49階

夢科緋辻

49階

 基本的に、僕はオカルトを信じない事にしている。

 目に見えないし、手で触れられない。人間の恐怖という感情が生み出した妄想。大昔ならいざ知らず、様々な怪奇現象が科学的、化学的に説明できるようになった今日で、まだオカルトを信じているヤツはよっぽどの空想家に違いない。


 とどのつまり、オカルトとは『逃げ』なのだ。


 人間は説明できない事には寛容になれない生き物である。考えて、考えて、どうしようもなくなった時にオカルトを持ち出す。僕から言わせれば、それはただの思考放棄でしかない。理解することを諦めて、考えることから逃げ出した末路。悪いけど、僕はそんなものに怖がるほど暇ではないのだ。


 分からないからこそ、怖い。

 理解できないからこそ、恐怖の入り込む余地が生まれる。


 ならば、考えてやればいい。

 人類の叡智とまではいかなくても、僕にだってオカルトに説明を付けられるくらいの頭脳はある。科学的な根拠がなくても、自分が納得できる解答へ辿り着くことくらいはしてやろう。考えることを止めて、オカルトに恐怖するような愚者になるつもりはない。


「……三文小説みたいなオチだな、この記事」


 七月も半分以上が経過したある日の夜。

 昼間に太陽が残していった熱に茹でられた夜闇の中、僕は帰路に就いていた。電車を降りていつも通りの道を歩いている。熱帯雨林かと思う程に湿度が高く、ただ歩くだけで額に汗が浮かんでくる。どうせ帰ったら洗濯機を回すのだ、カッターシャツの裾で拭ってやった。


 携帯端末の画面に表示されているのは怪談の特集記事だ。

 遊んでいる子どもだけが不可解な怪我をする公園がある。どうやらその公園で命を落とした子どもがいるらしく、楽しそうに遊ぶ子どもを嫉んでいる……という内容。どこかで聞いた事のあるような話で、期待してSNSのリンクを踏んだせいか大きく落胆してしまった。


 残念な気持ちのままページを閉じて、大きな欠伸をする。


 連日の残業によって僕の精神はかなり磨り減っていた。過去最高気温を更新したらしい気温も相まって全く疲れが取れてくれない。次の休日はずっと不貞寝してやろう。そう心に決めた。


 住んでいるマンションが見えてくる。塀に囲まれており、周りに植木鉢の置かれた門には大きな丸鏡が飾られていた。いつも思うが、何やら宗教的な儀式めいた門である。


「おや、こんな時間に帰宅かい?」


 マンションの敷地内に入ったところで、階段を降りてきた大家さんに出会った。つい先日七十三歳の誕生日を迎えたという元気なご老人。僕の住む八階建てのマンションの三階にご夫婦で住んでいる。時刻は午後十時になろうとしているのに全く眠そうな様子がなかった。


「どうも大家さん、こんばんは。最近仕事が忙しくて、いつもこんな時間なんです。大家さんこそ、こんな時間にどうしたんですか?」

「買い物じゃよ、日本酒を切らしてしまってな」


 ふぉふぉふぉ、と特徴的な笑い声と共に、皺を深くするように頬を持ち上げた。


「大家さん、階段を使うんですね。エレベーターがあるのに」

「……まあ、ちょっと訳があるんじゃよ。昔、ワシより前の管理人が大家をしていた頃……もう十年以上前になるか。エレベーターで事故が起きたらしい。故障して、相当危険な状態で停止したらしい。そして、業者の人が来る直前に墜落した。中に乗っていた女性は即死。どんな気分じゃったろうか、逃げ出すこともできずに死を待つだけというのは……」

「……事故の原因は何だったんですか?」

「整備不良と聞いておる。じゃが話はそこで終わらん。それから数年後、またもやエレベーターで人が死んだ。今度は事故じゃない、死因は心臓発作。健康体だった成人男性が何の前触れもなく変死したらしい。それから数年後、今度は女性が心臓発作で死んでおる。女の呪い……そんな事を言う連中もいたらしいぞ」


 少し、夜闇が濃くなった気がした。

 大家さんの低い声が、蒸し暑い空気を静かに揺らす。

 

「じゃが安心せい、ワシが大家になった数年前から一人も死人は出ておらん。エレベーターの整備だって万全じゃ。お前さんは安心して利用してくれ」

「そこまで対策をしてるのに、どうして大家さんは階段を?」

「うーん、やはり昔話を知っておるからどうも変な気がしてな。それに今日は特に縁起が悪い。時刻と、日付と、まあ色々な兼ね合いが最悪なんじゃ。――そうそう、縁起と言えばもう一つ」


