蒼の瞳と、杏の瞳。

雪楠 潤

第1話

春は出会いの季節。

高校生活最後のクラス替えに心を躍らせている実梨みりは、いつも遅刻ギリギリだが、クラス替えの日は3本早い電車に乗って通学する。

「今年こそ、同じクラスに超絶イケメンな男子がいますように…!!」

ドキドキしながら教室に入る。

まだ教室には実梨を含め7人しかいなかった。

席について周りを見渡すと、いかにも学級委員を任されそうな女子や、恐らく野球部であろう男子数名が各々好きな事をしていた。

…話し掛ける隙がない。

知り合いがいれば声を掛けることは容易なのだが、残念なことに知り合いは誰もいなかった。

「あれ、実梨ちゃん?」

青空のような澄んだ声で名前を呼ばれた。

幼馴染の凪彩なぎさだ。

「凪彩!この教室ってことは、D組?」

「うん、知り合い少なくて..実梨ちゃんがいてすごく嬉しい!」

実梨は見た目が派手だからすぐに分かる、なんて凪彩に言われた。自分では派手かどうか分からないが、凪彩が言うならそうなのだろう。


そんな感じで話していると、担任が来た。

筋肉質な体育会系の男教師だ。

生徒1人1人と目を合わせるように教室を見渡し、彼は自己紹介を始めた。

「今日からお前達の担任になる

朱城秋人あかぎしゅうとだ。体育の授業で見た事ある奴もいると思う。1年間よろしくな。」

そう挨拶すると、朱城はクラス全員の名前を呼んだ。

実梨は名前を呼ばれ返事をするクラスメイト達を観察していた。

このクラスにイケメンがいるか、実梨にとっては重要な事だ。

「――山咲奏斗やまさきかなと。」

「はい。」

落ち着いた低い声、丁度いい白さの肌、切れ長で綺麗な蒼色の瞳。机に置いてある大きな水筒から推測するに、部活は運動部だろう。


HRが終わり、クラスの女子は連絡先の交換会を始めた。実梨も何人かと交換をした。

しかし、実梨が本当に交換したいのはクラスの女子では無い。教室の端で寝ている山咲が先程から気になって仕方がないのだ。

「凪彩ぁー、ウチこのクラスにイケメン見っけちゃったんだよねー。」

「実梨ちゃんのイケメンセンサーが反応する程のイケメン!?え、誰!?」

「声が大きいよ凪彩……あの端っこで寝てるヤツ、なんか気になるんだよね。」

実梨は遠くの山咲を指差し、凪彩に教えた。

「えーっと…誰だっけ??」

「山咲くん、凪彩と出席番号近いよ。」

凪彩は理解した様子で成程!と大きく手を叩いた。彼女は1つ1つの動きが大きい。

実梨は凪彩と話している間もちらりと山咲の方を気にしていた。


視線を送っていたのが気付かれたのか、目を覚ましたらしい山咲と目が合った。ヤバい。

山咲は実梨のことを不思議そうに見つめ、そして微笑んだ。微かに彼の唇が動くのが見える、「よろしく」そう言っているように見えた。

(奏斗くん、か…かっこよさげじゃん?)

実梨の杏色の瞳は、もう奏斗しか見えていなかった。


続く。

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