◎異世界落語◎エルフェッショナル 異世界エルフヒロインの流儀

北乃ガラナ

変わらぬ目


蜂蜜酒さけをもてい!」


「……また、そんなに酔っ払って帰ってきて……さきにご飯にしたら? 用意しといた」 


「どうせ野菜ばっかの薄味だろ! そんなもん食えるかい!」


「しょっぱいのは、身体にわるいのに……」


「うっさーい! さきに蜂蜜酒さけだ! 蜂蜜酒さけ!」


「しかたないなぁ……ハイ。どうぞ」


「って、オイ! 蜂蜜酒さけだけかよ! 酒といえばつまみでしょうが! なにかあんだろ? つまみだせよつまみ!」


「フン。なら、そのひくい鼻でもつまめば?」


「お、いうねぇ。なら……おまえの長い耳でもつまんでやる。うりゃうりゃ」


「!? や、やめてよね!」


「ほんと変わらないな、おまえは。出会ったときのまんまだ……」


「だって……エルフだし」


「ここも、ちっともかわらねぇなぁ! うひゃひゃ」


 胸をわしゃわしゃする。服の布地ごしにひかえめな弾力。


「――ッ!? ばかっ! ばか勇者! 酔っ払い!!」


 むくれるエルフ。――キッとオレを睨むそのグリーンも、むかしのまんまだ。


 すこし間があって、エルフが外行きの支度をはじめた。


「もう……。じゃあ、いってくるね。自警団の会合に。近くの森にゴブリン達が棲みついたらしいから……。身体にわるいから、あまり飲まないこと」


「おう! いけいけ! そのままかえってくるな! いっそのこと森に帰れい! コノヤロー! 耳長族エルフめ! はっはは……」


「…………」


「行っちまったか……ふう。さすがに、ちぃっと飲み過ぎちまったな。それにしても…………ありがてえもんだよ」


「…………」


「なんのかんのいって、あいつはよくやってくれているよ。陽が落ちてしばらくしているのに待っていてくれて。いつ帰ってくるのかも、わからないのに……。飯だってそうだよ。きちんと毎日用意してさ。薄味っていっても、昔にくらべてだいぶ濃いめになったよ。あいつにしてみたら、しょっぱくてくえたもんじゃないだろうに。こんなオレに合わせて……。今日もオレの代わりに自警団の会合だとさ……。村人が会うとよく言うよ『奥様いつまでも可愛いままですね』って。ほんとだよ。マジでだよ。エルフだよ。それに比べてオレはどうだ……すっかり年とっちまってさ……。魔王を倒して、はや数十年。さいきんは鎧はおろか、剣すら重いよ……。白髪もまじって……。ほんとに、こんな飲んだくれ勇者によくつきあってくれているよ。夜中トイレにおきるとさ、隣にエルフが寝てるんだよ。そのたびに寝顔を見て思うよ。これは夢なんじゃないだろうか? なんて可憐なんだろう……愛おしいな、って。いつも感謝だよ。あいつの背中に向かって心の中で手を合わせてるからね。あ、きゅうに不安になってきた。……いつ捨てられるかと思うと気が気じゃない。……どうかオレを捨てないでください! いつまでも側にいてください! さっきは『森に帰っちまえ!』なんていったけど……ほんとうに帰られたら、オレぜったい生きてけないよ…………。――って、オイ! 透明化の魔法インビジブルかよ! まだそこに居たのかよ!!」 

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