最終話 ぺんぎん×エンカウント

「アオイ。記憶が戻ったのか」

「はい、ロウさん。はっきりと」


 そう伝えると、皆さんの表情がほっとしたものに変わる。


 さっきまでは忘れていたし、思い出そうとすると不思議な病がね。


「……一応訊くが、俺は獣人ではなく、普通の人間だよな」

「え、そうですよね。もしかして違ったんですか?」

「いや、人間に見えてるならいいんだ」


 よく分からないけど、それを聞いてさらに安心したみたい。

 まあ、ともかく。


「皆さん。こんなに遠い場所まで、しかも皆さんと会えなくなってから、かなり時間も経っているのに……。本当に、ありがとうございます。今すごく幸せです」


 笑って気持ちを伝えると、少しだけ涙のにじんだ様子で頷いてくれる。

 あれ、私も視界がぼんやりしてるや。


 キルティさんは子供みたいに号泣してるけどね。せっかく、猫耳美少女から美人さんになったのに台無しですよ、もう。



 レモナさんとラシュエルくん……も大きくなったから、ラシュエルさん? でもやっぱり、前のままの呼び方がいいかな。


 その二人が、私がいなかった時期の話をしてくれる。


「――つー事で、ミドはマキのいる王都で待っててなー。ミドの格好がさ……っと。これは会った時のお楽しみな!

 シェオは王子だってのに、たまにアオ探しの報告としてアタシらんとこ来てんだよ。シェオと飲む酒はうまいし、そんでロウに怒られんだ、なはは!」


 そっか、シェオさん達も私を捜索してくれてたんだね。

 ミドリのとこには、また転生とか言われないうちに行かなきゃ。あの前世の姿じゃないなら、私と同じぺんぎんとか?……そんなわけないよね、うん。


「ん。市場の人の食材は、やっぱりすごく美味し、かった。

 ミュン、ちゃんはしっかりした子に……なってる。『再会』が意味の、花。大切に持ってるから……早く、叶えにいこ?」


 『天使さまにあやかり隊』の皆さんは、ラシュエルくんの見た目が青年になっても、変わらずなんだね。

 ミュンちゃんと別れる時に渡した花、ずっと持っててくれてるんだ。嬉しくて自主的に頬っぺをむにっちゃうよ。



「ぴぎょ? ぴっぴぺ」

「あ、ダメですよツーさん。皆さんは私の、人間の仲間ですから」


 話しているのを見て恐怖が薄らいだのか、攻撃にでるぺんぎんさん。そう私が声をかけても、本気ではないけど、ぺっちりぺっちりと皆さんを叩き始める。



 そんなぺんぎんさんだらけの中、話を続ける。


 ロウさんは何故か苦笑しながら、キルティさんはようやく涙を止めて。


「メネやスフゴローは、相変わらずだったな。どうというのは……察してくれ。

 ラーノという黄緑の魔物は、伸縮性が上がってるように感じた。アオイより伸びるんじゃないか?」


 うーん、きっとスフゴローさんがやらかしたんだろうな。メネさんを怒らせると、また高速シェイカーになっちゃいますよ?

 伸びの良さは別に競ってはないです、ロウさん……。


「リサナちゃんもリカちゃんも、今度結婚だって~! お嫁さん、憧れだよね~。

 一号ちゃんはね、オージおじさまと『イタチ侵略計画』だったかな~? ぺんはんいない間に天下とったるで、ってすっごく頑張ってたよ~!」


 結婚!? めでたい、お祝いぺんぎんしなくちゃだね。オージおじさまはまだ、もぶっちょの着ぐるみなのだろうか……。

 一号さんに、先を越されちゃったかな。本格的にぺんぎん生活を経験したわけだし、これからが本当の勝負ですよ!




