

「うふふ……やさしくしてさしあげますわ……」

『ちょっ……ふぁっ……』


 その後私はメチャクチャ優しくされた。しかもきっかり二十三コア分よしよしされた。こうなればもう私とて収まりがつかないので、アイリスちゃんをメチャクチャ優しくした。お返しなので二十三コア分、別々の優しさで優しくしてあげた。


 そして両者一発で妊娠ですわ。ハハッ神(残酷)。


 しかも私、二十三ツ子を妊娠したんですよ。もはや数字的意味がわからないでしょうこれ。でも私の場合は神産みになっちゃうからわからんでもないんだなぁ。そうです、私が孕んだのは神なんですよ。

 ティアマトとその子たる11の怪物に纏わるの話を彷彿とさせますね……ちなみに翌日にはニュポンと神々が生まれたんだから、私はティアマトを決して笑いません。ティアマト氏ーティアマト氏ーママ友になりましょう?

 まぁ、結果的に言えば良かったと言えるのだろう。『ユニヴァース』運営において、信頼できる身内でしかも神が増えるのは良いことだよ。純粋な目の子どもたちを前では、そう納得するしかなかった私である。


 なお人間やめてないアイリスちゃんはちゃんと十月十日後に元気な双子の赤ちゃんを生んだ。へっへーい神と人とのハイブリットだぜ。こうなると私はおママさんになるんだろうか。ともあれ事実は事実として受け止めるしか無く、私は責任をとってアイリスちゃんと結婚することになった。でき婚とかぐだぐだかよとか言わないでほしい。


 ゴディバさんは驚愕しつつ孫ができたことにひっくり返り、ハウランドには『ガハハやるのう』と笑われ、シュテルンちゃんには『ずるい』と言われ、アイザック君には『僕もすぐ追いつきます』と獣のような笑顔を向けられ、ローランドは『私めもハーレムに』とダンジョンに居着いてしまい、ゾシモス・ニコラ夫妻には『子供を調べましょうハァハァ』と迫られ、ダンジョンの皆には祝われたけどキュエさんだけ『ずるいずるい!』と叫び、大魔王だけが『おめでとう』と言ってくれた。大魔王マジ癒やしですわ。


 さて、連合国では『二ツ華』の片割れの結婚式ということで式典が盛大に行われ、私達はそれはもう関係各所から祝われた。嫉妬の視線を送っていた人たちもスライムさんなら仕方ないかと諦めていたよ。だからゴブ爺さんは暗殺部隊組織するのをやめよう? 子どもたちも神気を撒き散らさないで? ねっ?


 だがアイリスちゃんは良かったんだろうか。傍目から見たら自分のそっくりさんが旦那さん、かつ正真正銘のバケモンなわけで……。


「良いに決まってるじゃありませんの。私、ミーティなら体を許すと決めていましたから」

『そうですの?』

「ええ。だってアイリス・フィル・エイリーズは貴女とであったあの日、本当なら死んでいたのですよ? それをミーティが救ってくれた。理由はそれだけで十分ですわ」

『お、思い切りが中々宜しいんですのね』

「ええ本当に。だと言うのに貴女と来たら、私のアプローチに全く気が付かないんですもの! シュテルン様も気をもんでおりましたのよ」

『えっ? そ、そうでしたの?』

「ミーティはそういう所が駄目ですわねぇ」


 そう言って私にふれるアイリスは、静かに口づけをするとやんわりと微笑んだ。


「義務でもなく、義理でもなく。心の答えはこれですわ。貴女は……どうなのかしら」


 ああ。そんなふうに言われてしまったら答えは一つに決まっている。私はアイリスをメチャクチャ優しくしまくった。なおまた赤ちゃんが出来てしまったので叱られているなうです。スライムでも土下座ってできるんですね。


 そんな訳でスライムさんの日々は続いていくのでしたーーと、『目出度し』と締めくくれれば良いのだが現実はそうもいかない。神でも未来を確定できないからね、ただひたすらに地道な努力をしていくしか無いのです。


 さてアイリスが私を呼んでいる、話はここでおしまいだ。また明日が来ることを祈りつつ、一旦この日記を閉じるとしよう。

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ぐだぐだダンジョンダイアリー 水縹F42 @Mihanada_F-42

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