 大家さんは渋い顔のまま、駐車場の一角を指した。


「駐車場のナンバーなんじゃが、実は4と9を飛ばして作ってある」

「……縁起が悪いからですか?」

「左様じゃ。死、あるいは、苦。漢字を使う文化圏では、この二つの数字の使用を避けることが多い。実際に車のナンバーにも使われていない、意図して指定しない限りはな。他にも、ほれ」


 今度はマンションの敷地の入口である門を指す。


「あの鏡も植物も、全て縁起を良くするために置いておる。風水じゃよ。実際にワシが来てからは事件も事故も起こっておらんからな、きっと良いが入ってきているのじゃろうな。こういうのは信じるからこそ意味を為す。じゃからワシは効果があると信じておるんじゃ」

「信じる……ですか?」

「そうじゃ。信じる、願う、祈る……他人に、あるいは何かに、縋ることで気持ちを奮い立たせる行為。これは神から叡智を授かった人間にだけ許された特権じゃて」


 分からない話ではなかった。

 文字列に、数字に、あるいはその他の要素に、人間という生き物は意味を持たせたがる。方角、色、動物、星座、画数……枚挙に暇がない。宗教や学問によって裏付けされた理論もあるのかもしれないが、それらは例外なく人間が生み出した勝手な理屈。体系化された科学とはほど遠い妄言禄でしかない。


 ――オカルトでしかない。


「僕には理解できない話ですね。4も、9も、僕からすればただの数字です。方程式を解くための大切な武器です。風水だって科学的な根拠は何もないじゃないですか。やっぱり、エレベーターの話だって、ただの迷信だとしか思えないですね」


 理解することを諦めた、考えることから逃げ出した末路。

 オカルトを持ち出すことは、思考放棄と同じである。


「それに、何かを信じるって気持ちも分かりません。信じるって行為は、言い換えれば自分を信じられないから、他の何かの力を借りるってこと。理屈がなくても構わない、ただ縋り付くものが欲しい。僕にはこの考え方が『逃げ』にしか思えないんです。本当に強い人は他の何かではなく、自分を信じているはずですから」

「ほぅ、随分と強気な若者じゃな。それに頭が痛くなるほど理屈っぽい」

「僕は理系人間ですからね。理論で実証されたものか、実際にこの目で見たものしか信じないことにしてるんです」

「そうかい、なら余計な話じゃったな」


 ふぉふぉふぉ、と笑いながら大家さんはマンションの敷地から歩いて出て行った。駅前のコンビニに行くのだろう。


「さて、僕もさっさと帰ろう」


 大きな欠伸をする。どうやら体力の限界が近いらしい。早くシャワーを浴びて汗を流し、冷蔵庫に冷えている生ビールを飲んで寝たい。脳内は酒の肴を何にするかという命題で埋まっていた。


 フラフラとした足取りで階段の隣にあるエレベーターの前に立つ。大家さんは縁起が悪いと言っていたが、そんな迷信に惑わされている余裕はなかった。一刻も早く家に帰りたい。ボタンを押して待つこと十数秒。上の階から誰も乗っていないエレベーターが降りてきた。


「(……まずいな、本当に眠い)」


 視界がぼやける。必死に気力を振り絞って、五階のボタンを押し――


「……?」


 違和感があった。

 ボタンの表記が変なのだ。位置的にどう考えても五階のボタン。それでも表示されていた数字は違った。両目を擦ってよく見てみる。


 49階。


「……な、」


 死、あるいは、苦。

 縁起の悪いとされる数字が、そこには並んでいた。


「 ヒヒ 」


 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。


 声が聞こえたから。

 女性のように甲高く、擦り切れたレコードのように掠れた笑い声が。


「 ヒヒ、ヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ 」


「――っ!?」


 振り返った僕は、言葉の出し方を忘れたように固まった。


 女がいた。

 白いワンピースをきた色の薄い女性。腰まで伸びる黒髪で顔が隠れており、すらりとした肢体は死体のように白い。そして、僕よりも背の高いその女性は、


 典型的な幽霊――オカルト。


「う、わあぁ――っ!!」


 僕は腰を抜かしてその場にへたり込む。狼狽してみっともなくエレベーターの角へと後退した。脳の奥で本能がガンガンと警鐘を鳴らす。顔から血の気が引いて、視界が真っ赤に染まった。

 ここに留まるのはまずい。そう直感した僕はエレベーターから出るために、『開』のボタンを押す。だがエレベーターはすでに上昇を始めていた。


 3……4……5……


 上がっていく数字を見ながら、僕は全てのボタンを乱暴に叩く。何でも良い、反応してくれ。そう念じてみても反応がない。整備会社と繋がる電話マークも長押ししてみたが、結果は同じだった。


「 無駄だよ 」


 耳元で声がした。

 吐息混じりの生暖かい空気の波が、直接鼓膜を揺らす。


「 あなたはもう逃げられない、私に殺されるんだよ 」


「ふざ、けるなっ!!」


 アドレナリンが分泌された僕の体は反射的に動いていた。持っていた通勤用の鞄を振り回す。ハンマー投げのように遠心力を帯びた凶器は、しかし女の顔面をすり抜けた。ガンッ!! とエレベーターの扉に当たって鈍い音が炸裂する。