 いろんな話を聞いて、懐かしさに時間を忘れかける。

 でも話がひと段落した今、そろそろだね。



 私は……やっぱり、人の世界で生きたい。


 やらなくてはいけない事が、いっぱいあるしね。



「……ぺんぎんさん達」

「ぴ」


 分かってる、というように一斉に頷いてくれた。言葉を覚えた意味がないくらい、私の考えはすぐに分かってもらえる。


「ツーさん、あとはお願いしますね」

「ぴぎょーぎょ!」


 ナンバーツーであるツーさんに、ボスの座を預ける。

 短い手で一生懸命に敬礼しているツーさん。半端ぺんぎんな私を支えてくれて、ありがとうございました。




 別れをすませ、ロウさんに向き直る。


「私、前よりも強くなりました。もっと皆さんのお役にたてちゃいますよ」

「それはちょうどいいな。Sランクを目指す俺達にぴったりな仲間だ」


 Sランク? 体ごと首を傾げる私に、黄金ポニーテールの綺麗さに磨きがかかった、レモナさんが伝える。


「アタシらな、アオ追いながらハンターとしても頑張っててさ。もーちょいでAだかんなー。せっかくなら転生者が作ったきり誰もいねーっつー、それになってみっかとな!」

「ん、そう……。アオイさん、入ったらいける」


 ふわりと、ラシュエルくんが真っ白な髪と同じく、優しい笑みを跳ねさせた。




 ふっと空気が変わった。

 佇まいを正した皆さんに、私も柔らかい背筋を伸ばす。


「Bランクのハンターパーティー『魂の定義』のリーダーである、ロウだ」

「アタシはレモナな。エルフだけどさ、あんま変わんねーんだよなー。ま、ぺんぎんとは違ぇーぞー?」

「にゃふっふっふ~。ただのキルティではないもんね。わたしはね、またアオイちゃんのご主人さまだよ~!」

「……ラシュエル。アオイ、さんが強くても。守るのはぼく、だから」


 ほんの少し離れ、並んで名乗る皆さん。


 私も、あの日を再現するかのように言葉を紡ぐ。


「アオイです。ぺんぎんになってから、ずいぶん経ちました。できる事も増えたから、頑張らせていただきますね。……ドリームネズミランドには行けませんでしたが、たくさんの場所に着きました。楽しかったです」


 皆さんの顔を、順繰りに見つめる私。


 ロウさんがギルドカードにそっと呟き、取り出したものを、私へと差し出す。


「また、ともに旅をしてくれるか? アオイ」


 その手には、真っ赤なリボン。


 私が、『魂の定義』のぺんぎんである証。



「はいっ!」


 目元を拭い、迷わず返事をした私の頭に、ゆっくりとつけてくれる。


 顔を上げれば、キルティさんが両手を広げてスタンバっていた。



 軽く触り、リボンがある事を確認し。


 すっかり馴染んだぺんぎんボディを震わせて。



 私は、皆さんの元へと飛びこんだ。




 ☆



 突然始まった彼らとの旅は、一度途切れ、また始まる。



 私達がSランクになれるのかは……分からない。


 行きつくところも大事だけど、その途中もまた大切なこと。



 だって、この世界のぺんぎんに転生した私は。


 きっとこれから先も、さまざまな人達に、



 エンカウントし続けてゆくのだから。




――――――――――――――――――――


ぺんぎん×エンカウント、これにて完結です。


皆さまにたくさん、励まされながらここまで来れました。アオイ達の行く末を最後までご愛読くださり、本当にありがとうございます!

最終話にあたり、アオイとの再会シーン、そしてサブキャラも含めた全員集合イラストを描きました。

Twitterのモーメント、もしくは小説家になろうの最終話ページにてご閲覧頂けると嬉しいです。


次回作はSFにて、タイムリープものを書きました。『バタフライ・クライン』シリアス有りのハートフル作品、宜しければこちらもお付き合いください!→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889494408


では改めて、皆さまが本作にエンカウントしてくださった事に感謝を。ありがとうございました!

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ぺんぎん×エンカウント 朝山なの @asayama_nano_90

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