第10話

 こうなるはずじゃなかった。目の前はひらけた場所なのだ。なのにどこにも姿が見えない。しかも雨の音が木々を駆け巡る。何も分からない。


「・・・どこだ」


「・・・ここだよ」


「・・・!」


 咄嗟に動こうとしたが既に遅かった。首に何かを注射され身体の力がスーッと抜けた。


「さぁて、ご飯を・・・」


 そこから先の記憶はない。俺は死んだと思った。


「・・・動きが止まった」


「え?」


「どこで止まった?」


「・・・ダムの上」


「なんでそんな場所で止まるんだ?」


「分からないけど、周りから見える場所たから捕まったんじゃないかな」


「・・・なら、近くまで行って確認しようか」


「・・・いや。もう・・・」


 既に行ってしまった2人。


 ────これじゃあ、ダメですよね。


 それを判断する人はもういない。判断をつけられない人間。それが俺、ステファン・フォルタンだ。


 過去の話はおいおいとして、まずはアレクサンドルを助けなければならない。


俺はタブレットを使い、様々な可能性を探った。このタブレットで判断をしているのだ。


 この中に組み込まれたAIはボトムアップ型である。しかも俺の元相方と同じように考えてくれる。


 アレクサンドルのGPS情報を頼りに接近した。


「・・・アレクサンドル」


「私が行くわ」


「・・・分かった」


 この中で1番強いのはミシェルのはずだ。彼女が1番適任である。


「いや、俺が行く」


 それを引き留めるとは思ってなかった。確かに1番不確定要素が多いのはエリックだ。しかし、ここで彼を使うのは博打にも程がある。


「・・・ここは全員で行こう」


 すると後ろから急接近してくる反応があった。


「いや、お前らは待っていろ」


「ダミアン・・・!?」


「すまん、お前らを尾けてた」


「ダミアン、まずはアレクサンドルを・・・!」


「あぁ。大丈夫だ。みてみろ」


 指をさしたとこにはさっきのおっちゃんがいた。


「え・・・! なんであんな所に居るんだ?」


「あいつなら大丈夫だ」


「でも・・・!」


 その途端、おっちゃんは見えなくなった。


「あれ? どこに・・・」


「・・・ここだよ」


「うわ!?」


「彼は、俺の元先輩のアベラールだ」


「今まで黙っててすまんな」


「とりあえず、起こしてもらえますか?」


 初めてダミアンが敬語を使っていた。


「あぁ、わすれてた」


 すると注射器を取り出して、ぷつっと薬をアレクサンドルの体内に注入したその途端・・・!


「誰だ!?」


「おはよう、アレクサンドル君?」


「・・・お、おはようごz」


「馬鹿野郎! 何で一人で突っ込んだ!」


 それは彼の魂からの叫びだった。今までに無いくらいのしかり方だったという。


「ごめんなさい・・・」


そして、


「よく無事で居てくれた!」


アレクサンドルはその言葉で泣き崩れた。


「今度は無茶はしないよ」


「当たり前だ!」


 その言葉とは裏腹に涙を流し続けるダミアンだった。


 林を抜け、町に出ると雨もやみ空には虹がかかっていた。


「虹だ!」


「あぁ」


「お前らはまだまだ訓練が必要だな」


 虹がかかっていたのにそれを打ち消すくらいの言葉だった。


「それじゃあ、帰ったらまずは飯だな」


「「はーい!」」


 俺たちの偵察兵バーサーカーの物語はまだまだ始まったばかりである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バーサーカー 囲会多マッキー @makky20030217

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