 8……9……10……


 エレベーターが上昇していく感覚に苛まれながら、僕は尻餅をついて女を見上げた。長い前髪のせいで目許は見えない。それでも大きな唇を横に裂くような嘲笑だけはハッキリ見て取れた。


「 ようやく、ようやくよ。私は長い呪縛から解放される……! 」


 女は歓喜に震えていた。恍惚と頬を緩めて、唇の端を吊り上げる。


 13……14……15……


「 私はあなたを殺してここから出る。次はあなたの番、次の生け贄が来るまでここに永遠に閉じ込められる 」


 女の言っていることが理解できない。


 僕を、殺す?

 次の生け贄が来るまで、ここに閉じ込められる?


 18……19……20……


 「 これは呪いなの、死を掛けた椅子取りゲーム。敗者に当たられるのは、永遠の苦しみ 」


 加速する思考の中で浮かび上がるのは、先ほどの大家さんとの会話。

 エレベーターの事故と、その後に起きた変死。


 つまり、この女は数年前にエレベーターで変死した幽霊――?


 23……24……25……


「 私は苦しんだ、何日も、何週間も、何年も! この冷たい箱の中で苦しんできた! だから絶対にあなたは逃がさない……次の生け贄にしてあげる! 私が自由になるために! 」


 悦に浸った叫声が脳みそを引っ掻く。


 生け贄。

 その言葉を聞いた瞬間、心臓を握り潰されるような恐怖が全身をあわてた。


 どこからか吹き込む風が女の白いワンピースの裾を揺らし、僕の体に絡みつく。バクバクと痛い程の速度で脈を刻む鼓動。吐き気にも似た不快感が喉の奥から迫り上がってきた。


 28……29……30……


「……いや、だ」


 絞り出すように言った。


「いやだ……いやだ! 死にたくない、殺さないでくれっ!」

 

 幽霊相手に懇願する。感情のままに喚き散らす。気付けば視界が潤んでいた。情けなく、みっともなく、僕は全身全霊を掛けてお願いする。

 このままでは死ぬ――殺される。すでに数人が変死しているのだ、その一人に僕が加わってしまう。これは夢ではなく現実。必死に抗わなければ本当に命が終わる。


 33……34……35……


「 ダメ 」


 楽しそうに、女は告げた。

 まるで苦しむ僕を見てよろこんでいるようだった。


 38……39……40……


「 恨むなら、今日エレベーターに乗った自分にしてね。こんなに私達にとって都合の良い日はなかなかない。今日じゃなかったら表に出てこられないんだから 」


 濡れ羽色の長髪が意志を持ったように蠢く。クネクネと触手のように動いたそれらは、植物の生長を早送りするように伸びて狭い室内を埋め尽くしていった。


 41……42……43……


「いやだ、死にたくない! やめてくれ、許してくれっ!! 殺さないでくれっ!!」


 死――変死。

 心臓発作。


 明確な死のビジョンが脳裏を過ぎり、誰かに肩を揺さぶれているようにガクガクと体が震え始める。


 44……45……46……


「 ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! 」


 奇妙な笑い声が室内に響き渡る。

 恐怖に縛り付けられた僕は両手で頭を覆って踞ることしかできない。


 47……48……


 49


 チーン、と。

 到着を知らせる音が室内に響き渡った。


 背後でエレベーターの扉が開いていく。その先に広がっていたのは見知った景色だった。手すりに傘が立てかけられた廊下と、等間隔に並んだ扉。毎日見ている僕の日常が、早くこちらに来いと叫んでいた。


 逃げるなら今しかない。僕を殺そうとしている女の動きに注意しながら、僕はエレベーターの外へと抜け出――


「……っ」


 刹那、脳を走り抜けた違和感。

 輪郭も持たない曖昧な予感によって、僕の体は銅像のように硬直してしまう。


 どうして、女は僕に何もしてこない?

