3話「旅路」

「シーク様、朝のティータイムとでもいきませんか?」


「遠慮しとく」


「今日の紅茶はペソで採れた上質な茶葉で――」


「セバス、今の俺にはそんな余裕はない、早く代わりを見つけねばならない…」




「―――いっ!?」



 朝露が葉に滴り、幻想的な森を形作っている。


 小鳥が囀り、小動物は鳴く。


 そんな中、美しくない声が森を駆け抜ける。



「な、なんだよ……」


「私言ったよね?」



 頭に痛みを感じたルクトの脇に立っていたのは、眉を寄せながら不機嫌そうにしているキバであった。



「何を言ったって?」


「てか、なんか血ついてるけど」



 キバは人差し指で自分の鼻の下を指し、ここに、と教えてあげる。



「あ! 思い出した」


「何をですか?」



 先程から不機嫌なキバ氏は敬語を使ってもっと威圧をかけてくる。



「い、いえ何でもないです……それで話というのは……」


「話というのは? じゃないわよ……!」


「なんか、ごめん」


「ルクト、摩り火消してねっていう約束覚えてる?」


「あ」



 ルクトは思い出した。


 あの時気絶したから消さずに朝を迎えてしまったんだ、とルクトは納得する。



「い、いや約束は忘れてないよ!」


「摩り火の魔力が全部なくなってるの、ルクトのせいでしょ?」


「ご、ごめんなさい!」



 するとにこにこと怖い笑を浮かべたキバが近づいてきて、片手を振り上げたかと思えば―――



「さぁ、ここから近い村『メーデル』に行きましょう!」


「うぅ……」


「1発で許してあげたんだから感謝してほしいわね」


「殴られたら感謝できねーよ……」



 ルクトは頭を抑えながら、トボトボとキバの後ろを付いていく。


 キバはまじまじと魔力の無くなった抜け殻の摩り火を眺めていた。



「そもそも、本気じゃないんだからね 本気だったらルクトは瀕死くらいなってるでしょうね」


「そんな馬鹿力どこから出てくるんだよ……ああ、痛い」


「忘れてない? 私は鬼神の使い手、鬼神は一点にパワーを集中させたり自身の魔力をエネルギーにして攻撃できるのよ」



 そうなのか、と頷くルクトとキバは顔を出し始めた太陽を背に『メーデル』へと進んでいく。



「なぁ、キバ そもそもシークリティ? だっけそのアジトは掴めてるのか?」


「掴めてないわ」


「じゃあ俺達はどこに向かって冒険するんだよ」


「そんなのどこだっていいわ」



 歩きながら二人は前と後ろで話す。


 話しながらルクトは今の一言に困惑した。


 当然であろう、目的地が分からなければ途方に暮れるだけルクトはそう考えていた。



「簡単に言えば『武器屋に行きたい、だけど場所が分からない状態』だぞ」


「歩きながら、探すの」


「そんな武器屋のように簡単に見つからないだろ」


「私、旅に目的地はなくていいと思う」


「じゃあ、なんで旅をするんだ」


「目的のため」



 ルクトはこの話が矛盾してることにキバは気がついていないのかと、見下すような目で見ていた。



「キバ、目的のために旅するんだったら目的地がなくちゃダメだろ。 矛盾してるぜ」


「矛盾? してないわ、私達の目的は『誘拐された人を助ける』って事、アジトに行くという目的だったら、確かにアジトという目的地が必要だけど『誘拐された人を助ける』ためだったら、アジトに居るかも分からないんだし目的地を決める必要は無いんじゃないの?」



 ルクトは混乱していた。


 苦手なのだ、好きでもない話を長々と聞くのが。


 ましてや、口論など勝てるはずもなく幼い頃はすぐ暴力に走っていた。



「すまん、無理だ」


「剣が欲しいって人がいたら、武器屋で買わなくても自分で作れば剣を手に入れられるでしょ、そういうこと」


「わ、わかりやすい!!」


「私達が目指すのは、シークリティのアジトじゃなくて誘拐されている牢獄ね」



 そういうと、二人はその足を早めて次の村へと歩いていく。




「なぁ、キバ腹減った」


「次の町まで我慢だね」


「俺、昨日の夜もろくに食ってないのに!」


「あ、背中に食べ物たくさん背負ってるじゃん」


「酸っぱくて食えんわ!」



 森の景色が続いていた中、二人の視界が急に開けた。


 そこにあったのは小さな妖精の村『メーデル』だった。


 アーチ状の門があり奥には教会のような場所、そこに続くまでには家が何十軒も建っていた。


 言わば、教会を城としたら城下町のように村が広がっていた。



「思ったより小さいんだな、それより腹減った」


「妖精の小さな町みたいよ」



 二人は大きなアーチの下を通り教会の方に進もうとした時。



「冒険者のお方!」



 小さな声が聞こえたかと思うと、声の主は教会の方からこちらにすごい勢いで走ってきた。



「な、なんだあれ! こ、こっちきてないか!?」


「この村の人でしょ」



 この村の人と思われる老父が近づいてきた。


 背は小さく、小太りな妖精であった。



「ぜえぜえ、冒険者のお方…」


「なんで羽を使わないんですか?」


「あ、羽があったんだった」



 その妖精には羽が生えており、背骨を真ん中に左右に二枚ずつ上と下に、計四枚生えていた。



「で、どうして走ってきたの?」


「お、お綺麗なお方!」


「お、おい……」


「あ! た、助けて欲しいんです!」




「バジリスクの手から私たちを救ってくれませんか?」


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