書籍化作家の原点となる大作

無料のweb小説でこんな大作が読めてしまっていいのだろうか、というのが率直な感想です。あるいは逆に、部数や売り上げに左右されない趣味の領域であるからこそ、これだけのものを自由に書き続けることができたのかもしれませんが。
どちらにしても、完結までにかけた意欲と熱量の高さとには、敬服するしかありません。

星の彼方より現れ、銀河に人類社会を広めたとされる原始の民と、その意志を継ぐスタージアン。精神感応的に《繋がる》一方で、同じ星系から出ることができない彼らはどこから来たのか。そして、彼らが伝承して恐れるオーグとは何か。
異なる5つの時代を描きながら、徐々に謎の核心へと近づいていく一大未来叙事詩です。

コメントによると、初めて書かれた小説とのこと。自分のことは棚に上げてしまいますが、その観点に立つと、確かに文章的な固さや粗さはところどころに感じられます。なにぶんにもスケールの大きな話を書こうとされているため、その気負いや力みが滲み出てしまっている、とするのが、より適切でしょうか。

とはいえ、それを差し引いても全体の構成は巧みですし、時系列の入れ替えによる情報開示のずらしも効いています。過去編に登場した人物が未来では歴史的な偉人になっていたり、先に経歴だけさらりと語られた人物が、時代をさかのぼって肉づけされたりする自在さには、大河ドラマのようなうねりと魅力を感じます。

何よりも、ラストシーンの美しさは、この物語を読み続けた者だけに与えられる、珠玉のSF体験といえるのではないでしょうか。

公募での受賞を経て、書籍デビューも果たされたという作者さんの、原点に触れられるという意味でも、一読してみる価値はあるかと思います。今後、商業でもこうした大作を手がけられることに期待も込めて。

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