第10話 そして、私たちは空へ。

 数十分後、敵将兵全員を乗せたヘリを飛行空母の格納庫から送り出してから、ヨハンたちは艦橋に戻った。リーナは疲れ切った顔をしていた。何が起きたのか、ヨハンは不思議に思ったがリーナに飲み物を持っていってやるのを忘れなかった。リーナは艦橋の座席に深々と座り、自分たちの命令なしでは羊のようにおとなしい自動化兵器たちを見るともなく見つめていた。ヨハンが隣に腰を下ろして飲み物を差し出すと、リーナは小さな声で礼を言った。

「初めてだったの」

「何が?」

「『フットボール』を使ったのよ、さっき。私の体の中に埋め込まれていて、ほとんどのコンピュータを乗っ取れるの。ううん、本当はもっとすごいことだってできるわ。でも、今はこれで十分ね」

 そう言って、リーナは弱々しく微笑んだ。

「艦長が言っていた秘密ってこれのことなのか」

「ええ、そうなの」

 そこへ、他の同盟人たちがやって来た。皆同盟の士官制服を着ていたが、その中でも背が高い黒髪の若い男が目立っていた。他の男たちも彼を敬っているようだった。それもそのはず、男はゲン・キミツだったのだ。

 ヨハンは初めそれを信じられなかった。キミツは十五年前に『世界論』を書いている。今の年齢がせいぜい三十五なので、目の前の男がキミツならば二十歳前後であの大著を著したことになる。キミツは微笑んで、ヨハンの手を握りながらその通りだと言った。

「私は当時東京大学の学生だった。私はいささか優秀すぎたかもしれない。そう、あの本を書いたのは私さ」

 他の三人もアルテミスの乗組員で、それぞれ戦略士官のセルコ中佐、パイロットのモーラ少佐、陸戦部隊のエドワード大尉と名乗った。モーラ少佐は早速パイロット席に座ると、自動操縦を解除してセルコ中佐の指示を受けて針路を変更した。

「どこへ行くのです」

 ヨハンの問いかけにセルコが答えた。

「成層圏だ。連中の地対空レーザーの射程外に出る。ケッセル君、君は技師だな、副パイロット席に座ってくれ。モーラの援助を頼む。エドワードは砲術長の席へ。お嬢さんはそこでいい。さっきは助かったよ。礼を言う。キミツ博士は参謀席へお願いします」

 リーナはさっきより元気を取り戻したようで、セルコに大きく頷いてみせた。モーラが威勢のいい声でアナウンスをした。

「飛行母艦アトランティス、これより高度二十万フィートまで上昇」

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世界の明日を、君と。 安崎旅人 @RyojinAnzaki

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