俺が動くか、奴が動くか
森 椋鳥
時を待つ
夜も更け、世間は寝静まった頃。
俺はこたつ机を目の前にして、正座をしていた。
「はぁ、はぁ」
小さな呼吸を繰り返して、スボンをぎゅっと握る。
まだか、まだだろう。そんな脳内の葛藤をずっとしている気がする。
俺は今「五分」待たなければいけない。
決してこの場から動くこともできない。
ずっと正座をして、時がたつのを待つのだ。
奴が動くか、俺が先に動くか、これは勝負とも言えよう。
時計を見ろ?
唯一部屋にあった目覚まし時計は、朝俺が寝ぼけてベッドから床へダイブさせた衝撃で壊れてしまった。
タイマーを使え?
我が家にそんなものはない。
え、スマホにタイマー機能がある?
……その発想はなかった。ほら、俺機械音痴だから。いまだにガラケーだし。
だが、時すでに遅し。もう何分、何秒たったかも不明だ。
テレビを見ればよかったじゃんって?
時すでに遅し!!!!
……でも本当に、何分たったのだろう。
相手を目の前にし、静かに汗が頬をつたう。
なぜ、なぜ「五分」なのだ。世間では「三分」が主流だろ?
ほら、有名なキャラクターも「三分間」待っててくれたじゃないか。
「五分」って長いよな。なんで「五分」?
……もういいかな?もうたったよな?
いや、まだのような。でもこれですでにたってて、最悪の状態だったら?
奴がもう行動を開始してたら?あのもちもち感が感じられ無くなってたら?
ぐるぐると脳が混乱し始める。
やっぱり正確なのが一番いいものができる。そんなの当たり前だ。
しかし、何度も言うが時すでに遅し!
「もう、無理だ!」
そう言って俺は机の上のカップ麺へと手を伸ばした。
なんでよりにもよって「五分」待ちのうどんを買ってしまったのだろう。
「三分」ならすぐに食べられたのに!
昼から何も食べてない俺には我慢することがキツかった!
でも自業自得だから何も言うまい!
ぺりぺりと蓋を開けた瞬間に、鰹節の香りが広がった。
最高の瞬間だ。俺はこの時を待ち望んでいた。
今の俺はキラキラと目を輝かせ、それはそれは純粋な少年の瞳をしているだろう。
何年たってもこの瞬間はたまらない。
割り箸を使いチュルチュルと口に麺を運ぶと、硬さも申し分ない。
最高、その一言に尽きる。
便利機器がなくとも、俺は自分にとって最高の出来の食事をすることができた。
「あぁ〜、五分ぴったりの出来な気がする!」
俺は満面の笑みを浮かべて、残りの汁をすすった。
俺が動くか、奴が動くか 森 椋鳥 @mu-ku
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