 女の目的は僕を殺すことだ。エレベーターの呪縛から脱出するためには、僕を次の生け贄として差し出すしかない。おそらく、この女もエレベーターで変死した誰かによって殺されているはず。その辺りの呪いのルールはしっかり理解しているのだろう。


「……、」


 女は不敵な笑みを浮かべて、僕を見詰めている――見詰めているだけ。

 何もしてくる気配がない。


「……そういう、ことか」

 

 外に出ようとしていた体をエレベーターの中に戻して、僕は女と向き合った。

 幽霊と――オカルトと対峙する。


「忘れていたよ、僕はオカルトを信じないことにしていたんだ」


 ここで逃げ出すことは、オカルトに屈するという事。

 思考を放棄する訳にはいかなかった。


「 どうしたの、早く逃げなさいよ! じゃなきゃ殺すわよ! 」


「そうかい、だったら僕を殺してみろよ。あんたが本当に僕を殺せるのならな」


 ぴくり、と女の頬が引きつった。


「僕を殺す隙なんていくらでもあった。僕があなたに気付く前、情けなく踞っている時、それに今だって、僕を殺すことはできるはずだ。鞄がすり抜けたんだ、僕から反撃することはできない。一方的に嬲り殺しにできるはずなのに、あなたは何もしてこない。そう、こうして話している今も!」


 分からないから、怖い。

 理解できないから、恐怖に入り込む余地が生まれる。


 だからこそ、考えるのだ。

 理屈を使って、姿なきオカルトに輪郭を与えろ。退屈な現実で恐怖を立証しろ。理解できる現象にしてしまえば、何も恐れることはないのだから。


「僕を殺さなかった……いや、僕を殺せなかった。だったら何か他に目的があるはず。そして、導き出される結論は一つしかない。あなたの目的、それは僕をエレベーターから下ろすことなんじゃないか? 49階という存在しないフロアに行かせることこそ、僕を生け贄にする条件なんじゃないか?」


 元々白かった女の顔が、更に蒼白に染まっていく。

 室内を埋め尽くす勢いで伸びた濡れ羽色の長髪が激しくうねった。逆上したように女が腕を振り回してくるけど、僕には当たらない。金切り声を上げながら必死の形相で襲い掛かってくるが、僕は涼しい顔のまま女を見返してやる。


「昔、このエレベーターで事故死した女性は、逃げ出すこともできずに、ただただ死を受け入れるしかなかった。だったら、自由にエレベーターから出て行ける人を羨んでもおかしくない。それが呪いの発端なら、エレベーターから出ていく人間こそ呪いの対象になるはずだ、違うか?」


 証拠を並べ立てた探偵のように、僕は我を忘れて暴れる女に宣言した。


「家の冷蔵庫で冷えたビールが待っているんだ。悪いが、僕はこの茶番から降りさせてもらうぜ幽霊オカルト!」


 硬く握った拳で、乱暴に『閉』のボタンを叩き付ける。ここから出るつもりはないという意志の表明。呪いのルールに対する正面からの反逆。


 女が絶叫する。


 エレベーターの扉が動きだし――やがて、完全に閉まった。


「――――――――っ!?」


 気付けば、僕はエレベーターの床にうつ伏せに倒れていた。

 ぐっしょりと全身に汗を掻いていること以外、特に変化している点はない。僕は重たい体を起こして顔を上げた。エレベーターに表示されてたのは五階。開いた扉の向こうには、見慣れた光景が広がっていた。


「……帰ろう」


 通勤鞄を拾って、僕はエレベーターを降りた。



        ×   ×   ×



「おや、お前さん。また会いましたな」


 翌日の午後十時。

 エレベーターの前に立つ僕を見つけた大家さんに話しかけられた。


「こんばんは、大家さん。今日も買い物ですか?」

「ふぉふぉふぉ、女房には内緒じゃぞ」

「分かっています。……ああ、丁度良かった。これを渡そうと思っていたんです」


 僕は鞄の中から手作りの人形を取り出して、不思議そうな顔をする大家さんに渡した。


「……これは?」

「魔除けの御守り、だそうです。駅前の商店街で買ってきました。是非とも大家さんに持っていて欲しいと思いまして」

「そうかい、有り難く頂戴させてもらおう。でもどういう風の吹き回しじゃ? 昨日はあれだけ風水を否定しておったのに」

「いえ、少しだけ考え方が変わりまして」


 僕は振り返ってエレベーターの扉を見詰める。


「分からないから、怖い。理解できないから、恐怖の入り込む余地が生まれる。だけど、それって悪いことだけじゃないって気付いたんです。何だか良く分からない物でも、誰かがそれに意味を見出せば、その人を安心させることができるんですから」


 不確かだから、科学的に証明されていないから、そこには思考の余地がある。

 分からないから、理解できないから、どこまでも人間にとって都合良く解釈できる。


 解明されないまま、理屈が付かないまま、放置された方がいい事もあるのかもしれない。願いや祈りといった行為は、きっと神様という存在が不確かで、人間には理解できないからこそ意味があるのだから。


 たまには、思考放棄も悪くない。


「僕はオカルトを信じないはずだったんですけどね……実際にこの目で見たものは認めざるを得ませんから。きっとその御守りは効果がありますよ、僕はそう

「……?」


 困惑に首を捻る大家さんを尻目に、僕はエレベーターのボタンを押す。

 そして、物言わぬ鉄の箱へと足を踏み入れて、五階を選択した。

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49階 夢科緋辻 @Yumesina

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